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ココロコネクト 11巻の途中まで
部活動が活発でどこかに参加必須な私立山星高校で、既存のどの部活にもなじまなかった五人の男女が「文化研究部」をでっちあげてゆるく活動していたが、謎の存在<ふうせんかずら>の実験に選ばれ、仲良し五人組の友情が試される。ライトノベルシリーズ。

2012年の秋にアニメ化されたのを見てとても面白く、2012年のベストアニメなんじゃないかとさえ思ったので、これは原作も読まないとと思って既刊を全部読んだのがいつだったか忘れたけれど、次の巻が本編最終話だというからそれを読むまでレビューを書くのを待っていたら、いつのまにか全部出て完結していたのでようやくレビューを書けるようになった。全部読んでないんだけど。

この作品の特徴は、仲良し五人組+αに「人格入れ替わり」などの超常現象的な試練が降りかかり、乗り越えようとするうちに仲が深まり人間として成長していくという青春物語である点だと思う。

一巻がその「人格入れ替わり」で、ランダムに五人の間で短時間だけ中身が入れ替わるというまるでマンガみたいな話。でも実際なってみると深刻で洒落にならない事態になるという思考実験みたいな。男同志だけじゃなく当然男と女も入れ替わる。トイレみたいな下の問題もあれば、人に知られたくない秘密もあって、友情にひびが入っていく。

五人の内訳は男二人と女三人。実質的な主人公格の八重樫太一は、すすんで人のために役立とうとする献身的な男なので誰からも頼られる。こいつと悪からぬ仲なのが学校一の美少女で奔放な魅力を持つ永瀬伊織。一方、チャラい青木義文は、小柄で快活な桐山唯に惚れて何度も求愛して断られ続けるがめげない。五人のリーダー各の稲葉姫子は女なのに男言葉を多用して相手をたじろがせる切れ長の目を持つ美人。

リア充爆発しろ。

自分はこの作品が好きなのだけど言わせてもらうと、この設定は無理がありすぎだと思う。こんなにキャラの立った五人が訳の分からない部活に集まるはずがない。まあでも五人には五人なりの問題点があって、他の人を自然と遠ざけていたのかもしれない。話が進むにつれてそれが明かされていく。

一巻は極限状態に置かれた五人のうちの一人に悲劇が訪れるということで盛り上がって終わるのだけど、逆に言えばそれだけの話だった。でもやっぱり死がほのめかされると感動的になる。あと、人が秘密にしたいことが暴露されそうになって慌てるのを見る喜びが味わえる。

二巻は「欲望解放」で、思ったことを突然実行したくなる現象がランダムに起きる。当然人間関係がギスギスする。男性恐怖症で昔空手をやっていた小柄な少女の桐山唯が、ちょっかいをかけてきた他校の男子学生に暴力をふるってしまい落ち込んで不登校になるのを、ずっと好きだった青木義文が立ち直らせようとする。また、普段男勝りな稲葉姫子が秘密をバラされて慌てる。このエピソードが一番好き。この作品で一番人気のキャラが彼女らしい。自分も大好き。最初にアニメで見たときはかわいすぎて萌え死んだ。声優の沢城みゆきまで好きになった。

三巻は「時間退行」で、ランダムで一定時間誰かが若返る。つまり子供になる。各メンバーの子供の頃の様子が描かれてキャラ描写に深みが出る。でも話の展開としては若返った人が元に戻るまでどうやってかくまうかという点しかなくて単調。

このへんまではなんだかんだでバランスのいい青春物語って感じ。ここから先の巻ではちょっと踏み込んで、人の負の面へと踏み込んでいく。ちなみにアニメ版で地上波で放映されたのはここまで。

四巻は「感情伝導」で、感情がランダムで周りの人に伝わる。ここで、五人の中で実は一番人に見せたくない感情が渦巻いていた学校一の美少女の永瀬伊織が絶望し、他のメンバーとのコミュニケーションを拒絶するようになる。それは彼女の家庭環境からくるものだった。とてもいい話だと思うのだけど、永瀬伊織のあまりの拒絶っぷりには引いた。最終的には持ち直すのだけど暗い話。なんかもうちょっとなんとかできなかったんだろうか。

五巻は「幻想投影」で、前の巻よりもさらに暗い話。何者かが誰かになりすまして非道なことをしてかき回す。本当に暗いのはその何者かの正体が分かったとき。ちょっとこれどうなんだろうって思った。誰かが意図的にやっているせいか、ひどいことがあんまり面白い展開に結びつかない。いや、稲葉姫子が半裸にさせられるという超おいしいシーンがあるか。

六巻は「夢中透視」で、いま気付いたけど前巻とは正反対で、今度は自分たちが誰かに望むことをしてあげようという話。ランダムで人の望みが分かってしまうので、その力を最大限に利用して人のためになろう、いやそんな力なんて使うべきじゃない、と五人が分裂する。ここでまさかの不動の善人である八重樫太一の問題が明らかになる。

最終巻は実験を終えた謎の存在がすべてを手じまいにしようとする話で、五人組以外のいくつかのグループに同時にそれぞれ別の現象を仕掛けたり、五人組を含めた全員のこれまでの現象についての記憶を消す前に最後に壮大な実験をしようとするのに立ち向かう。あまりにつまらなくて途中で読む気をなくしたのだけど、我慢して読んでいるうちに一応結末が気になるようになってきて読了することができた。イケメン生徒会長の香取を中心にした生徒会と五人組が対立して戦う。

四巻から六巻は作者のやりたかったことに技量が追い付いていないと思う。単に自分が読み取れていないだけかもしれないけれど、もし多くの人に受け入れられていたらアニメ版はOVAじゃなくて地上波で1クール分の二期をやれていたと思うし、四巻で焦点の当たる永瀬伊織がもっと人気でていたと思う。

五巻で新登場した下級生二人組もいまいちで、中性的で不器用な男の子の宇和千尋はまだいいけれど、八重樫太一の声が好きでそれを臆面もなくぶつけてくる「ポワポワした」女子の円城寺紫乃がほんとありえない。悪い意味でアニメ的で萎えた。

六巻の八重樫太一の問題は難しすぎて分かりにくい。もっと整理してスッキリさせてほしかった。いやまあ、これがなぜ問題なのかというのを最後まで引っ張っているから途中まで分かりにくいのは多分作者の狙いどおりなのだけど、そのせいで最後までいっても微妙になってしまっていると思う。

最終巻はシリーズ全体の結末をつけることに注力しすぎているのか、この巻ならではのテーマが弱いと思う。一応最後に五人組はある重要な事実に気付いて行動するのだけど、その重要性があまり浮き彫りになっていないと思う。あと、あれだけ人間を振り回していた謎の存在について何の種明かしも寓意もないまま終わってしまう。それだったら最初からこいつらに人格なんて持たせなければよかったのに。

一言で言えば教条的というか、地の文でやたら説教がましくなっていく。きっと地の文はその時々で一人称をとっている人物が想いを語っているのだと思うのだけど、なんだかそれが一人の人間の気持ちではなくて世の中こうあるべきなんだみたいな主張のように聞こえてくる。洗脳されそうになる。

あとうっとうしいのが、厳しい現実を描く一方で、都合のいい夢物語も同居していること。「○○は△△の彼氏なのだ」みたいな文とともに、恋人同士の生ぬるい会話が出てきて、いちゃこらする。男女だけでなく、仲のいい同性同士の友情の会話なんかも同様で、互いが互いを分かり切っているかのような関係でショートコントみたいなやりとりが繰り広げられるけれど全然笑えない。ちょっと読者に寄りかかりすぎだと思う。シリーズが進むにつれてそういうやりとりが増えていく。

脇役(?)の中で一番の重要人物である藤島麻衣子は学級委員長で行動力があって五人組にズバズバと関わってくる面白い人なんだけど、自分に自信があるせいかちょっと自己完結気味でうざい性格をしている。結構好きなキャラなんだけど、作為的すぎてちょっと不自然な感じがする。そう、なんていうか、舞台芸術的っていうんだろうか、わざとらしいキャラが脇役に目立つんだよなあ。

そんなわけで、最初はとても面白く読めていた作品が、徐々につまらなくなっていって、ついには最後の短編集の途中で読んでいられなくなって放り出してしまった。カップルバトルロイヤルの話で。

三巻までなら多くの人が楽しめると思う。それでこの五人と作品世界が大好きになったら六巻まで楽しめるんじゃないだろうか。でも最終巻はたぶん誰が読んでもいまいちだと思う。特に下巻の冒頭で作者が一人で感極まって書いたかのようなレトリックべたべたの描写は読んでいてイライラした。竹宮ゆゆこ「とらドラ!」の最終巻を思い出した。でもここまで読んだら最後まで読まずにはいられないもんなあ。
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