じっくり学ぼう!日本近現代史 |
憲政史が専門の歴史学者・倉山満が、種子島でのポルトガル人との接触の頃の世界史から日本の近現代史を面白おかしく解説したYouTube上のチャンネルというか動画集。
2ちゃんねるのニュース速報板+を見ていたら、薩英戦争は実はイギリス側の方が戦死者が多かったという書き込みを見て、信じられなくなってWikipediaを見てみたら本当にその通りで、さらに調べてみたら何かのまとめブログでこのYouTubeの動画集へのリンクが張られていたので見てみたらすごく面白くて結局全120本の動画を完走してしまった。
とりあえず薩英戦争の話だけ先に片付けておくと、そもそもの発端は薩摩藩の大名行列を横切ったイギリス人三人が殺傷された事件が元になり、当時世界最強の大英帝国から砲艦外交で突き上げられた江戸幕府は賠償金を払って解決したのだけど、そのときの大英帝国の艦隊が帰りがけに薩摩にも寄ってさらに賠償金をせしめようとしていたらしい。そこで薩摩藩は大英帝国の使者に城に来いと言って待ち伏せしたがイギリス側は罠だと気付いたのか来ず、そのまま艦砲と砲台との撃ち合いになった。薩摩藩の大砲は旧式だったけれど、なんとイギリス艦隊の旗艦の司令室に命中させて敵司令官たちを殺してしまった。つまり戦術的には勝利していたのだった。しかしあとが続かないだろうからと賠償金を払って和平したのだけど、その賠償金は江戸幕府から全額借りていて、しかもその借金は結局踏み倒したのだという。
というような興味深いエピソードを、中央大学の弁論部出身の若い歴史学者・倉山満が、面白おかしく解説していた。この回だと「いまで言うと千葉県対アメリカみたいなもの」などと例えつつ、歴史教科書に出てくる薩長土肥や幕府側の有名人をデフォルメして演じて、当時の出来事をとても分かりやすく説明している。一本の動画は大体15分前後なので気軽に見られる。
自分が一番面白かったのは功山寺挙兵の話だった。こっちは長州の話で、長州藩は一度ボコボコにされるのだけど、日和った長州藩を憂えた高杉晋作が立ち上がって無謀な反乱を起こして成功させてしまう。高杉晋作といえば奇兵隊なのだけど、そのときちょうど奇兵隊を山縣有朋に預けていたので決起を渋られ、結局最初に集まった伊藤博文らに呼びかけてたった数十人で今で言う自衛隊の基地みたいな場所を襲撃したらしい。で、長州藩が列強の真似をして作った軍艦まで奪い、奇兵隊も合流し、長州藩の守旧派を一掃した。このとき足踏みした山縣有朋に対して最初に駆けつけた伊藤博文はのちのちに至るまでこの功山寺決起の話を持ち出して山縣有朋にネチネチと言っていたらしい。
明治維新に関して言うと、薩長土肥と幕府のほかに天皇のいる京都でのいわゆる宮廷工作の実態だとか、経済や列強の圧力に対する幕府の老中たちの政策の真実みたいなものを分かりやすくフリップを使って名調子で解説している。自分はこのあたりの歴史についてはあんまり知らないのでその点については評価出来ないのだけど、見ていてとても納得させられたし面白かった。
その後は、幕府がなくなったあとで日本の政治がどうなったかというのを説明している。明治維新というのは大政奉還つまり幕府から天皇へ政治の権力を戻せという大義名分で行われたわけなのだけど、政治というのは権力争いなので要は討幕した薩長土肥に権力がわたることになる。しかし世界を見ると列強が次々に世界そしてアジアを侵略していっている。薩摩の殿様はこれで自分たちが天下を取ったのだから権威をふるわせろと言うわけだけど、維新を成し遂げた若手たちは日本の危機を知っているのでそうはさせまいと列強に負けない国づくりをしていく。そこで列強を手本に憲法を導入し、将軍でも天皇でも藩主でもない力で国を動かせるよう憲政の仕組みを整えようとする。
いちいち説明しているときりがないのでまとめると、その後は日清・日露戦争を経て、第一次世界大戦、第二次世界大戦で敗戦するまでを近代編としている。日清戦争での朝鮮をめぐる綱引きや、当時のヨーロッパの政治力学をしばらく説明したあとでその流れでロシアが極東に目を向けたことだとか、日本が大国にのし上がっていくまでの話が面白かった。太平洋戦争について言うと(倉山満に言わせると太平洋「戦線」が正しいとのこと)、日本はちゃんとやっていれば勝てていたのだという。普通に考えるとアメリカの物量の前には何をやっても勝てなかったと思っていたのだけど、解説を聞くとやっぱり勝てたんじゃないかと思うようになった。
現代編で話が戦後に移ると、実は戦時中よりも戦後の占領期こそが総力戦の本番なのだということで、アメリカの占領政策と日本の抵抗の過程を解説している。アメリカがいかに検閲し圧力を掛けて日本を骨抜きにしていったのかがよく分かる。特に事実上の憲法の押しつけは重大な国際法違反だし、これに限らずもちろん戦時中の民間人虐殺も含めてアメリカがいかに国際法を無視してきたのか、いままで個別の事象については知っていたのだけど、ここまで点と点を線で結びつけて明快に解説してみせたのはとても爽快だった。病院船だと分かっていて平気で撃沈したというので赤十字が激怒したとか具体的なエピソードを挙げている。また、日本で暴走したのは軍部でなくマスメディアや民間人であり、その背後でソ連や中国のスパイが操っていたといっている。
ちなみに倉山満はナチスドイツについては悪く言っている。日本を無視してソ連と開戦したといった戦略的な面だけでなく、ユダヤ人を百万人ほど虐殺したという史観で語っている。一応ヒトラーはユダヤ人をソ連に移住させようとしたと言っていたけれど、ホロコースト自体は否定していなかった。自分はホロコースト否定論者なのでこの点はどうかと思ったけれど、仮にこの人が否定論者だとしても国士舘大学の講師をやっていていくつも本を出版しているプロの歴史学者なので、今の国際常識から言えば本音を言うのは不可能だと思う。一応自分の考えを簡潔に述べておくと、ユダヤ人を虐殺することには大したメリットはないし、結果だけ見るとナチスドイツがユダヤ人を強制収容所に収容したことによって数十万人が死んだのは事実だけど、連合国側が補給線を無茶苦茶にしたのが大きな理由だと思う。まあそれが総力戦というのものなのかもしれないけれど、もし逆にアメリカが負けていたら日本人を収容した強制収容所では数万人が栄養不足と疫病で死んでいたかもしれないし、それをもってアメリカは日本人を絶滅させようとしたと言われていたかもしれない。
占領期が終わり、沖縄駐留や最初の日米安保といった時代から日本が主権を回復していくまでの政治の動きを追い、さらには高度成長や自民党の派閥政治といったことにまで話が及んでいく。自分はだんだん興味を失っていったのだけど、それでも倉山満の政治家をデフォルメしたどころか物まねまで交えての解説は面白かった。下手な若手芸人よりも安定していて面白い。
忘れてはいけないのが聞き手の存在で、神谷宗幣という若手政治家が相手を務めている。この人は龍馬プロジェクトという若手政治家団体を率いている人で、大阪府吹田市の市議会議員をやっていたものの、大阪維新の会が旋風を起こしていたときに自民党から国政選挙に打って出て敗れて失職中らしい。ちなみに先日の衆議院選挙では自民党から立候補させてもらえず、違う人が自民党で当選しているみたいだった。大学で史学を勉強してから高校の先生を少しやったものの法科大学院で法律を勉強してから政治家に転身している。ちょっと滑舌が悪いのが気になったけれど、ベビーフェイスで人当たりが良さそうで、史学もやっているので倉山満の話にも多少はついてこれていて、聞き手としてなかなかいい人だと思った。こういう人が自分の選挙区にいたら投票するんだけどなあ。
もっと批判もしておくと、前回のおさらいに割と時間を割いているので、連続で見ていると同じ内容を見ることになってちょっとうっとうしい。また、「じっくり学ぼう!」なのだけど、やっぱりあまり一つ一つのことに時間をかけることが出来ないので詰め込みになったり飛ばされたりしている。あと、随所で自分の著書やイベントを宣伝していて、そのたびに「これは『マ』です。ステマ(ステルスマーケティング)ではありません」などとニヤニヤしながら断りを入れているのは、お茶目なのだけど腹が立つ人もいると思う。自分はまんまと乗せられて(?)著書を三冊ポチったのでいずれ読んで内容を紹介したい。
とりあえず全120回のタイトルを見てみて、面白そうなところだけつまみ食いしてみるといいと思う。たとえば日露戦争のところだけとか、第二次世界大戦の最初の方の回とか。
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