人類は衰退しました 9 |
月旅行に行ったまま音信不通になってしまったおじいさんを助けに行くため、普段そんなキャラじゃない主人公の女の子が月へ行こうと発奮する。そんな中で彼女は、人類と妖精との初めての出会いからその後の歴史を白昼夢のように見る。教養的なライトノベルシリーズの本編最終巻。
軌道エレベータが出てくる。日本のどっかの大手ゼネコンが将来の計画として最近掲げていたのでちょっとタイムリーな話題なのだけど、この作品では実現の可能性とか細かい理屈は省いて、あくまでなぞるだけに留まっている。もう人類にはそんな技術は失われている世界だし。
じゃあなぜそんな打ち捨てられた施設が使えるのかというと、主人公の女の子の眉がなんか太くなってやる気モードになってバリバリ修復したから。これも妖精さんパワー?この巻の彼女はトランス状態になっているときが長くて、おじいさんと夢の中で対話したり、夢の中で銀河鉄道っぽいものに乗って人類と妖精との歴史を辿る心の旅をしたりする。最終巻にふさわしい内容だなあと思った。
3巻で都市の遺跡を彷徨ったときのような、しかも今度はみんなの反対を振り切ってたった一人で月へとおもむく主人公の孤独な旅がしんみりとする。そしてその旅の終わりも。
でも結末はほっこりというか、彼女たちの生活は続いていくんだなあ、という終わり方でほっとした。
とまあこんな風に紹介すると、このシリーズはとても面白いかのように聞こえるだろうし、書評ってのはこういう書き方が正しいんだろうけれど、それをあえて空気を読まずに本音を言わせてもらうと、結局ついにこの作品に愛着を抱けなかった。5巻の過去編がすごく面白かったのを例外にして、全編を通じてところどころに鋭い切り口がさりげなく語られるところはセンスがあって良かったなあと思ったのだけど、それ以外の点では凡庸な「ちょい萌えSF小説」の枠を出なかったと思う。
やっぱりまず萌え成分が足りていないんじゃないだろうか。あざとさとは正反対で、作者が恥ずかしがって露骨な萌えを描いていないような気がする。主人公の控え目な設定だとか、唯一出てくる若い男である助手さんの去勢され具合だとか、肉親はおじいさんだけとか。
まあこの作品が好きな人はきっとこの雰囲気が好きなんだろうなあ。スレていないというか、素朴な味わいというか、萌えの記号の少ない天然ものってやつなんだろうか。ライトノベルとは真逆の方向性だと思う。記号が多すぎるのも露骨すぎてうんざりするけれど、もう自分はこの薄味をおいしいと感じることが出来なくなってしまった。
じゃあ人に勧めやすいかというとそうでもなくて、基本的にファン人口の少ないSF小説なので、楽しめる人は少ないと思う。ストーリーとしては大して面白くないから。こんな作品もあるよ、みたいな勧め方は出来るんだけど、これ面白いから読んでみてよ、とはならない。
主要登場人物たちがもっと魅力的だったらなあ。この最終巻でボイジャー兄妹(?)が再登場しているけれどなんの思い入れもなかった。プチモニが饒舌でちょっと面白かったけれど、思ったほど個性がないので忘れそう。なにより妖精さんが最後の方の巻になるほどあんまり魅力的じゃなくなっちゃったと思う。主人公の作るお菓子に飛びついたり、いじわるな主人公にいじめられたりする描写がだんだん少なくなっていった。好きだったのになあ。妖精さん無双もさっぱりだし。VRMMOのときも妖精さんは裏方に徹してたしなあ。
と文句を言ったけれど、最後の盛り上がりと終わり方が良かったので読後感はよかった。色々思い出してみるとそれほどでもなかったなあというのが正直な感想なのだけど。この人が描いている学園青春ものっぽい作品は気になるのでいずれ読んでみたい。
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