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Citrus 4巻まで
なんちゃってギャルの藍原柚子が、親の再婚とともに女子高に転入すると、すごく真面目な同級生の生徒会長がいて早速校則違反を咎められた。ところがそんな生徒会長の芽衣が担任の若い男性教師にキスされているところを目撃してしまう。そのことを逆に咎めた柚子は、逆に芽衣に押し倒されてキスされてしまう。悲しげな表情を見せる芽衣に、柚子は惹かれていく。百合もの(女の同性愛)マンガ。

この手の作品の金字塔である今野緒雪「マリア様がみてる」が大好きな自分は、この分野でいい作品がないかどうか常に探しているのだけど、海外の反応系ブログで取り上げられていた中にこの作品があったので手を出してみた。

ブログではあまり好意的に取り上げられていなかったのでそんなに期待せずに読んだのだけど、十分楽しめた。

主人公の柚子は、恋愛経験豊富なフリをしているけれど男と付き合ったことがなく、恋愛というもの自体もまだよく分かっていなくて、ただ行動力があって自分が思ったことはすぐに実行に移すという元気な女の子。彼女が周りや自分の感情に振り回されて戸惑ったり感情を高ぶらせたりするのがかわいい。

一方の芽衣はとてもクールなのだけど、自傷的というかなんというか、感情を理屈で押さえつけて生きている感じ。そんな芽衣の心を柚子が開いていくというのがこの作品の大きなストーリーの流れになっている。

芽衣は学校を守りたいらしい。祖父が学園の理事長であり、父親が本当はその跡を継ぐはずだったのだけど、大好きだった父親は突如芽衣を置いて世界へ旅立ってしまう。残された芽衣は、父親との最大の絆でもあった学園を守るため、代わりに後継者になってくれる教師との婚約をしている。そうやって自分を押し殺して情交(?)するさまを柚子に見られた芽衣は、キスなんて大したことじゃないと自分に言い聞かせるように柚子にキスをしたのだった。

しかしそれで火をつけられてしまった柚子は、芽衣のことが気になってしまい、芽衣の境遇をろくに知らないながらも彼女を助けようと行動に出るが、それが裏目に出てしまう。ただ、そんなこんなで芽衣は柚子に感謝するようになり、不器用ながらその気持ちを伝えようとして態度に表すのだけど、なかなか通じ合えないのだった。

と一通り紹介して賞賛したのだけど、やっぱりいま一歩な部分が目立った。

色々と説明や描写が足りていないと思う。なぜ父親への愛がそこまでこじれてしまったか。まあ両親が離婚していることと関係がありそうだけど、そのあたりの描写がないのでよくわからない。そしてなぜそれが学園を守ることや自分の気持ちを偽って婚約することにつながるのか。別に継がなくたって学園は守れると思うし、ヘンなやつと結婚してそいつが理事長になったらそれこそ学園が壊されてしまうと思う。

本筋からすれば大して関係ないことでしかないのかもしれないけれど、やっぱり人の気持ちというのは状況の中で作られるものだし、状況の中でこそ映えるものだと思う。つまらないことやよくわからないことが行動原理になっている人物には気持ちが入っていかない。

柚子と芽衣は親同士が再婚して義理の姉妹になるのだけど、部屋広いのになぜかダブルベッド買って一緒に寝るだとか、互いの親との微妙な関係があまり描かれていなかったりと、設定がおいしいからそうしただけだろうと思ってしまう不自然さを感じた。

すごいどうでもいいことだけど理事長のおじいちゃん(芽衣の祖父)が小物すぎた。

女の園に放り込まれた柚子にとって普段一番仲がいいのは、高校から編入してきたニセお嬢様の谷口はるみ。こいつがあっけらかんとしたなかなかいいキャラをしていて面白いのだけど、当たり障りのない微妙な動きしかしないので、魅力的な登場人物になりきれていないように思った。柚子にアドバイスするところしか描かれていないからなんじゃないかと思う。もっと同級生に対して猫をかぶっているところとか、お嬢様にあるまじき行為を陰でしているところとかが描かれていたら、もっと好きになれたかもしれないなあと思った。ギャルとして振る舞うシーンもあるんだけど恰好だけだったし。

芽衣の傍にも生徒会副会長の桃木野姫子という眉太キャラがいて、芽衣に対して露骨に好意をあらわにして柚子にライバル心をむき出しにするというやはり面白いキャラがいるのだけど、こっちもなんか微妙で突き抜けないのはどうしてだろう。自分の気持ちしか見えていないからなんじゃないだろうか。登場時はそれでいいんだけど、やっぱり時がたつにつれて周りが見えてきて複雑な感情たとえば芽衣が自分のことを自分ほどには思っていないんだろうなとか柚子もなかなかいいやつじゃんとか思うようになっていくところが描かれていたら良かったと思う。

3巻や4巻ではまつりちゃんとか修学旅行中に出現した他校生のライバルとかが出てきて二人の仲にヒビが入りそうになるのだけど、自分はどっちの話もあまり楽しめなかった。柚子と芽衣の関係が微妙なまま進んでいっているので、想像力を働かせにくい。他校生のライバルのまっすぐな気持ちに当てられた柚子が芽衣への気持ちを見つめなおすところだったり、逆に柚子自身がまつりちゃんという妹分の愛情の対象になっていることについて何か考えたりするような描写が薄いので、ただただ気持ちのすれ違いと仲直りの筋書きをながめてページを繰る場面が多かった。あと、修学旅行中に出会った他校生だときっともう二度と登場しないんだろうなと思うと、もったいない感じがする。

絵は良かった。いろんなタイプの女の子がみんな魅力的に描かれていて素晴らしいと思う。ただ、たまに見ていてちょっと顔のバランスが崩れそうな微妙な時があって、作品への集中が途切れそうになることが何度かあった。あと、作者があとがきで女の子を描くのが大好きと言っているのだけど、この人は男を描くのはあまり好きじゃないのか、担任教師は悪くなかったのだけど理事長の顔が微妙だった。まあ小物のおじいちゃんだから見た目と性格は一致しているのかもしれないけれど。理事長のことを悪く言い過ぎかw

というわけでこの作品は、百合成分が好きな人ならうまく上澄みをすくい取って楽しむことが出来るいい作品だと思うけれど、そうでない人は手を出さないほうがいいと思う。
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