ぼくは麻理のなか |
ひきこもりの大学生・小森功は、毎晩21時にコンビニにやってくる女の子を「天使」と呼び、彼女が来る時間に合わせて自分もコンビニに行って彼女を観察するのを日課にしていた。そんなある日、気が付くと自分が彼女の姿になっていた。青年マンガ。
すごく幸せそうな題と魅力的な表紙に惹かれて読み始めた。非常に面白かった。
体が入れ替わるといえば、去年大ヒットした映画「君の名は」なんかを始めとして色々あるのだけど、この作品では入れ替わりではなく麻里の心がどこかへ行ってしまった(?)。主人公の小森功は、女子高生・吉崎麻里として彼女の生活を守るためになるべく違和感ないように過ごそうとしつつ、彼女が普段どんなことを考えて生きてきたのかを周囲の人々の態度や痕跡から推測して彼女を探そうとする。その過程で地味系少女・柿口依(より)に正体がバレて、彼女に半ば脅迫されながら一緒に麻里の心を探す。
柿口依は麻里のことが好きなのだけど、自分のことを階級の低い人間だから麻里に近づけなかったと言う。柿口依にとって小森功の存在などどうでもよく、麻里の中にいる小森をひたすら罵倒するが、あれだけ遠かった麻里と近づけたことに気持ちが高ぶる。
絵がすごくいい。麻里がかわいすぎる。普段のちょっとしたしぐさやたたずまいだけでなく、中の人である小森功がついなにげなくしてしまう男らしい姿勢にも萌える。そして生活の中で自然と目に入ってしまう裸体。熟しきっていないラインが妙に生々しくてエロい絵だと思う。
小森功が麻里として過ごしているうちに、麻里の世界はどんどんほころんでいってしまう。麻里が日々行っていた気遣いや振る舞いがなくなってしまったからだ。それはつまり、麻里がいかに必死に自分の世界を守ってきたかをあらわしていた。そんな麻里が求めていたものとは…?
最初、あいかわらず押見修造らしい主人公にやさしい世界だなあと思って、ここまで都合がいいと自分はこの点ちょっと楽しめなかったのだけど、最後にあっと驚くどんでん返しが待っていてびっくりした。追い詰められていた麻里と、その周辺の人々、それぞれの気持ちがせまってくる。
フリがすごすぎて読んでいて初読では自分の中でひっくり返った感じがあまりしなかったのだけど、再読してみてやっとなんとかしっくりきた。小森功の日記がカギになるところなんかは、多くの読者が理解できたのかどうか心配になる。たぶん二回か三回読まないとよく分からないと思う。柿口依が小森功と麻里のどちらを選ぶかとか。ストンと腑に落ちないけれど素晴らしい作品だと思う。特にダニエル・キースが好きな人は読んでみるといい。
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