戦時期日本の精神史 1931~1945年 114ページ目まで |
哲学者の鶴見俊輔が、第二次世界大戦へと至った日本の知識人たちの動きを、カナダのモントリオール大学で外国人向けに講義した内容をまとめたもの。
有名な本なので、知人がちょうど図書館から借りてきたのに便乗して読んでみた。朝鮮人を150万人も強制徴用したなどという虚偽を外国人聴講生や国内読者へ伝えた売国的な内容が許しがたい上に、内容も散漫でただ細かい事実を拾っていくことしか出来なかった。読んでいられなくなって途中で投げ出した。
日本人が天皇を神格化するようになったのは、明治期に岩倉使節団が海外を見て回ったときに欧米の力の源は一神教にあると思って、日本もマネしようとしたからだそうだ。教育勅語を暗唱させるなど教育に巧みに天皇崇拝を織り交ぜることで実現できた。
副題には昭和初期の年代がついているけれど、明治の話から始まっている。とはいっても時系列に話を進めているわけでもないのでわかりにくい。
「転向」という言葉が生まれたのはこの時代だったとして、この本のキーワードとして重点的に語っている。様々な知識人たちが「転向」つまり考え方を曲げて妥協した話を広く説明している。なぜ「転向」したかというと、政府が特高警察で思想を弾圧したからってことになるんだろうか。小林多喜二のような例外はあるにせよ、日本人は基本的にナアナアなので弾圧する側もされる側もヌルくて、とりあえず考えを改めたってことにしておけと言われてじゃあ仕方ないかと「転向」する人が多かったと何かの本で読んだ。
あまりはっきりと説明しているわけではないので読み取りづらいのだけど、要は大多数の国民が戦争を望むようになり、政府もそれに従うようになった結果として、日本の思想を引っ張ってきた知識人たちが弾圧されるようになったということなのだろう。
どういう人を取り上げているのかというと、ゾルゲ事件に連座して死刑になった朝日新聞社の尾崎秀実、日本共産党の幹部たちや、アメリカのキリスト教団体の日本支部の人々など。スパイや反体制のほかに、いわゆる良心的兵役拒否で捕まった人々も取り上げている。
結局なにが言いたいんだろう。国家を挙げて戦争を遂行していた当時の日本にもこんな人々がいたんだということを世界に対して発信したかったんだろうか。精神史と言うからには、国民が戦争を望むようになっていったほうの動きをもっと取り上げるべきだと思うのだけど、私が読んだ前半部分にはほぼまったくその点については語られていなかった。
転向した人たちを無念の英雄として説明しているわけではなく、当時の状況を割と淡々と解説し、人々が謙虚に自分を見つめているさまを述べているようにみえた。
有名な本だし批判するにせよ学生の頃だったら一応全部読んだかもしれないけれど、いい大人が嫌いな本を我慢して読むことはないと思って返却した。閉架らしい。いいことだと思う。
巻末にすごい量の脚注があるけど、ほぼ読まなかった。もとが講演なので本文だけで成り立っていて脚注は別に読まなくていいと思う。それこそ細かい事実を追いたいのでなければ。
この本を起点にして、それぞれのことを別の本で知ろうとするにはいいのかもしれない。もともとの講演もきっとそれが目的だったのだろうし。自分はもうあまり興味がわかなかったのでどうでもよかったけど。
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