監獄のお姫さま |
大手乳業会社の社長の息子が誘拐された。実行犯は謎のおばさん五人組だった。彼女たちは「爆笑ヨーグルト姫事件」の再審を要求する。人気脚本家の宮藤官九郎が手掛けたテレビドラマ。
宮藤官九郎の脚本は気の利いた対話が面白いけれど物語としてはいまいちなのでもうあまり好んで見ようとは思っていなかったのだけど、ヒット作「あまちゃん」を見てみたらやっぱり面白いなあと思ったので、この作品も見てみた。正直やっぱり微妙だったし、対話も今回はおばさん主体なので自分にとっては魅力に欠けたけれど、それなりに見ることが出来た。
第一話は謎のおばさん五人組による誘拐劇が繰り広げられる。主婦層に媚びたような展開に早くも期待がしぼんでいったのだけど、最後に「爆笑ヨーグルト姫事件」の冤罪という謎かけが示されるのでもうちょっと見てみようという気になった。
で、第二話からは過去にさかのぼっておばさんたちの女子刑務所でのやりとりが繰り広げられる。主役は多分小泉今日子扮する馬場加代で、初めて収監された彼女の目線で刑務所のあれこれが語られ、ひとくせある同室の囚人たちとのやりとりによって人物紹介が行われていく。そしてそれと並行して、冤罪事件の真犯人と目されるイケメン社長とのやりとりも描かれる。
題にある「お姫さま」とは「爆笑ヨーグルト姫事件」の主犯とされる大手乳業会社の先代社長の娘のことで、彼女がゲラゲラ笑っている映像が動画サイトにアップされてテレビで何度も放映されたことでこのあだ名がつくことになる。容疑はなんと殺人教唆で、イケメン社長の前の彼女の殺害を指示した疑いがもたれており、自分でも犯行を認めていた。
そんな彼女のことはひとまず置いておいて、五人のおばさんたちの物語がまず一通り語られていく。主役の馬場加代は銀行でトップセールスだった優秀な営業員で、そのうえ家庭では家事を完璧にこなすスーパーウーマンだった。しかしそのせいで夫とうまくいかず、夫の不倫などがあって衝動的に夫を刺してしまう。優秀な人なのかと思ったら結構間が抜けており、おばさんチームの中ではいじられ役となっている。なんかキャラ設定が一貫していないように思えてあまり好きになれなかった。
他に、経済アナリスト、元暴力団組長夫人、アイドルの追っかけ、タイ人なんかがいる。こうやってかいつまんで説明するとそれぞれ特徴があるように見えるけれど、経済アナリストを除くとそれぞれのキャラがあまり活かされているように見えなかった。「女優」と呼ばれているおばさんは単なるアイドルの追っかけで、事件当日の模様を再現して演じて見せたのは経済アナリスト役の菅野美穂だし、元暴力団組長夫人もたまに出てくる組員とのやりとり以外は大してそれらしい振る舞いをしないので(しょせん夫人に過ぎないわけだし)、まったく愛着を持てなかった。
若いアホ検事がなにかと馬場加代の世話を焼いてくるけれど裏目に出るのが面白かった。でも若い男がおばさんに好意を持つというシチュエーション自体がまったく現実的でなく主婦層に媚びているようにしか見えなくてげんなりする。
刑務所の中で育児をする。ベタな展開だけど比較的サラッと展開されるので普通に見れた。
刑務官役の満島ひかりが自分はすごく好き。同じ宮藤官九郎の「ごめんね青春!」でも男嫌いのミッション系女子校の先生を演じていたし、今回の作品は宮藤官九郎が酒の席でプロデューサーに好きな女優を挙げていって実現したというから、きっとクドカンのお気に入りなんだと思う。ショートヘアの美人で、性格のキツいキャラがすごくいい。今回は「ごめんね青春!」の先生役ほど飛ばしている本じゃなかったけれど(あれはキレッキレだった)、やけっぱちなところがよかった。ただ、人生を掛けるほどの決断に至るシーンがそれほど迫ってこなかった。
姫の最後は名演だったと思う。話自体もきれいにまとまってよかった。でもなんか脚本がいまいちだったように思う。何不自由なく育ったお嬢様が、婚約者に裏切られ、女子刑務所で世間の荒波に揉まれ、苦労したすえに出てきた言葉にしては、ちょっと物足りなく思えて感動し損ねた。あるいはここに至るまでの描写がいまいちだった。再会した息子との会話もなんか微妙だった。たぶん、息子がまだ幼いから自分こそ本当の母親なんだと言えなかったんだろうなあ、という想像を視聴者に委ねているんだろうけれど、だったら打ち明ける誘惑をもっと描いて欲しかった。一方で、結果的に育ての親となったイケメン社長の奥さんの控えめな誠実さがよかった。比較的どうでもいいけれど息子役の子役の演技またはその演出がひどい。
事件の真相自体は大して面白くなかったのだけど、その真相が暴かれる展開は面白かった。とても今風の証拠が見つかるところとか、先の読めない法廷劇(過去の描写を平行してやってるから)、イケメン社長のあがきなんかは見ごたえがあった。
なんだかんだで主演の小泉今日子は素晴らしかったと思う。他の俳優も演出も良かった。脚本も脚本としては良かったけれど、やっぱり宮藤官九郎には別の人の原作をつけてほしいと思った。
配役の時点で分かり切ったことではあったけれど、この作品は若くない女性向けなので男が見てもそんなに面白くないと思う。おばさんたちの愉快(?)な会話を楽しめると思ったら見てみるといいと思う。あと満島ひかりファンと。
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