グランクレスト戦記 アニメ版 10話まで |
君主がその証として聖印(クレスト)という超常的なものを所持して力を発揮できる独特のファンタジー世界で、長い戦いの歴史の中でついに二大勢力同士の姻戚により聖印が統一されるかに思えたが、何者かのたくらみにより悲劇的な事件が起きて再び戦乱が巻き起こる。そんな中で騎士として自分の道を求める青年テオは、ふとしたことから天才的な頭脳を持った魔法師の美少女シルーカにその人柄を見込まれ、君主として故郷を解放する戦いを始める。ファンタジー小説。
ライトノベルが流行ったきっかけの一つとなった小説「ロードス島戦記」の作者である水野良が書いた同名の原作をアニメ化したもの。序盤よく分からない展開でついていけそうになかったのだけど、一人の青年放浪君主が美少女軍師シルーカに導かれて戦いの中で味方と勢力を増やしていくのが面白そうだったので見続けることにしたが、見ていて全然面白くないことに気づいたので10話までだらだら見たあと視聴をやめた。
色々と萎える場面が多かった。まず導入部でわざわざおおもとの事件を描いたところが余計だと思う。各君主が持つ聖印(クレスト)を一つに統合して「グランクレスト」にしようとするのがこの世界の大きな流れなのだと説明してくれているのかもしれないけれど、さあ新しい作品だと気合を入れて見始めた時に出てきたキャラたちがいきなり死んで単なる脇役だったとすぐ分かったのは萎え萎え。
天才美少女シルーカの振る舞いも意味不明だった。もともとそこそこ力のある君主のもとに仕官することになっていたはずが、たまたま出会ったテオに付き従うことに決める。運命っていうやつなのかもしれないけれど、決められたレールの上を歩こうとしない奔放な天才なのかと思ったら、ちょっとしたことでどこの馬の骨とも知れない男に従属しようとするところがぜんぜん納得できなかった。それと、のちのち二人は恋人関係になるのだけど、そんな空気があったのかと唖然とした。
作者の水野良はかつて「ロードス島戦記」で、自由騎士パーンとそのかたわらにいる美少女エルフ・ディードリットを描いて人気を得た。今回の作品もなんかそれを踏襲しているんだなあと思った。ちょっと深読みすると、大きな組織に従うのではなく自分の正しいと思った道をがんばって歩んでいると、最終的に人々から尊敬されみんなに祭り上げられ、ついでにそんな崇高な若者のもとに美少女が引き寄せられる、といった子供っぽい考え方(?)が支持されたんだろうか。
最近マスコンバット(軍隊同士の戦い)を描いた作品が目立つ。この作品に限ったことじゃないけれど、あまりに陣形が整い過ぎていて違和感がある。個人個人がそれぞれの裁量で動くんじゃなくて、ちゃんと整列してみんなで武器を決められた形で動かすほうが強いのは事実なんだけど、いままで戦国時代とかを扱った大河ドラマなんかでそんな演出をほとんど見かけないように、やっぱり見ていて不自然なんだと思う。もしリアルを突き詰めたいんだったら、戦には士気が重要だということをもっと描くべきだろうし、それ以前に特に指揮官を討ち取る流れなんかが出来過ぎているのもなんとかしてほしい。
人間だけじゃなく人狼みたいな種族がいたり、吸血鬼の王みたいなのが出てきたりして、討伐するんじゃなくて味方として戦ってくれたり不戦条約みたいな約束をしたりするのが面白かった。でもアニメでは尺がないせいかすごく唐突でよく分からなかった。かといって原作小説を読んでみようっていう気にもなれなかった。人狼と魔女の戦いなんて全然面白くなかった。面白い娯楽作品なんかだと、こいつを味方につけたら戦いで大暴れする、みたいなシンプルな面白さがあるものなのだけど、リアル志向なのか斜に構えているのかそういった爽快感がなかった。
同盟の盟主マリーネが、連合側の有力者ミルザーと情欲による関係で手を結ぶところは、この作品の視聴をやめるにいたった決定的な理由となった。連合の盟主アレクシスといい、主人公テオのもとに集う将たちといい、人間関係や人物描写がグズグズなので、どのキャラにも思い入れることが出来なかった。
ひょっとしたら自分が年を取り過ぎて、子供っぽい物語や人物を好きになれないだけなのかもしれない。でも、この作品のヒロインであるシルーカのようなこざかしさと従順さが不自然に同居しているようなキャラを、若い読者は好きになるんだろうか。主人公テオのまっすぐすぎる生き方は、いまの日本ではまったく尊ばれていないし、憧れられてもいないと思う。子供向きだったらもっと好き放題やる俺TUEEE系の作品のほうが面白いんじゃないだろうか。ひねくれた一部の読者にはハマるかもしれないけれど。
ファンタジーものとか戦記ものとかをひさびさに見てみたいなあという人が、新しい作家に手を出す気力はないからと言ってこのベテラン作家の作品に手を出すと、大いに期待を外すと思う。面白くなりそうだと思って試聴したのは時間の無駄だった。
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