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弱キャラ友崎くん 6.5巻まで
高校二年の友崎文也は対戦型のコンピュータゲームが大好きで、とある格闘ゲームではネットで日本一の実力を持つほど極めていた。そんな彼にとって人生なんてクソゲー(理不尽でつまらないゲーム)だった。ところが同じゲーム仲間から、ゲームと同じようにキャラの操作方法や技や駆け引きを学べば、人生ほどの神ゲーなんてないと言われる。半信半疑な彼の試行が始まる。ライトノベル。

ぶっちゃけ表紙のヒロインがちょっとスポーティでかわいかったのと、弱キャラという響きに惹かれて手に取っただけだったのだけど、読んでみたらすごく面白くてひさびさに次の日仕事あるのに午前三時ぐらいまで夜更かししてしまった。同じレーベルの渡航「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」以来の傑作青春小説だと思う(っていうほど色々読んでいるわけじゃないんだけどまあ)。

この作品のなにが面白いのかというと、陰キャ(根暗な人)が師匠の言うことを聞いてスクールカースト上位つまりクラスの中心グループに入ろうと努力していくところ。その師匠というのが校内いや県内の有名人で頭脳明晰スポーツ万能のパーフェクトヒロイン日南葵なのだった。陰キャにもプライドがあるから普通なら我が道を行くところなのだけど、人生だって格闘ゲームと同じだと言われたら聞き捨てることができない。彼女だって人生で努力したからいまの地位があると言い、その証拠に彼女は友崎くんの極めたゲームで彼に次いで日本で二番目の実力を持っているのだった。

ラノベとかアニメだとすんなり主人公の周りにハーレムが出来るのだけど、この作品の場合はそんなこともなく、主人公はリアルに挙動不審な陰キャの状態から始まる。で、日南葵からその日その日の課題を与えられ、最初はクラスの適当な女の子になんでもいいから話しかけるというミッションに挑戦する。ティッシュを借りるというあたりさわりないところから始めるのがすごく現実的でウケる。もちろん女の子だけじゃなくてクラスのイケてるグループの男の子たちの輪に入れるよう一歩一歩進んでいく。

長期的な目標として、学年の終わりまでに彼女を作れと言われる。そんなの無理だろうと友崎くんは抗議するけれど、じゃああなたが対戦ゲームの初心者を指導したらどのくらいまでうまくなる?上位一割ぐらいにはなるでしょ?だったら高校生で彼女持ちの男になるのより簡単じゃない?みたいな。

最初に友崎くんが近づくのはクラスで席が近いカースト上位の女の子・泉優鈴(ゆず)。もちろん最初はちょっと不審がられたりするのだけど、だんだん当たり障りない言葉をかわすことが出来るようになっていく。彼女はクラスの男の子のボス的な存在であるサッカー部の中村修二のことが好きなのだけど、友崎くんは得意のゲームで彼をボコってしまったため因縁をつけられる。中村修二は負けず嫌いでひたすらゲームの練習をするようになり、泉優鈴は相手にされなくなってしまったため、彼女はせめて彼の練習相手になれるよう友崎くんにゲームを教えてくれと言うのだった。そんなこんなで色々問題がこじれてしまうけれど、最終的に友崎くんは身につけていった技術だけではなく素の自分の力で解決するのだった。

一方で、友崎くんには泉優鈴はまだハードルが高いしなにより彼女は中村修二のことが好きなので、クラスのおとなしい女子の菊池さんにアプローチしてデートまでもっていくよう言われるのだった。好きかどうかなんてどうでもいいと。このあたり現実っぽくていい。作中ほかにも、二人以上の女の子に同時にアプローチしろだの、既に相手のいる女の子でもいつまでもくっついているわけでもないので十分可能性があるだの、普通の恋愛ものにはありえないリアルさがある。ひょっとしたらこのあたりで作品の評価が分かれてしまっているのかもしれない。だって、運命の相手に出会って恋に落ちるような作品が好きな人にとっては、この作品は引くかどうかは分からないけれど弱いと感じてしまうんじゃないだろうか。

万人に受け入れられるかどうかはともかくとして、自分としては非常に面白い作品だと思うのだけど、いくつかモヤモヤとしたところや中途半端に思えるところがあった。

まず、友崎くんの師匠であるパーフェクトヒロイン日南葵の行動原理にまだ納得がいっていない。こいつは陸上競技ではインターハイ制覇も狙っているほど運動神経がよい上に、模擬テストで全国上位、そして容姿端麗でクラスの人気者ときている。そのうえゲームでも日本二位。そんな彼女が、わざわざ自分の時間を割いて友崎くんの指導をしている。いったいどんな気持ちなんだろうか。作中で友崎くんも何度も不思議に思っているけれど、ずっと底が知れないのだった。一応の理由として彼女は、自分がのめりこんでいる人生という名のゲームをバカにされたから神ゲーであることを証明するためと言っているけれど、どう考えてもそれだけではありえない。中学の頃にやっていたバスケでがんばりすぎて一人浮いたことから、共闘できる人を探しているといったあたりなのだろうか。

日南葵にもやはりどこかおかしいところがあって、途中から友崎くんは師事するだけでなく独自の道も歩み始めるようになる。そのあたりが今後の楽しみなところではあるのだけど、いまのところそんなに期待が持てていない。たまちゃんを巡って日南葵が少し自分を見失う描写が出てきて、やっとこのパーフェクトヒロインにも弱いところが見え隠れするかと思ったのだけど、まだまだ強すぎるのだった。この作品はもう十分神作品(?)だと思うけれど、日南葵が今後どうなるかでこの作品は大きく変わると思う。友崎くんとの大きな対決もとい対戦が待っているんだろうか。

2巻ではみみみこと七海みなみのオーバーヒートが描かれるのだけど、彼女がなぜあそこまで突き進もうとするのかよく分からなかった。ほかにも4巻でたまちゃんがクラスから浮く描写だとか、5巻だったかで中村修二が親と喧嘩するところとか、ちょいちょい理解が追い付かないシーンがあった。

この作品の鋭いところとして、スクールカースト上位の人たちに共通する「見下されまい」とする気持ちを描き出しているところがあるのだけど、それで思い出したけど自分が学生時代スクールカーストにあまり興味を持っていなかったのは見下されないためのやたらと他人を貶めるような彼らの物言いを嫌悪していたからだったと思う。何かに秀でている人をバカにしたように上から目線で感心した風に言う。そういうのは必要悪ってことなんだろうか。ファッションがダサいとすぐ見下せるので彼らはファッションを重視しているし、一方で勉強が出来ないというかっこ悪いことには寛容だったりする。そういう薄っぺらい人たちとつるんでいて楽しいんだろうか。こういうカースト上位の嫌なところは、この作品では紺野エリカというクラスの女王様だけにほぼ押し付けている一方で、クラスのキング中村修二や彼の取り巻きたちのことは割と緩く描いている。泉優鈴がなにげにいいひと過ぎる。

そもそも人生が神ゲーかというと、それにも納得がいっていない。まあそれは作中の友崎くんもそうなのでいまのところは彼に共感できる。高校生までは生まれながらの才能や環境の影響が大きいのに対して、大学生とかそれ以降はたとえばマメな男がモテるとかいう話を聞く。そういうのは努力とか技術だと思うので納得できるのだけど、それ以外だと果たして努力なんだろうか。会話の主導権を握るだとかはあくまでそうしたいという欲が自然と技術を磨いてきたんじゃないだろうか。あ、それも結局努力ってことになるのか。そういう意味では、人からよく思われたいというのも一つの才能であり努力の元なんだろうな。

自分は正直また学生に戻って(人生という名の)ゲームをやりなおしたいかと言われるとしんどいので微妙なのだけど、もっとちゃんと真剣に遊んでいれば良かったのかなと思わされた。もちろんまだ自分のゲームは続いているのだけど(?)、いまから真剣にやる気もないし。実際、いまの日本って本当に魅力のない舞台だから。ちょっとおおげさかもしれないけれど、日本がこんだけつまらないのは結局のところスクールカースト上位だった人たちのせいなんじゃないだろうか。コミュニケーション能力うんぬんって単に自分たちにとって都合がいいだけだと思う。

同じレーベルの渡航「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」がそろそろ完結するし、たぶん小学館はこの作品のアニメ化を水面下で進めているところだろうから、それまで待ってもいいのかもしれないけれど、いち早く楽しみたいなら手に取ってみるといいと思う。あー、6巻の引きが気になるかもしれないので、せめて7巻が出てからの方がいいのかな?
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