VEGA |
アメリカのオーディオ関連ガレージメーカーALO AudioがCampfire Audioブランドで開発・販売していたダイナミック型のイヤホン。ダイアモンドと同等の硬度を持つカーボンの粉末を振動板にコーディングしたほか、余計な振動を防ぐためにチタンより硬い液体金属でボディを成型しているのが特徴。
フジヤエービックのセールを毎度日課でチェックしていたら、こいつがまさかの新品(デッドストック)82,800円で出ていたので思わず衝動買いしてしまった。
正月に買ったCowon Plenue Sという高級なデジタルオーディオプレイヤーがとても繊細な音を出すので、手持ちのJH AudioのRoxanne IIとAstell & Kern × beyerdynamicのT8ie mk2以外に何か合うイヤホンがあればいいなと思って探していた。年末年始頃にヨドバシカメラの新宿西口アウトレットでこのVEGAが11万ちょっと(加えて13%ポイント還元)で売られていたのは確認していたのだけど、迷っている間に値段が14万に戻ってしまったので買うのをやめたところだった。当初の売値は17万だった。なお、手放している人が多いせいか、いまでは中古なら六万円台で買える。
ネットの評判では発売からちょっと日は経っているもののダイナミック型の中ではいまでも一線級の実力を持っているとされるが、鳴らしにくくてポータブルではなく据え置きのアンプじゃないと十分に実力を発揮できないと言われていた。音の特徴として、最近の高解像度な20万クラスのハイエンドイヤホンが高域の正確さで売っているのに対して、こいつは古典的なダイナミック型の特徴である豊かな低域も出すことなのだそうだ。
5ちゃんねるのポータブル板の住人にこのVEGAがPlenue Sで十分鳴らせるのかどうか聞いてみたら、バランス出力なら鳴らせるんじゃないかという答えが返ってきたので、それも後押しになった。まあ正直Plenue Sはそんなに出力で売っているわけではないけれど、ほかのと比べれば比較的強力だしバランス出力だと単純にパワーが倍にもなるので、まあ多分それなりには鳴ってくれると思って話半分に参考にした。
で、ここからが実際に聴いてみた感想なのだけど、予想以上に音がよくてびっくりした。手持ちのイヤホンの中で一番いい音で鳴っている。いままで自分の中で最強だったShureのKSE1200よりも繊細で心地よい。あれだけ美しい音を奏でてくれていたKSE1200がちょっと雑に聴こえてしまいだした。ただし、爽快感のある心地よい音を出すという点では相変わらずKSE1200で、騒音の多い移動中ではPlenue SとVEGAとでは音が少し埋もれてしまう。ちなみにPlenue SはRoxanne IIとの相性もまあまあ良かった。
いままで自分の手持ちでダイナミック型の最強は前述のT8ie mk2で、他にDita Answerやsennheiser IE800なんかも持っているけれど、ダイナミック型は構造上どうしても高域の細かい振動が不正確なせいか音に違和感があったりノイジーになりがちだったりした。ESSのDACチップを採用しているデジタルオーディオプレイヤーと組み合わせると、全域での押し出しが強くて派手でいい音が出るのだけど、その分長時間聴いていられないぐらい耳が疲れる。しかしこのVEGAは高域まで割と正確なのでそこまで耳障りにならない。さらにバーブラウンのDACチップを使ってとても丁寧に音を整えているPlenue Sと組み合わせると、ノイズが少なくて長時間聴いていられる。
欠点と言っていいのか分からないけれど、こいつを聴いたあとでFiio X7 mk2 + AM5とかでT8ie mk2なんかを聴くとシャキシャキと気持ちいい音に感じるので、情報量は若干落ちているんだと思う。まあそれも据え置きのアンプで鳴らしてやれば存分に鳴ってくれるんだろうなと思うところではあるけれど。ただ、据え置き級の出力があるはずのFiio X7 mk2 + AM5でVEGAを鳴らしても、全力の音に多少ノイズがまじってしまうので、いい音ではあるもののせっかくの音がちょっと損なわれたような感じがした。やっぱり据え置きのいいアンプが欲しくなるなあ。
付属のケーブルは同じ会社ALO AudioのLitz Wireというリッツ線の銀メッキ銅線の3.5mmアンバランスケーブルだったので、しばらくそれで聴いてから手持ちの同社のTinselの2.5mmバランスケーブルにし、それをさらにMEE Audioのケーブルについているアダプタで3.5mm 4極のバランスに変換した。あんまり劇的に音が変わるわけではないけれど、若干見通しがよくなった気がする。MEE Audioのアダプタには3.5mm 3極の普通のアンバランスもあるので試しに交互に付けて聴いてみたところ、アンバランスだと若干音が曇る感じがしたけれどなじんだ音がした。Tinselはちょっと音が硬質になる気がするのに対して、アンバランスのLitz Wireのほうが音が自然だしケーブルが柔らかくて取り回しが良かった。Litzのバランスが欲しいけれど、いまのところまあいいかって感じ。
リケーブルといえばいままで自分は純銀線を愛用していたのだけど、Cowon Plenue Sで聴くようになってからはT8ie mk2の高域のノイズに耐えられなくなり、やっぱり銀メッキ銅線のほうがバランス的に一番いいんじゃないかと思うようになってきた。ところがここへきてこのVEGAに純銀線を試してみたところ、VEGAもPlenue Sも正確でノイズが少ないせいか割といい感じで聴けている気がする。まだそんなに長いこと試しているわけではないので結論を出すには早いんだけど、Campfire Audioは現時点でのハイエンド機にPure Silver Litzという純銀線を付けて売っているので、高域が正確で出力にノイズが少ないのであれば純銀線のほうが気持ちよく高域が出ていいのかもしれない。
いつも持ち歩いているスマホ兼プレイヤーのOnkyo GRANBEATで聴いてもそこそこいい音で鳴ってくれた。実力を全部出しきれなくても十分いい音だと思う。ボディもコンパクトだしとても完成度が高いと思う。ただ、同じブランドから出ているヒット作Andromedaが派生モデルを出しつつ生産が継続されているのに比べて、このVEGAは早々に終了し、同社のフラッグシップはダイナミック型のAtlasとハイブリッド型のSolarisに移っている。あんまり売れなかったか、あるいは利幅が少なかったのか(Dita Dreamのコストの掛かるチタンボディ加工みたいに)、どっちかだと思う。中古の値段が安いところを見ると前者な気がする。
最近のイヤホンもデジタルオーディオプレイヤーも、ハイエンドは解像度の高さで勝負している感じなので、このVEGAの落ち着いた音はマニアのウケが悪かったのかもしれない。自分からしてみれば、こんなに正確な音で鳴ってくれるのになぜ人気がないんだろうと不思議でしょうがない。Sandal先生の考察によれば、ハイエンドを買っている人たちは個性的なイヤホンをとっかえひっかえ聴いているからなんじゃないかということらしい。であれば少しは納得がいく。
自分はちょっと前まではマルチBA(バランスドアーマチュア型ドライバを複数搭載)が好きだったけれど、最近はダイナミック型のほうが好きになってきた。特にWestone W60がPlenue Sとあまり相性がよくないので(W60やHEM8は心地よいノイズ成分がウリなせいかノイズの少ないPlenue Sだとあまりパッとしない)、最近マルチBAはたまにRoxanne IIを聴く程度になってしまった。
今後も型落ちのハイエンド機は新品のアウトレットなり中古なり非常にお買い得だと思う。いまだとちょうどこのVEGAがそう。特に流行からちょっとズレた機種は値崩れしやすいと思う。まあ好みにあったモデルを買うのが一番いいのだろうけど、とにかくいいものを手に入れてじっくり試してみたいならこういう買い物もいいと思う。
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