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ゼルダの伝説 風のタクト
ファミコンの時代から続くアクションRPGの草分けにして最高傑作といえるシリーズの最新作。今度の冒険は大海原。船を操って島々を渡り歩き、伝説の勇者がガノンを倒す。

前々作「時のオカリナ」は、ゲーム史上に燦然と輝く、いやそれどころではなく、芸術史にもページを追加したと言っても良い、人類の作り出した有数の作品であると私は声を張り上げたい。日本のみならずアメリカでも非常に高い評価を受け、プロデューサーの宮本茂はポールマッカートニーからもサインを求められ、海外のゲーム賞に行けば一歩足を進めるたびに人が群がってくるほどだったという。

その正統な続編がこの「風のタクト」である。

まず分かりやすい第一の特徴は、トゥーンレンダリングだろう。既にセガのゲームが実際に採用してたり、アニメCGを作る時の一般的な手法として定着してはいたが、それを大作にフルに使用したインパクトは大きい。テレビコマーシャルでアニメのように目玉の大きい主人公リンクの表情豊かな動きを見て心ひかれた人も多いはず。

いままでのシリーズでは、主人公リンクの人格が透明で、とぼけた風味がストーリーの大きな特徴となっていた。今度のリンクは、笑ったり痛がったり、悔しがったり怒ったりする。登場人物も実に表情豊か。とぼけたユーモアに変わりはないが、味があっていい。剣術道場のイベントなんかでは、外国から偏見で見た日本をパロディしていて面白い。微妙に和風のテイストがあるのもいい。

一面の海。前作はハイラルの大地を歩いたり馬で駆けたりしたが、今回は小船に帆を張って帆走する。本来は目に見えない風の動きを視覚化しており、揺れる海面といい非常にリアルだ。宝の地図を手に入れ、ナビゲーターを使って宝をサルベージする。海賊船や海の怪物とも戦闘する。もちろん島やダンジョンではおなじみの剣術アクションで、「時のオカリナ」で確立されたアクションにさらに磨きがかかっており、一つ一つの戦闘が楽しい。敵の落とした武器を使えたりするのも面白い。

さてこの作品の評価である。

このシリーズは、ハードウェアが変わるたびに劇的に進化してきた。さて、時のオカリナと比べるとどうなのだろうか。これは判断が非常に難しいところだ。ニンテンドー64からゲームキューブになって、もちろんハードは進化したが、ゲームを革新したと言えるほど変わってはいない。だからこの作品にゲームの革新を期待するのは酷だろう。

ハードが変わったことで何が変わったかというと、一番に言えるのは表現性だろう。となると、トゥーンレンダリングを含めて豊かな表現でゲームの世界を描いて見せたのだから、これをもって進歩とするのが妥当だろう。地味で分かりづらいが、本作品のゲームフィールドは潤沢にコンピュータのパワーを使って豊かに描かれている。吊橋のロープを切ると床板が傾き、すべて切ると下に落ちてしまうだとか、ダンジョンの色々な仕掛けは本来一つ一つが素晴らしいのだが、プレイしていると割と当たり前に感じてしまう。

今までのゲームでは、「これはゲームなんだから」と当たり前のようにみんなが目をつぶっていたこと。それを実現してしまったのだと思う。敵が使っていた武器を使えないのはおかしい!誰も一度は思ったはず。この作品では、それが当たり前のように可能になった。かといってそれを前面に出していない。敵の武器は結局使いにくくてあまり意味がないのだが、それを面倒がらずに実現している。

この作品の評価は非常に難しい。やはり、気になった点、物足りない点について言及しなければならないだろう。

ダンジョンがこじんまりとしてしまったと思う。どれも完成度が高く、攻略にまとまった時間が必要なことには変わりないのだが、スケール感が弱いように思った。時のオカリナにあっただだっぴろい広場はいまでも思い出す。それとも私が歳をとって感受性が衰えたせいだろうか。ただ、魔獣島の天守閣やガノン城の和風テイストは本当に素晴らしいと思う。これも表現力が豊かでないと描けないだろう。西洋風のハイラル城がおもちゃに見えるほどだ(いやこっちはこっちで内部は荘厳で悪くないんだけど)。

個性的な島々はどれも楽しいのだが、一つ一つが弱い。前作では、密林から雪国まで、美しい風景を見せてくれていた。それと対比すると、どうしても一歩後退したと思ってしまう。大海原にするというのは思い切った決断だったと思うのだが、マイナス面も大きい。まあその分だけ海と島のフィールドの作りこみに力を注ぎこめたと考えると仕方がないのかもしれない。

ストーリー。今回はひねりが効いている。オープニングで語られる導入部。ゲームの舞台の大海原は、人間たちがどうしても大魔王ガノンに勝てなかったので神が沈めてしまったあとなのだ。一部の人間だけでも高いところに逃げのびて暮らせるようにはなったものの、かつての王国は海の底。泣かせる話ではないか。そのときからもう数百年たっており、今の人間たちはそんなことはとっくに忘れている。エンディングはそんなこんなで感動して涙を流してしまった(歳をとると涙腺も緩む)。実のところゲーム中はストーリーなんてほぼ忘れていて、ストーリーを感じさせる要素もゲーム中にはなかったのだが、最後の最後で見せてくれた。

テトラがかわいい。このヒロインはツボに入った。ただ、要所要所にしか出てこないので欲求不満に。あとメドリもかわいい。あの変なくちばしが顔についているのだけど、それさえいとおしく思える。キャラクターデザイナーの勝ちだ。

これに限らず、任天堂のゲームはどの部分を取り上げても一流なのは相変わらず。音楽もいい。オープニングの音楽からやられた。耳に残るほどの音楽は数えるほどしかないが、どれもいい雰囲気を出している。ボス戦やボスを倒したあとの音楽が私のお気に入り。

と色々考えてみると、この作品が傑作であることは揺ぎ無いことが分かる。いままでゲームをやったことがないという人には特にこのゲームを薦めてみたい。そしてゲームをやりこんでいる人には、もっともっと細部を見てほしいと思う。こんな素晴らしいゲームフィールドが画面上に実現されている感動を共有したい。
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