ファイアーエムブレム 風花雪月 |
父とともに流浪の傭兵生活を送っていた主人公は、修道院のそばで野盗に襲われていた若者たちを助けたことから、修道院に併設されている士官学校で教師をやることになる。大司教レアからなぜか過度な期待を受けるが、因縁があるらしい父は警戒をあらわにする。日本にシミュレーションRPGを根付かせたシリーズの最新作。
毎回毎回このシリーズを文句言いながらプレイしつづけている自分は、いつもだったら発売からしばらくたったあとで遊ぶのだけど、まとめブログのステマ宣伝(?)に引っかかって発売まもなく買ってプレイした。なんだかんだで二百時間以上遊び続け、区切りがついたのでレビューを書くことにする。
たぶんシリーズ中もっとも変革のある作品になったと思う。一番の特徴は、本拠地である修道院が3Dマップになって自由に歩き回れるようになったこと。様々なキャラクターと会話して友好を深めたり、スキルを磨いたり装備を揃えたりできる。正直ちょっとかったるくなったし周回プレイするには面倒くさいのだけど、普通のRPGなみにとっつきやすくなったと思う。
主人公は士官学校の三つあるクラスの中から一つ選んで担任教師となる。クラス分けは大陸に割拠する勢力ごとに帝国と王国と同盟とがあって、それぞれ8人ずつ生徒が在籍している。二部構成になっていて、第一部は士官学校のカリキュラムをこなす中で課題としてふもとの村とかに護衛に出向いたり定期的な行事として学級対抗で戦ったりする一方で、謎の組織が暗躍しているので調査に協力することになる。第二部は五年後で、大人になったみんなが今度は本物の戦いに巻き込まれていく話になる。テレビコマーシャルやステマでもこの「かつての仲間が今日の敵」みたいな血みどろの戦いをウリにしていた。
なぜ自分が二百時間以上もプレイしたかというと、今回はストーリーが分岐するからだった。最初に担当するクラスを選ぶ段階で三つに分岐するほか、帝国ルートはさらに分岐するらしい。最終的に大陸を制覇する流れは共通しているのだけど、各ルートである程度違った展開が楽しめる。また、メインストーリーだけでなくキャラクター同士のサイドストーリーも進展する。各クラスとも級長とごく一部の生徒を除いてスカウトして引き抜くことが出来るので、全部のルートをやらなくても七割ぐらいのストーリーは楽しめると思う。あ、初回プレイは引き抜きが大変なのでそこまでは無理か。
自分はまず同盟ルートでクリアし、そのあと帝国の親皇帝ルートと王国ルートでクリアした。帝国の反皇帝ルートはやっていないし、有料コンテンツのほうは買っていないので全部は知らない。有料コンテンツを買うとさらに一学級増えるらしいのだけど、そっちは担任になるというよりは並行して新ステージが進む感じらしい。他の人の感想を見た感じだと色々と初見殺しなどいやらしい仕掛けが多いみたいだし三千円ぐらいするので買わなかった。二百時間以上遊んでおいて三千円ケチるのもなんだけど。
同盟ルートは級長であるクロードが陽気な謀略家なので、メインストーリーは策士が活躍する感じで進んでいくのが楽しい。同盟は王国から独立した貴族たちの寄せ集めなので生徒の親同士が微妙な関係だったりしてそれが生徒同士の関係にも及ぶこともあるけど、このクラスは平民が多いし親なんて気にしない貴族の子もいるのでそこまでドロドロしていない。親との関係に悩んでいたり暗い過去を持っていたりするキャラもいるけど、一番明るいと思う。
帝国ルートは闇にうごめく組織に操られている(?)のでダークファンタジー色がある。級長のエーデルガルトは明確に一つの信念を持って戦っているのでそれに黙ってついていく感じ。エーデルガルトの味方になることで彼女の絶対的な信頼を得るのはいいのだけど、彼女の気持ちに踏み込めた感じがしなかった。こいつ冗談が通じないし(そのキャラづけ自体はとてもいいと思った)。
王国ルートは「ダスカーの悲劇」という過去の出来事があとを引きずっていて、メインストーリーもサイドストーリーも各キャラがそれぞれの傷から立ち直ろうとしていく話になる。陽気な色男シルヴァンですら家の重圧に苦しんでいる。ちょっと安易なところもあるけれど自分はこのルートが一番よかった。
女神転生シリーズで言うと、帝国ルートがLawかChaosかで、王国ルートと同盟ルートがNeutralだと思う。
ファミ通に載っていた開発者インタビューを読むと、一人のプレイヤーに全ルートを楽しんでもらうつもりはなかったらしく、友達同士で違う展開になって情報を交換しあうみたいなことを想定していたらしい。でもゲーム開始時にいきなりクラスを選ぶというシンプルな趣向はあまりよくなかったと思う。各クラスの級長や生徒がどんな人物なのか事前に教えてくれるのだけど、話の展開の中で選択していくようにしたほうが自分で道を選んだ感じがして良かったんじゃないだろうか。同ジャンルのゲームの金字塔であるクエスト「タクティクス・オウガ」がそうだった。
システム面の話をすると、本シリーズの致命的な欠陥だと自分が思っていた「リセットボタンを押してステージをやりなおすことがゲームをプレイする上で普通の操作となっていること」がついに大幅に緩和された。本作ではなんと時を巻き戻すことが出来るようになった。初見殺しの仕掛けやちょっとした見落としによりかけがえのないキャラを殺されたりしてもなかったことにできる。これにより、びくびくと進軍する妙なストレスからだいぶ解放された。もちろん無制限に使えるわけではなく使える回数が決まっている。
戦争なのになぜ一対一で戦っているの?という不条理も解消された。キャラごとに「騎士団」という扱いの様々な部隊を設定することができ、部隊を指揮して戦っている体になった。戦闘自体はやっぱり各キャラ同士の一対一がメインなのだけど、背後でなにやら戦っている(笑)だけでなく、各種ステータスがアップダウンしたりコマンドで計略を選ぶと回数制限つきで騎士団による様々な特殊攻撃が出来たりする。キャラごとに指揮のスキルがあって、スキルが高くないと強い騎士団を率いることができない。
スキル制が導入された。そのおかげでスキルさえ満たせば一部の特殊なものを除いて誰でも好きな兵種(クラス)になれるようになった。ただし、キャラにはそれぞれ得手不得手があるので苦手なスキルを上げるのは大変で、結局得意なスキルを上げていくことになる。能力値アップの確率もたぶんキャラごとに設定されているはず。スキルは重点的に上げたいものをキャラごとに一つ二つ選んでおくと毎週上がっていくほか、さらに特訓することもできる。
最終ステージ前に一人、これから一緒に歩んでいきたい相手を選ぶ趣向がある。自分は最初にやったとき同盟ルートでレオニーにしようとした。こいつのショートヘアでぶっきらぼうな口調が好きすぎた。でも最終的にリシテアを選んだ。彼女の未来が暗かったので寄り添いたくなった。こいつ自身も背伸びしたがりなところが結構かわいいし悠木碧が声を当てているのでとてもよかったけれど、たぶん自分はレオニーのほうが好きだった。なんかちょっと人生というものに触れた気がした(真顔)。
コーエーテクモゲームスとの協業により、キャラとのお茶会みたいな乙女ゲーっぽい要素ができた。各キャラには性格や好みが設定されていて、相手の好みそうな話題を選択肢から選んで正解すると好感度が上がる。逆に相手から話題を振ってくるものもあり、相手が望むような返答をすると好感度が上がる。自分はこういう乙女ゲーというかギャルゲー的なご機嫌伺いのシステムが嫌いなのだけど、純粋に色んなキャラの好みを探る楽しみがあり、キャラが深掘りされているなあと感心した。修道院のマップで会話していればなんとなく各キャラの性格や好みが分かってくる。ちゃんと会話の内容を読んで覚えておかないと好感度が上がらないというのは納得できる。交流が深まってくるとステージで一緒に戦うときに連携により少し有利になる。
主人公と各キャラの関係だけでなく、各キャラ同士の関係もある。前に同シリーズの「覚醒」を遊んだときに、各キャラ同士の仲が普通に遊んでいても全然進んでくれなかったのでイライラしたのだけど、今回は割と進展させやすいので助かる。隣同士で戦わせたりするほか、今回はライドのシステムつまりキャラ同士を合体させて強いユニットとして戦わせる仕組みはなくなったのだけど代わりに副官システムというのがあってステージの最初に各キャラに副官に選んでやると一緒に戦うようになって少しパワーアップすると同時に当然仲が良くなっていく。ほかに修道院の中で一緒に食事をとることでも上げられる。女性同士や男性同士で仲を深めると、組み合わせによっては恋愛関係っぽいところまで進むこともある。ドロテアとマヌエラの後輩と先輩の百合がちょっと良かった。感動要素だけでなく面白い話もあって、いま思い出せるのだとアネットがフェリクスと仲を深めるとヘンな歌を歌うし、アロイスがメルセデスと仲を深めると怪談を聞かされておびえるのがウケた。
キャラクターの性格設定や配分なんかが非常にバランスよく出来ていて、たとえば女っぽくない女の子として、帝国にはペトラ、王国にはイングリット、同盟にはレオニーがいる。ペトラは辺境の国からの留学生で言葉は片言だけど非常に勉強熱心、イングリットは騎士に憧れていて化粧っ気ゼロ、レオニーはぶっきらぼうでケチ。悪女なら帝国にはドロテア、王国にはメルセデス(?)、同盟にはヒルダがいるのだけど、ドロテアは男漁りしていて、メルセデスは超越的な母性キャラで男を無意識に手玉に取り、ヒルダは甘えて男になんでもやってもらう、とみんなタイプが違う。よく品質管理された素晴らしい工業製品だと思う。でも正直自分は特別な思い入れを抱くまでには至らなかった。
女キャラのことばっか紹介してしまったので男キャラについても言うと、自分が一番好きなのは色男シルヴァンで、人当たりのいい男だし、ちょっと陰もあって軟派なことをする背景にまでサイドストーリーが踏み込んでいくのでしんみりした。やたら貴族であることを振りかざし女性を口説きまわって迷惑がられるローレンツは嫌なやつに見えるけど、貴族の責務を心得ていて庶民を守るのは当たり前だと言いネットでも評判が高かった。ちなみに帝国の色男枠はフェルディナントだと思うけど、こいつはやたらエーデルガルトと張り合おうとするだけなのでいまいちだった。
なにげに生徒じゃない大人キャラがみんないい味を出してる。マヌエラは元歌劇団のプリマドンナだけど片付けの出来ないだらしない女で男日照りだし、ハンネマンは英国紳士風の研究バカだけど生徒思いだし、セテスはお硬いけど真摯に向き合っている。カトリーヌは気安いけどレアに忠誠を捧げているのに対して、シャミアは職務に忠実だけどレアには一時的に雇われているだけだと思っている。ギルベルトはクソ真面目でアロイスはオヤジギャグマシンだけど二人はいい釣り仲間。あと大人じゃないけどフレンの性格としゃべり方が生粋のお嬢様っぽくてとてもかわいかった。ツィリルはリシテアと仲良くなったときの展開がほっこりした。
口さがないことを言うと、このゲームは才能のない人たちが一生懸命頭を絞って作り上げた作品だと思う。
開始5~20時間ぐらいで何度もプレイを中断した。ストーリーに引き込まれなかったし、ダラダラと全員に話しかけても面白くなく、システムも面倒に感じていた。オープニングで謎の戦争ムービーが流れ、ゲーム開始時にソティスという謎の少女が出てきて、最終的にこれらがつながって驚くことになるのだけど、正直それまでは何も魅かれなかった(ソティス自体は超かわいいんだけど)。序盤から引き込まれるようなメインストーリーではないのだから、それまでは別の要素で引っ張っていってほしかった。
主人公が最初あまり感情を出さないのもちゃんと理由があって、プレイヤーを徐々に物語に入り込ませるためのいい仕掛けだと思うのだけど、自分にはなんだか急に生徒たちが主人公を持ち上げだしたように見えて違和感があった。主人公が生徒たちとの交流により徐々に感情豊かになっていく演出やシステムがあれば良かったと思う。一応魅力が数値的に上がっていくけどそれだけ。
システムは複雑になったけれど地味だと思う。戦闘は基本的に攻撃を仕掛けて反撃を受けて終わる。速さが相手を十分に上回れば追撃が出来たり、スキルによって待ち伏せで最初に反撃が出来たりするけれど、原則は一回ずつ攻撃しあうだけ。今回格闘が二回攻撃になったけど二回攻撃の武器ってだけ。もっとバリエーションをつけることも出来ると思う。バフ(強化)やデバフ(弱体)も一応あるけど面倒くさいだけの要素になってしまっている。
たとえば命中率70%と出たので敵に攻撃したらハズしました、そのせいで次のターンに生き残った敵がこっちの一番弱いユニットを狙って倒されました、はい時を戻します、みたいなのが楽しいんだろうか(まあ楽しいんだろうな)。今回計略によって敵を足止めすることが出来るようになったのでこういう事故を減らすことが出来るのだけど、その計略すら確率でスカすのだからあてにはできない。サイコロを振るのが楽しみではなくストレスにしかなっていない。
シミュレーションゲームの一種みたいだけどZOC(Zone of Control)がないのでユニットの隙間を簡単にすり抜けられる。こういうのも成長要素にしたらどうだろう(敵のいるマスをすりぬけるスキルはある)。範囲内に入ってきた敵を軽く攻撃してくれるとか、敵をひきつけることができるとか(計略により魔獣相手なら可能だけど)、数値アップだけじゃなく味方をアシストしてくれるとか。成長させても楽しみとなる要素が少ないように思う。技も基本的にダメージを増やすことが出来るだけだし。
多分このゲームの古くからのファンがターン制でダメージを積み上げてユニットを一体ずつ倒していくようなゲームを求めているのだろうけど、この人たちが求める方向性を維持したままシステムを発展させることは出来ると思う。要は計算できればいいのであれば、リスクを下げて計算しやすくする方向性になら思い切った改良が出来るんじゃないだろうか。まあそれがいまの支援効果なのかもしれないけれど。ユニットを進めるだけでワクワクできるような仕組みは作れないんだろうか。
でもそういえばファミコンウォーズがNintendo DSでリアルタイム系の進化を遂げた時はさすがになんかこれじゃない的な思いを抱いたので、安易に考えてはダメなのかもしれない。フロントミッションはリアルタイム系のオルタナティブも好きだったけど。色々やってみてほしい。まさかのタワーディフェンス系とか。
人に安心して勧めることが出来る良い作品だと思うけれど、「これ絶対に面白いから」とは言えないような手堅いタイプの作品だと思う。自分もいま改めて思うと別にやらなくてもよかったと思わなくもないし、すごく面白かった部分がそんなにあったのかどうか自信がない。でも、やって損はしない優れた作品であることは保証してもいいと思う。
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