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千歳くんはラムネ瓶の中 第3巻まで
元野球部で成績優秀、イケメンでモテモテの千歳くんは、かわいい女の子たちを周りにはべらせ、サッカー部の司令塔やバスケ部の熱血バカとつるみながらスクールカーストのトップで毎日楽しい高校生活を送っていた。彼は調子のいい軽薄な男だったが、その裏にはそれなりの理由があった。青春小説。

同じ小学館GAGAGA文庫の尾久ユウキ「弱キャラ友崎くん」の新刊を買うたびに新刊案内でこの作品が目に留まり、リア充による青春小説だというから果たしてそんなものがライトノベルとして成り立つのかと思い、興味を惹かれたので読んでみた。成り立っているかどうかはともかくとして(?)作品としてはおもしろかった。

これ少なくとも1巻は問題作だと思う。ライトノベルの主要読者層に対して全力でケンカ売ってる。リア充爆発しろと思っているオタクをこき下ろしまくってる。うぇーいなノリでクラス委員長におさまった千歳くんが不登校を続けている男子生徒を登校させるよう担任教師から押し付けられ、一人ではなんだからと女の子を連れて彼の家に行って正論をぶつ。イケメンじゃないと人権がないといじける彼に対してこれでもかと叱咤する。

ここでちょっと違和感があったのは、「リア充(リアルつまり現実の生活が充実している人)」の定義がちょっとズレているように感じた。自分はいわゆるリア充の大きな特徴として、自分をなるべく良く見せようとして他人のちょっとしたことにいちいちケチをつけて見下す習性を挙げたいのだけど、作中の千歳くんによればそれはあくまで「マウント族」という亜種に過ぎないのだという。本当のリア充は決してそんなことはしないのだそうだ。まずこれに同意できるだろうか?

一応マウントという言葉を説明しておくと、多分動物行動学の用語がもとになっていると思うのだけど、野生動物の個体が自分の優位性を誇示するために相手にのし掛かる行為が転じて、それに準ずる言動をとることを言うのだと思う。

まあそんなわけでこの作品での千歳くんやその仲間たちはそんなみっともないことはしない完全無欠のリア充なのだということになっている。そして先のマウント族にあたる悪意ある人たちはまた別に敵として出てくるのだった。

説明を忘れていたけれどこの作品の舞台となっている学校は福井県で一番の進学校という設定になっている。だからみんな最低限頭がいいし、千歳くんはそのなかでも学年で常に二十位以内と相当頭がいい設定になっている。

1巻は不登校になったオタクくんを更生させるまでの話となっていて、正直読んでいて何度もイライラしたのでもう読むのをやめようかとさえ思った。でも千歳くんが圧倒的にかっこよかったし、取り巻きの女の子たちも非常に魅力的だったので、もうちょっと読んでみようと思って2巻まで手を出したらとても良かった。

千歳くんのどこがいいかって、軽妙な軽口、卓越した行動力、そして突き放しているかに見えて相手のことを思いやっているやさしさ。男の自分でも惚れそうになるぐらいだから女性ウケしそう。彼は元野球部というから野球部をやめていて、何か挫折を経験していることがほのめかされるのだけど、まだ既刊分ではその具体的な真相は明かされていない。でも中学生ぐらいまでの性格形成については3巻で自分の口で語っている。正直あまりピンとこなかったのでちょっといまいちに感じたけれど(大多数の人にとって共感しにくい話ではある)、少なくとも彼が順風満帆の人生を送ってきたわけではないことについては納得した。

題の「ラムネ瓶の中」というのは、千歳くんは周りから見ればラムネ瓶の中のビー玉のように美しくてキラキラしているけれど、当人にとってみればガラス瓶に閉じ込められてどこにも行けない存在にすぎないのだという彼自身の想いから来ている。という自省は一応あるのだけど、彼自身の物語みたいなものはそこまで語られない。千歳くんはちょっと陰があるけれど大体はとても頼りになるいい男でありつづける。

2巻は新たに「チーム千歳」に加わった女子バスケ部のエース七瀬悠月から頼まれてウソ彼氏になることから始まる。天然ものではなく作為的に美少女を演じている彼女は、千歳くんに対しても余裕の態度で軽口をまじえつつそんな依頼をしてくるのだが、その裏には深刻な悩みがあった。誰かにストーキングされているかもしれないというモヤモヤした不安は、彼女の過去のトラウマを呼び覚ます大きな事件へと発展していくのだった。

2巻はすごく良かったので1巻でイライラしても投げ出さずに読んで欲しい。正直2巻も無駄に陰キャを煽るかのようなしょうもない要素があって洗練されていないように思ったのだけど、そんなことが些細に思えるぐらいにすごくいい場面がいくつもあって読んでいて震えた。特に千歳くんが悠月を煽るところが最高だった。そのあとの対決シーンも、散々言い古されたあの陳腐なセリフを千歳くんが決めた時にはゾクゾクした。その後に立ち直った彼女が自分のことを千歳くんの元カノだと言って軽口を叩くところまで含めてすごくまぶしくて尊いと思った。

彼女に限らず「チーム千歳」の女の子たちはみんな魅力的だった。「本妻」であるとされる学年一の美少女の柊夕湖は天然もので、思ったことはすぐに口に出して誰かをドキッとさせたり傷つけたり笑わせたりする。イラッとすると出す口癖の「むっかちーん」がかわいい。でも自分は千歳ガールズの中では一番好みではない感じ。

千歳くんの「妾」とされる内田優空は元々地味系女子だったけれど何かあって垢抜けたらしい。でも性格は依然として真面目で、千歳くんもそんな彼女に対して親しみを持っているようで、1巻で不登校の男子生徒の家に行くときもまず彼女を連れて行っている。登校も一緒になることが多いみたいで一番仲良さそう。

青梅陽は女子バスケ部の小柄で活発な女の子で、千歳くんの隣の席にいてカラッとした性格をしているせいかとても気安い感じ。千歳くんにも簡単にスキンシップをとってくる。一方で自分のことを女の子らしくないと引け目に思っていて、かわいいと言われると照れるというテンプレは外さない。

2巻のヒロインである女子バスケ部のエース七瀬悠月は青梅陽のチームメイトで学年で一二を争うほどの美少女だったので千歳くんも面識はあったのだけど、1巻開始時点で2年のクラス分けで初めてクラスが一緒になって「チーム千歳」に加入している。ちなみに「チーム千歳」は千歳くんが勝手に言っているだけでみんなそれぞれ自分が輪の中心のつもりで色々勝手に名乗っているのがウケた。

男のほうはまず分かりやすい熱血キャラの浅野海人はギャグ要員って感じでその直情径行なところが揶揄されていじられる感じ。もう一人の水篠和希のほうはサッカー部の若き司令塔で海人と違って非常に冷静で、千歳くんが他校の生徒ともめているときもゆっくり様子を見ながら歩いてきたので薄情に思われていてウケた。千歳くんはこの二人を適材適所で考えて色々頼みごとをする。でも彼らはチョイ役なので女性読者からすれば物足りないと思う。まだ巻が浅いのでこれからの活躍に期待する。

3巻のヒロインの西野明日風は一年先輩の女性で、千歳くんが野球部を辞めて落ち込んでいたときに立ち直らせてくれた人。彼女はよく河川敷にいるので、千歳くんがなにか困ったときにそこを訪れて助言を求めると、驚くほど適切な答えを返してくれる。千歳くんは彼女のことを明日姉と呼んで尊敬しており、千歳ガールたちが警戒しているのがウケる。

そんな尊敬していた女性が、なにやら進路で悩んでいると聞いて駆けつける。舞台である福井県の学生は地元組と上京組とで進路が大きく分かれてしまう。彼女は上京したいと思っていたが、元教師である厳格な父親から反対されている。千歳くんの前では超越したお姉さんキャラで振る舞っていたのに、家庭では親に逆らえない弱い女なんだと恥じる彼女に対して、そんなことはないと彼女を勇気づける千歳くんなのだった。

3巻はちょっと運命論的な設定があざといし、展開もありがちなので正直ちょっといまいちな感じはしたけれど、人生の岐路みたいなものに対する感傷が描かれていてしんみりきた。あー、あと結局千歳くんは毎回現場に乗り込んで熱弁を振るうのね、みたいな。

千歳くんの軽口が毎度笑える。彼はちょいちょい冗談を言う。熱血ぶったあとでハシゴを外してみせたり、口説いたり迫ったりしたかと思ったらすかしてみせたりする。なんとそれにはちゃんと理由があることが3巻で語られる。あれこの巻で最終巻?と思ったけれどまだまだ続くみたいだった。

千歳くんはこれからもみんなのヒーローでありつづけると思うし、それがいいと思う。青春のドロドロを描いて読者をなぐさめるような話ではなくて、かっこよくてお茶目でまぶしい存在である千歳くんを見て憧れるような作品だと思う。題がそのまんま作品を表している。青春小説(?)としては珍しいかもしれない。

自分の持論では、イケメンだったり運動能力があったりすればそれだけで十分うまくいくのでそれ以上の努力は怠るものだと思う。だからそのうえ勉強ができるなんて人はほとんどいないはず。まあ実際はごく一部ではあるけれど存在するものの、やはりそういう人は精神的にどこかおかしかったり家庭や周辺環境が偏執的だったり他人には理解できない大きなコンプレックスを抱えていたりするものだと思う。実際、偏差値の低い学校ほど顔面偏差値が高いわけだし運動能力の平均も高い。

千歳くんの周りに美男美女しかいないのも普通に考えればおかしいと思う。ルックスが良くないと性格が卑屈になりがちだからかもしれないけれど、能力が高いブサメンも一定数いる。なぜそういう人たちの中に友達がいないのか。人間なにかしら小ぎれいにしておけば外見は保てるものだと言いたいのかもしれないけれど、さすがそれで押し切ることはできないと思う。

というわけで読んでイラッと来る可能性はあるけれど気にせず読めそうなら読んでみるといいと思う。
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