クローズアップ現代+「東電裁判で新事実!津波対策動いていた?空白の2年に何が」 |
東日本大震災による大津波で東京電力の福島第一原発が炉心溶融を起こした問題について、東京電力の内部では巨大津波対策が動いていたけれど決断が遅れたこと、同業他社で対策が進んだにも関わらず東京電力に遠慮して公にしなかったことなんかが裁判の中で明らかになったことを報告したドキュメンタリー番組。
なんかもう他の番組で既に見たような内容だったけれど、録画していたので一応見てみた。とても重要な結論が導かれたと思うので自分の考えも含めて書いておくことにした。
番組の冒頭まず東京電力の最高幹部だった三人が裁判で無罪となったことから述べられる。そして先に紹介したような事実を明らかにしたあと、識者として呼んだ多摩大学大学院名誉教授で当時内閣官房参与として原発事故対策に関わった田坂広志という人が、技術的安全性だけじゃなく人とか組織とか制度の安全性が重要なのだと結論づけて終わっている。我が意を得たりと思った。
マネジメントでもっとも重要なのは、何か起きたときに誰の責任となるのかをきちんと決めておくことだと思う。そうすることで、その責任を全うするためにどんな権限が必要になるのかを決めることが出来るので、実際に人が動くようになる。責任の大きさに対して権限や報酬が少なければ辞退すればいいし、条件をつけることだってできる。仕組みやリソースなんてのは完全に二の次だ。
逆に言うと、ここをあいまいにするのが一番ダメな経営だと思う。たとえばいまの日本の企業社会では「自分で考えて動きなさい」「指示を待っているようではダメだ」というようなことが当たり前のように言われている。実際どうなのかというと、権限が委譲されていないので何かやるのにいちいちトップの許可を取る必要があり、忙しくなってくるとみんな良かれと思って勝手に動くようになるから、何かあったときにその人の責任にされてしまう。要するにトップが責任を取らずに成果だけ取るような仕組みとなっている。
この番組で紹介されていた二つの事象はいずれもこの形で、経営の意志判断を行うと思われていた通称「御前会議」(不敬だな)を最高幹部たちは単に報告を聞くための会議だと思っていたなどと抜かしているし、自分たちが判断を下して責任を負いたくないから同業他社の動向に合わせて動いていた。
いま一度考えてみてほしい。もし原発を稼働再開させたとして、またメルトダウンが起きたら一体誰がどう責任を取るのか?責任というのは、誰かに取らせたいから押し付けるものではない。その人に必要な権限を集め、きちんと全うさせるためのものだ。責任を取らなくていい人間が好き勝手に動くのが一番危険だ。
田坂広志という人も言っているように、原発がメルトダウンしたら民間企業だけでは責任を取れないので、国が最終的に責任を取らなければならないと思う。ということは当然、国が必要な権限を持って電力各社を監督できなければならない。
そして、最終的な責任は国民にあるということ。メルトダウンを起こして国土の一部が汚染されたとき、政治家や官僚や電力会社に責任を取らせるだけで済むのか?汚染された土地で生活していかなければならないことについて自ら責任を取れるのか?もし取れないようなら、原子力発電所のある生活を諦めなければならない。私たちは選挙権や被選挙権によって政治に関わる権限を持っている。
ちょっと意地の悪い言い方をすると、国民が電力会社や国に対して「良いようにやってね」「でも電力料金も税金も値上げしないでね」と言ったから今回の事態が起きたとも言える。まあ実際には利権にあずかる一部の人たちが得をするため、私たちの権限が十分に行使されないよう働きかけられちゃっているんだけど。
今回東電の最高幹部に刑事責任は認められなかったけれど、刑事責任を負わせるために法律で縛ったほうがいいと思う。億の報酬をもらっていた経営幹部がこれだけ無責任でいられること自体おかしい。東京電力全体としては一定期間ボーナス大幅カットや自社株暴落という形で一応の責任は取ったと思う。基本給とか福利厚生とかバカ高いんだけど。
番組自体の批評から少し遠ざかってしまったけれど、三十分という短い時間で要点を押さえ、既に起きた事実から説明し分析してみせたあとで今後について考えるべきことをまとめており、ドキュメンタリー番組として非常にいい造りだと思った。
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