ソードアート・オンライン 8巻 アーリー・アンド・レイト |
VRゲームの仮想現実の中に一万人ものプレイヤーの意識を閉じ込めたソードアート・オンラインの、絶対安全なはずの街の中で殺人事件が起きた。ゲーム内での死は現実世界での死となるこの世界で、無頼なソロプレイヤー・キリトは有名ギルド幹部の少女アスナとともに捜査を開始する。他二編を含むファンタジーゲーム小説の短編集。
アニメで見た気もするけれど内容をすっかり忘れていた。本当にやったのかな。
あとがきで作者が書いているように、ミステリー小説として書いているけれどVRゲームの独自の仕組みを前提にしていて、しかもそれが子供だましっぽいトリックだからと恥じている。まあ読んでみると確かにそのとおりだとは思ったけれど、あらゆるトリックが既出になってしまったミステリーというジャンルで、独自の世界を作ってその中でしか成り立たないようなあれこれを利用すれば可能性は無限大だと思った。とはいっても、たとえば人間が空を飛べるような世界を作って、飛翔を妨げる仕掛けによって密室トリックを作ったとして、それが果たして面白いのかというと人を選ぶような気がする。自分は割と引き込まれたし、それなりに楽しむことが出来たと思う。
ミステリー大好き作家(?)の西尾維新がその著作の中で書いていたことの受け売りだけど、ミステリーは読者に対してフェアでなければならないらしい。この作品のトリックは分かってみれば子供だましと言ってしまっていいのだけど、ちゃんと読者に対して謎を解くヒントを与えている。すごく頭のいい人なら分かってしまうかもしれない。たとえば古典的なミステリーでもトリックに化学の知識が使われるわけだし、アガサ・クリスティーの超有名な「オリエント急行殺人事件」でもロシア語のアルファベットの知識をトリックというかミスリードに使っているのだから、現実だろうと仮想世界だろうとフェアでありさえすれば関係ないんじゃないかと思う。ミステリーのフロンティアはここにあった!…とは言わないけれど。
有名ギルドの美少女幹部アスナに対するキリトの態度というか独白が中二病っぽくてむずがゆい。アスナはキリトを少し意識しているのだけどそれを認めたくなくて終始冷たい態度をとるのでキリトとしてはやれやれと思っているみたいな。押切蓮介「ハイスコアガール」の空気感に近い。
この本にはあと二編収録されていて、ソードアート・オンラインを平和的に引き継いだALOというゲームの中で最強の剣エクスキャリバーをめぐるクエストをみんなでやるだけの話と、ソードアート・オンラインでのキリトのスタートダッシュ時のエピソードが語られる。前者の目玉はキリトガールズ(?)に加わった新サブヒロインのシノンがちょっと活躍するところと、相変わらずキリトがシステム外スキルを駆使してみんなを驚かせるところだろうか。後者はキリトがまだデスゲームという実感のなかった頃の心情がリアルに描かれている。でも、キリトの前に現れた同じβテスターだったというプレイヤーの振る舞いはちょっと理解できなかった。
正直この作品はこのシリーズが本当に好きな人だけ読めばいいと思う。自分は正直微妙だった。
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