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プリンセスメゾン
事故で両親を亡くし高卒で飲食会社に就職してチェーンの居酒屋で働き続けている二十代後半の小柄な女性・沼越幸は、安い賃貸アパートで暮らしながら休みになるとマンション見学に出かけ、少ない自分の給料でもローンを組んで買える住処探しをしているのだった。NHK BSでドラマ化もされたネット掲載マンガ。

日本テレビ「川島・山内のマンガ沼」でお笑い芸人コンビ麒麟の川島が手ごろな巻数で楽しめる作品としてこれを勧めていて、それを受けて山内も不動産が好きだと言っており、自分もそういえば時々不動産情報サイトを見るぐらい興味があるなあと思ったので読んでみた。おもしろかった。

題名から分かるように(?)この作品はマンションを扱っている。なんで一軒家じゃないんだろうと思うけど、一人用の一軒家はまだまだ少ないし郊外になってしまうのでしょうがないのかなと思う。主人公の女性のローンの限度額が二千数百万程度だし。っていうか別に分譲マンションじゃなくたって賃貸でもいいじゃんって思うところだけど、分譲マンションのほうが設備がいいのでこだわりたいってことなんだろう。

自分はネットの影響なのかマンションにはあまりいい印象がなくて、新築のマンションは買った直後に一千万以上価値が下がるし、限られた土地にコンクリートの塊を建てるだけでデベロッパーからするとボロい商売だし、老朽化したときに大勢の住人が利害関係者となってなかなか意志がまとまらないし、日本の習慣がよくわかっていない中国人とか問題のある住人が隣に住むかもしれないし、何十年もローンを払い続けなければならないしで、少なくとも色々と考えて買わないと取り返しのつかないことになる難しいものだと思う。

単行本全6巻で、前半が買うまでの話で、後半が買ったあとの話になる。主人公だけでなく、マンションを扱っている不動産会社の受付の女性二人と男性一人、その家族や隣人、いろんな事情のある客、と様々な人たちの人生をのぞいていくオムニバス形式となっている。

マンションを買うのは全員女性で独身、そして見た感じ孤独な人生を送っている。主人公には男の影はまったくないし、男がいたけど浮気して別れた女、一人東京に出てきて非正規で働いている女性、クリエイターやキャリアウーマンをやっていて高収入だけど結婚せず一人で気ままに暮らしている女たち、と主人公以外もそんな感じ。あ、家族が全員独立したあとも広いマンションにそのまま一人で住み続けている男性も出てきたな。

主人公の沼越幸はまったく孤独を感じておらず、一人での生活を満喫している。外で友達と会って遊んだり、家に友達を招いてもてなしたりもする。見ていて楽しそうだし、こういう人生も悪くないなと思えてくる。たまにヘンなタイミングで自信たっぷりにニヤリと笑うところがちょっとかわいい。今後誰かと結婚するかもしれないことも考えているけれど、今は今で自分の望むとおりにしたいと思っていて、結婚を否定しているわけではない。

一方で所帯持ちをうらやましく思ったりふとしたことで孤独を感じてたそがれる女性も出てくる。見合いをして気が合いそうな男性と出会い、東京での一人暮らしをやめて地元に帰ろうとする女性もいる。こういういろんなタイプの女性を描いていることでいろんな人生が見えてきてじんわりとする。

主人公に男の影がないと言ったけれど、不動産会社の真面目な営業マンの伊達さんがほどよい距離感で彼女のサポートをするようになる。互いに悪くなく思っているようだけど、男女の関係にはなかなかならない。

こういう風に他人の人生を眺めることで自分の人生のことも考えてしまうというとても考えさせられる作品なのでぜひ読んでみてほしい。でも、いまを生きるのに精一杯な人や、残りの人生はもう家族のために自分を犠牲にしてでも働き続けなければならない覚悟を決めたような人にはもう刺さらないかもしれない。
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