100分de名著 ブルデュー“ディスタンクシオン” |
人の持つ感性や趣味なんかは、その人の社会的階層による文化的な蓄積が大きく影響しているのだということを、聞き取り調査と分析により解き明かした社会学の名著と言われるブルデュー「ディスタンクシオン」について、学者が解説しタレントと共に学ぶ教養番組。
自分はこの番組が好きなので、もうどんなテーマでも無条件で見るようにしており、とはいっても随分録り貯めてしまったので(笑)順番に見ていって順当にこの回を見た。おもしろかった。
まず老婆のゴツゴツした手の写真が出てきて、この手をどう思うかアンケートを取ったところ、教養があって社会的地位の高い人ほど「長いこと労働に従事してきた美しい手だ」みたいに答えたのに対して、実際に似たような労働に従事してきたような底辺労働者ほどなんとも思っていなかったという事実が紹介される。他にも樹皮の模様を見て美しい紋様だと思うかどうかとかいろいろ。
こういった感覚は環境によって親から子へと引き継がれ(ハビトゥス)、学歴や社会的地位や経済力といったものにつながり(文化資本)、格差が固定されていっているのだと言っている。そして不思議なことに、当の本人たちはそれを自分自身の努力によるものだと信じているとのこと。
著者のブルデューは貧しい家庭で育ちながら上流階級の人々が集まるエリート校に進学した人で、自分が周囲の人々とあまりに違うことに大きな衝撃を受けたことが研究を始める動機となったらしい。
なんか最近になってハーバード大学のマイケル・サンデル教授が言い出したことと同じだなあと思ったけれど、ブルデューのほうが先だしこっちは現実をつまびらかにするところまでなのに対して、サンデル教授は公正さの研究をしている人なのでどうあるべきかを考えるという点で異なっている(たぶん)。
見ていて思わずニヤリとしてしまったのが第2回の「趣味という闘争」で、いま風に言うと人は趣味によってマウントを取り合っているとのこと。というか自分でも少し自覚がある。趣味っていうからにはそれぞれ好き勝手に楽しんでいればいいはずなのだけど、自分はこれが好きと言うことによってこれが優れていてあれは劣っているというようなことを主張してしまう。
また、戦う場所は一つではなくて、たとえば芸術であれば音楽だけでなく絵画や映画なんかもあって、人はそれぞれ自分の好みに従って分野(界・場)ごとに闘争を繰り広げている。ここで相変わらず聞き手の伊集院光がいい仕事をしていて、芸人界の中でも広く受ける人から通好みの笑いを追及する人や一発ギャグの人など色んな人がいるだとか、テレビ界とラジオ界の違いから自分の属する集団の優位性みたいなものをさりげなく主張してしまうみたいなことを言っていて笑った。伊集院光のかみ砕いた説明には先生役の立命館大学教授の岸政彦もしきりに同意していて、しまいには自分なんていらなかったんじゃないかとまで言ってしまうほどだった。この先生の解説も分かりやすくておもしろかった。
最後にまとめとして、人の好みとか感覚とかは生まれとか環境によってある程度決められるからといってなんなんだという話をしている。一言で言えば自分のバイアス(偏り)を知ることで、より自由に生きられるんだということ。少なくとも見えない手によって左右されているよりは自覚的であるほうがいいと思う。ブルデュー最後の著書は、フランスの色んな人に聞き込み調査を行い、それぞれの人の人生をまとめたもので、読み物としてよく売れたほか、読者から「これは私の人生だ」と寄せられたという。
こういういい番組を作るNHKを支えているのは言うまでもなく受信料であり、テレビを設置している日本国民全員から徴収することにより成り立っている。スクランブル放送にしてしまうと、愚昧な大衆から広く徴収することができなくなり、番組の価値を理解する一部の優れた視聴者だけでは支えきれないので断固阻止すべきである。もちろんこんな素晴らしい番組を作るNHK職員には平均的なサラリーマンの数倍の報酬が与えられるべきである。NHK万歳!(棒)
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