マイケル・サンデルの白熱教室2022 第4回まで |
ハーバード大学の教授で政治哲学者のマイケル・サンデルが、日米中の名門大学の学生をオンラインで集めて毎回特定のテーマで議論させる番組。これまでのテーマは「国家はロックダウンを強制できるのか?」「君の成功は努力の結果?それとも運?」「中国衝撃の教育改革」「中国の“寝そべり族”に共感する?」
マイケル・サンデルが最初にやっていた「白熱教室」つまりトロッコをそのまま直進させて4人ひくかポイントを切り替えて1人ひくかのやつがおもしろかったので、今回もその最新版をやるのかと思って見てみた。あんまりおもしろくなかった。
今回は基本的に学生たちに議論させるだけだった。ある程度議論が進んだら、それをもとにこれまでの研究の成果を解説してほしかったのに、毎回そのまま番組が終わってしまった。いくら優秀な学生を集めても時間制限のある中でその場の思いつきだけで議論しているから限界がある。所々鋭いことを言った学生の発言から、過去に誰々がこんなことを考えたとか引いてくれれば、学生たちの生の声に紐づく実践的な知見が得られたと思う。
おそらく日本人がこの番組を企画したというのが見ていてあからさますぎて恥ずかしく思った。ハーバード大学の中だけでやっても世界中から学生が集まってきているはずなので十分だったと思うのだけど、日本から6人、中国から6人、アメリカから5~6人を集めていた。もし同じような企画の番組をアメリカまたは中国がやったとしたら、日本ではなくヨーロッパから6人にしたと思う。そのぐらいいまの日本の特に人文系の存在感は低いと思う。
しかも日本の学生には東大だけでなく慶応大学も入っている。慶応大学は歴史的に見れば名門だろうけど、なぜ京大じゃないのだろうか。あるいは海外から積極的に留学生を招いたという点では早稲田のほうがふさわしいと思う。こういうところに慶応コネコネ大学のあさましさを見てしまう。
最初から批評ばかりになってしまったので少しは番組の内容も紹介する。
第1回「国家はロックダウンを強制できるのか?」はいまのコロナ禍で個人の自由がどこまで守られるべきかみたいな話。割と当たり障りない議論になったのであまり内容を覚えていない。さすがにこの状況ではアメリカの学生も個人の自由を声高に主張してはいなかった。
第2回「君の成功は努力の結果?それとも運?」は最近よくマイケル・サンデルが扱っているテーマで、成功している人ほど親がお金持ちだとか色々と有利な条件のもとで競争しているのに自分の努力の結果だと信じがちだというエリートにとっては辛辣な内容なのだけど、さすがにこの場では多くの人が運だと答えていて大して議論になっていなかった。
第3回「中国衝撃の教育改革あなたはどう考える?」は中国で子供はゲームを週末の20~21時までの一時間しかやっちゃダメだとか学習塾の非営利化といった国家による統制についてどう思うのか議論をしていて一番おもしろかった。ゲームの規制は国家ではなく子供一人一人のことをよく知る親が判断すべきだと一人の学生が言ったことに対して、珍しくマイケル・サンデル本人が議論に口をはさみ、じゃあアルコールの規制はどうなんだと言ったので自分もちょっと考えさせられた。
第4回「中国の“寝そべり族”に共感する?」は努力してもあまり報われない中国の特に底辺労働者が努力することをやめて最低限食べるに困らない分しかがんばらないようになった現象を扱っていて、今回自分が早めにこの番組をチェックしたのはこの回が目当てだった。学生の中で多少のバラつきはあったものの、中国の一人は気持ちは分かるとしつつもそれではダメだと否定的だったのに対して、アメリカ人の一人はそれも個人の自由だと言っていた。日本の学生の一人が「労働の尊厳」みたいなことを持ち出して否定したのに対して、アメリカの学生が「そういうのは労働者を働かせるための方便だ」みたいなことを言っていて笑った。その通りだと思う。
自分がここまで全部見てきて一番思ったのは、ひょっとしたら中国はこれから世界を圧倒するかもしれないということ。教育産業を規制して事実上の国有化をしてしまうというのは一見バカげた考えのように思えるけれど、無駄な努力をさせて疲弊させるのを防げるし、お金持ちほど教育に金をかけて階級を固定化するのをある程度防げる。資本主義というのは資本を持っている人間が支配する社会なのだから、そこまで権威主義をバカにできないことが特に最近広く明らかになってきた。
ディベート(論争)番組としても教養番組としても中途半端で期待外れだった。もっと企画から練り直してほしい。
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