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100分de名著 ファノン“黒い皮膚・白い仮面”
フランスの植民地の中で白人の文化に染まって育った黒人の精神分析医ファノンが、漫然と自分は普通の黒人とは違うと思っていたり、なのに白人の子供から怖がられたりして、困惑した中で自分の想いを絞りだして綴った本を、専門家に解説してもらいながらタレントと学んでいくバラエティ番組。

今回は芥川賞作家で早稲田大学教授の小野正嗣が解説し、例によってタレントの伊集院光と一緒に学んでいく内容だった。興味深かった。

第1回はまずファノンの生い立ちから入る。彼が生まれたのはフランスの植民地の中でも海外県という本土に近い扱いのカリブ海のマルティニーク島だった。そのさらに中心部で育った彼は、当たり前のようにフランスの白人文化に親しんでいた。ターザンの映画を見ても白人のターザンに感情移入し、黒人は敵だという枠組みを自然に受け入れていた。

第二次世界大戦が始まり、自由フランス軍に参加した彼は、敵の機関銃座の前に突撃する危険な任務になぜか黒人のセネガル人だけが選ばれるという事態を目の当たりにした。自由と平等を掲げた母国フランスで堂々と差別が行われていたことと、自分もセネガル人を差別していたことに混乱する。

第2回は「乳白化」という概念とその現象について扱っている。かつてのアパルトヘイトみたいに露骨に黒人が差別されるような、たとえばバスが別々であったり職業が制限されたりするといったことではなく、白人の価値観が最上のものであるという自然な刷り込みが行われていたと言っており、そんな中で黒人たちは白人に劣等感を持ち白人に近づこうとするようになったという。

第3回は「ネグリチュード」で、今度は逆にその揺り返しというか、アフリカに息づくエネルギッシュな文化こそ自分たちのルーツであり誇りなんだと思うようになる。しかしそんな彼自身は理知的で教養のある人間であり、エネルギッシュな黒人像とはかけ離れている。黒人同士が連帯するとき、結局フランス語を使ってしまうといったことにも触れており、相反するものを抱えてしまっている。それに、差別があることを前提にした主張なので弱い(?)みたいなことをサルトルが言ったとのこと。

第4回はもっと問題を一般化するというか、そもそも差別とはなにか、私たちのあるべき姿とはなにか、みたいな話に進んでいる。黒人だけどがんばっている、みたいなものも偏見だし、私たちの意志は人種からくる思い込みから自由でなければならない、みたいなことを言っていたと思う。でもちょっと内容が難しかったので自分は誤解しているかも。

まあこの番組は本を読み解くのが目的なので、本に書かれていないことにはあまり触れず、この本を読むことでどう人生を豊かにしていくかみたいなことを最後にちょろっと話し合って終わるのはしょうがないのかもしれない。しかし、この本の内容を深く考察するには、私たち日本人がどんな差別を受けているのかといった視点が必要だと思う。番組中で言っていたように、実際に差別を体験しないと想像が難しいから。

アメリカの黒人がアジア人を下に見ているというのを、いったいどれだけの日本人が知っているだろうか?アメリカでは人気スポーツ選手やミュージシャンに黒人が多いので、黒人は白人の次に上の位置にいるようである。アジア系のIQが高いのは客観的事実なのに(そして黒人のIQが低いことも)。たまに海外のサッカー選手なんかが目を釣り上げて東アジア人をバカにしたようなジェスチャーをしたことがニュースになったりもする。

しかし私たちは黒人がアジア人に対して差別感情を持っていると知ってもそんなに腹が立たないんじゃないかと思う。私たちもなんとなく黒人に対して差別感情を持っているからかもしれない。

ちなみにちょっと前にGoogleだったかのAIが黒人をゴリラに分類したとして炎上したことがあったけれど、これはゴリラに対する差別(!)なんじゃないかと思う。これがゴリラじゃなくてライオンとかだったらどうだろう。それにカモシカのような脚といった動物にたとえた褒め言葉も存在する。

NHKがよく取り上げたがる在日韓国朝鮮人の差別問題(?)に踏み込んでいないのは逆に意外だった。その一方で技能実習生としてやってくる東南アジアの人々についてはちょっとだけ触れていた。韓国朝鮮人は日本人とほとんど見分けがつかないのに対して、東南アジアの人たちは明らかに肌の色とか違うので分かりやすいからだろうか。

最後に伊集院光がテレビ局のADへの差別問題(?)を持ち出したのにはちょっと笑った。テレビ局のトイレの個室の壁に「ここで仮眠するな」みたいな注意書きが貼られていたのはいつも見ていたらしいのだけど、今回の収録のあとで改めて見てみると、仮眠したくなるような過酷な労働環境こそ問題なのではないかと気づいたという。トイレで寝るからADはだらしない人間の集まりなんだというのはまったくの偏見だということ。相変わらず鋭くて驚いた。

というわけで、番組でも言っているように、普段私たちが意識していない差別の問題について、無意識に差別的な考えを抱かないよう偏見からなるべく自由でありたいと願うのであれば、こういう本を読んでみるといいと思う。

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