のぞき屋 |
盗聴盗撮を中心に私立探偵のようなことをやっている主人公たちが、他人のプライバシーをあらゆる手段で覗き見ることで、さまざまな事件を解決しながら織り成す物語。
ほとんどの人は、気になる人を盗聴盗撮してみたいという願望を持っているはず。気になるあの人の私生活は? 見てはいけない怪しい趣味や嗜好や生活があるのではないか? 恥ずかしいところを覗いてみたくはないか。そんな願望を擬似的に叶えてくれるのがこの作品である。
連作長編といっていい。いくつかのエピソードがあり、互いに独立している。まず最初に「のぞき屋」という作品があった。こちらは、主人公が自分の彼女の浮気を疑うようになったときに、謎の少年が現れて彼女の生活を覗き始め、最初はそんな卑怯なことは出来ないと主人公は頑なに謎の少年を阻止しようとしていたが、結局彼女の真実にたどり着き、それによって自分の真実にも気づくという話が一つ。もう一つは、謎の少年と二人でのぞき屋という調査業を開業し、まずは盗聴器取り外しサービスを足がかりに客を得ようとするが、悪質な盗聴犯に襲われる女性を助けることになる話。ここまでで「のぞき屋」はいったん完結する。単行本一冊分だ。そして「新・のぞき屋」として、登場人物をガラリと入れ替えて、長い物語が始まる。
まずこの話は非常に下品である。着想上、読者の関心を引き立てるために、かわいい女性が裏で何をやっているのか、というエピソードが多い。男がターゲットになる回もあるが、よせばいいのにホモ系の話になっている。社会派でいい感じのエピソードが一つあるのだが、その回だけはかろうじていい感じに収まっている。主人公たちも下品である。しょっちゅうピンサロに行っている。彼らが童心を持っているからいいものの、持っていなかったらギャグがなくなって単なるエロマンガになりそうだ。
八重歯の助産婦編は数あるエピソードの中でも最高傑作だろう。私がこの作品を映画化するとしたら、まず小さ目のエピソードを解決させてからこのエピソードを持ってくる。ストーリーはネタバレになるから言わないが、人によっては泣けると思う。
それ以外は、のぞきという着想を利用したミステリーというかサスペンスというか、そういう感じの流れで読者を引き込んで流していくタイプの話だ。女性の真実に迫る話以外にも、突然失踪した息子を探して欲しいだとか、のぞき屋対のぞき屋だとかがあり、女性をのぞく以外にもいいエピソードを描いている。
さて私がこの素晴らしい作品についていくつか言いたいことがある。
まず、主人公の見(ケン)とヒロインのレイカの関係が消化不良だ。微妙なニュアンスを描こうとしているのは分かるが、作者は結局少ししか進ませることが出来なかった。はっきりいってこれは作者の力量不足だ。平均的な作家でも、もっとましな描き方があったと思う。ただ、下手に描いて失敗するよりは、このまま読者の想像に任せているこの形のほうがいい。にしても、これだけ作品全体を欲望に正直な形で描いたのに、ヒロインが処女という設定はあまりにあまりだ。まあこれは作者のせいというより、我々庶民のあいだに広がっている聖少女を求める西洋伝来の女性観が元だろう。
最後のエピソードは、アイドルとそのおっかけを扱った話である。おっかけの男は、現実から目をそらしてアイドルの幻想を追いかける男として描かれている。ここまではいい。どこにでもいる人間だ。ところがこの男は、欲望に正直になれというこの作品の主張をひっくり返しかねない大きな一言を口にして、疑問符を突きつけてくる。とてもいい言葉だった。期せずしてターゲットのアイドルと友達になってしまったレイカも、彼女が騙されているので助けようか助けまいか悩む。いわゆる真実と事実の違いはなんだろうというやつだ。ところが、作者はこのあたりを扱いかねたのか、結局この男は前言を撤回するかのように欲望に正直な方向へと舵を戻してしまうし、レイカのほうもノータッチで終わってしまう。これも作者の力量不足なのではないだろうか。この辺をどう扱うかによって、この作品の評価を大きく変わってしまう。
あとやはり一番大きいのは、主人公の心の傷がなんだかよくわからないうちに終わってしまった。ヒロインが主人公を覗こうとするというところまではとても良かったのに、踏み込みきれていない。私はヒロインは割と好きになれた。
絵は多分うまい。好みが分かれそうな人物もいたが、概して色んなタイプの女性を魅力的に描いている。顔も体もグッとくる。私は特に内田有紀をモロに意識して描いたと思われる女子高生がかなりツボにきた。男も色んなタイプがいて楽しませてくれる。
何しろ着想とその表現力が素晴らしいので、最初の「のぞき屋」はぜひ読んで楽しんで欲しい。その上でこういうのが好きなら続刊を読めばいい。ただし、下世話な主人公たちがどうしても好きになれなかったら薦めない。
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