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T5p 2nd generation
世界初のダイナミック型ヘッドホンを作ったことで知られるドイツの音響機器メーカー・ベイヤーダイナミックが開発した密閉型ヘッドホンの最上位モデルの第2世代。1テスラの強力な磁力によりドライバ(振動版)を駆動し、繊細かつダイナミックな音を出す。

十万超えの高級ヘッドホンの走りとなった同社の開放型ヘッドホンの最上位モデルT1をずっと前に買ったのだけど、家では平面磁界型のhifiman HE6seのほうを主に使うようになり、外では騒音の問題で密閉型のヘッドホンやイヤホンしか使えないことから、T1はたまに気が向いたときだけ使う程度になっていた。

最近になってifi audioのmicro iDSD diabloという強力なポータブルヘッドホンアンプを購入し、こいつがT1と結構相性がよくてまた聴くようになった。しかしT1はアンバランス接続しかできないのに対して、micro iDSD diabloはバランス接続が最大の特徴なのでちょっともったいなく感じていた。同じベイヤーダイナミックのaventho wiredはバランス接続できるのだけど、オンイヤータイプで能率もいいのでパワーの強すぎるdiabloでは使いづらかった。

そこへティアックオンラインストアでこのT5p 2nd gererationのアウトレット品が五万ちょっとで投げ売りされていたので買ってしまった。ティアックはベイヤーダイナミックの代理店をやめてしまったので最後のセールとなった。普段は十万ぐらいで売られていたので半額近くになっていたことになる。

T1に対してT5pという名称は下位モデルのように見えるかもしれないけれど、開放型と密閉型のそれぞれの最上位モデルとなっており、値段も定価だか希望小売価格だかは確か同じだったと思う。開放型のほうが一般的なのに対して閉鎖型は人気がないようなのかちょっと安く売られているのをよく見る。

自分の持っているT1は初代なのに対し、今回買ったのはT5pの2nd generationつまり第2世代のモデルになる。どうやら初代のT1は擦過音(サ行の音)が刺さる(耳ざわり)と言われており、そういった主に日本人の声により改良したらしい。正直自分はT1を使っていても刺さると思ったことはないのだけど、アンプとか個人の感覚次第なのでなんとも言えない。

前置きが長くなったのでそろそろ音質について言うと、もうT1とは全然音作りが違った。T5pは同じ密閉型のaventho wiredとは比較的音が近いのだけど、T1と同じようにドライバが斜め前方についているせいか音がちょっと遠くなり、響きも少し繊細になったように思う。こう言ったらヘンな感じなのだけど、繊細さにおいてはイヤホンに近いと思う。T1はヘッドホン的な思い切りのいい音がするけれど、T5pはイヤホン的な凝縮された音がする。

はっきり言ってしまうと、micro iDSD diabloで鳴らすとT1が一番いい音だと思う。T5pは密閉型なので構造上音抜けが悪い。diabloは繊細さよりも勢いを重視したアンプなので(?)ちょっと相性の悪さを感じた。もちろんdiabloにも繊細さはあるのだけど、せっかくのパワーを活かし切れていない感じがした。

不思議なことにaventho wiredのほうが勢いのある音がした。aventho wiredは密閉型だけどオンイヤーでシンプルなイヤーカップをしているのでアンプの勢いが割合発揮できるのかもしれない。それに対してT5pはがっちりイヤーカップに音を閉じ込めているみたいで、内部で繊細に鳴らしている感じがする。

RME Fireface UCで聴くと、聴き比べるのが面倒なのであまり長い時間は聴いていないのだけど、T5pのほうが音がくっきりしているように感じた。そもそもT1とは相性が悪いみたいで音抜けがほとんど感じられなかった。

T1のインピーダンスが600Ωに対してT5pは32Ωと全然違う。T5pのpはポータブルのpだと言われているだけあってそんなに駆動力のない再生機器でもよく鳴るみたいだった。インピーダンスが高いとノイズが減るらしい。

オームの法則が電圧V = 電流I×抵抗Rで、ダイナミック型ヘッドホンの振動版についているコイルを動かすエネルギーは電力W = 電圧V×電流Iに比例するから、電流Iを消すと電力W = 電圧V^2 ÷抵抗Rとなり、同じ音量を出そうと思ったらインピーダンスが高い場合は電圧を上げれば済む話なのだけど、ポータブルな再生機器だと昇圧が難しいので(変圧器が場所をとるから?)インピーダンスを低くするんじゃないだろうか。でもそうすると信号を表現するのに電圧の繊細な上げ下げが必要になる。うーん、理屈これで合ってるのか?大学でアナログ回路を履修しなかったことが悔やまれる(電磁気学もギリギリだった)。インピーダンスは直流抵抗と違って周波数によって変わるので音のバランスも変わってしまうわけだけどオーディオ機器って思ったよりいい加減なのか?まあそもそも人間の耳からしていい加減なんだけど。

ポータブルな再生機器であるデジタルオーディオプレイヤーのcowon PLENUE Sで聞いてみると、aventho wiredはイヤホンのcampfire audio VEGAと比べて解像度で明らかに劣っているしヘッドホンならではの広がりも感じにくかったのに対して、T5pは解像度でそれなりにがんばっている上に音の広がりも感じることができた。でもやはりVEGAが最高だという結論になった。デジタルオーディオプレイヤーならハイパワーなものにしないと活かせないと思う。

遮音性に関してはギリ外で使えるぐらい。交通量の多い場所や地下鉄は微妙だと思う。

前述のifi audio micro iDSD diabloにshanling m0をつなげるとbluetoothレシーバーとしてLDACでスマホと接続できるので、それにこのT5p 2nd generationをつなげると最強のポータブルオーディオだと思う。ただしスーツやシャツの胸ポケットには入らない。正直これをやるために買った。でも思ったより音が少し遠かった。

外観がショボい。初代T1と比べると劣化具合が明らかでガッカリした。イヤーパッドやヘッドクッションが本革だったのが合皮になっているらしい。それにイヤーカップが初代T1は細かい溝が彫られたような緻密に加工された金属だったのに対して、このT5p 2ndはかろうじて浅い凹凸を感じられるのっぺりした金属になってしまっている。ってこれは開放型と密閉型の違いによるものなんだろうか。とにかく肌触りが頼りなくて所有する喜びに乏しかった。まあ合皮は若干しっとりした感じになっているのでこっちがいいという人もいるかもしれないけれど、加水分解におびえないといけない。一方で初代T1のほうが本革なので交換用のヘッドクッションの値段が1.5倍ぐらい高い。

もうこのT5p 2nd generationはディスコン(製造終了)になっていて、いまはT5 3rd generationが売られているけれど(pはなくなった)、音の傾向がガラリと変わってしまったらしい。なんでも特性がフラットではなくなり、中低域が盛られているとのこと。新しいモデルと思えばアリだけどT1やT5の後継モデルだと思って聴くと失望するらしい。そのせいかあまり売れていないみたいでたびたびセールされており普段の値段も下がっている。一方でベイヤーダイナミックはオーディオマニア向けからコンシューマ向けに舵を切りゲーミングヘッドセットなんかに力を入れるようになり業績が上がっていると聞いた。

いま買うならワイヤレスイヤホンのXelento wirelessがいいと思う。スマホに直接つなげて聴けるし音はT1やT5よりぶっちゃけいいと思う。でもイヤホンは耳の中に入れなくちゃいけなくてうっとうしいし、イヤーピースが合わないといつのまにかズレて音がカスカスになってしまう。イヤホンのような繊細な音を安定して楽しみつつヘッドホンらしい音の広がりも少しは感じたい人、耳にイヤホンをねじこむのがイヤな人なんかはこのT5シリーズを検討してみてもいいかもしれない。
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