The Hemp Headphone Ver2 |
アメリカの音響機器メーカーGrado(グラド)が開発した、ハウジング(ボディ)に麻(Hemp)を使用した限定モデルの開放型ヘッドホン。同社の伝統的なハンドメイドの良さを残しつつ完成度の高いサウンドに仕上がっており、ロックが得意な同社のヘッドホンの特性を引き継ぎながらどんな音楽でもそつなく鳴らせる万能さが特徴。
ヘッドホン好きなら誰もが知っている(?)Gradoなのだけど、自分はこれまで縁がなかったのでいずれなにか所有してみたいと思っていたところ、ヨドバシ・ドット・コムで2022年の年末にこのモデルが約四万四千円(ポイント一割)でセールされていたので買った。
アメリカでヘッドホンといえば最近ではAUDEZEやDan Clark Audioなんかの平面磁界型で知られるメーカーが一番に挙げられがちになってきたけれど、ダイナミック型でもKossやGradoといった有名どころがある。Kossが大量生産でコストパフォーマンスの良いPorta Proみたいな製品を出す一方で、今回紹介するGradoは工場でおばさんのパートが一つ一つ手作りしているイメージが強い。以前は造りの甘い個体がよく報告されていたけれど、さすがにいまでは品質管理が良くなってきているみたいだった。
それでも相変わらず素朴な造りで、ヘッドバンドの角度はなんと革の内部に埋め込まれている鉄板を手で曲げる(!)ことによって調整するようになっている。金属というのは一度曲げると完全には元の状態に戻らないため、合理的なんだろうけど自分としてはすごく抵抗がある。
サウンドの方も元気な音が出るとのことで、ロックを聴くと原音以上のノリの良さを出すと言われているけれど、その分上品な音楽には向かないらしい。といっても上のモデルになればなるほど欠点がなくなっていくようだった。
今回自分が買ったのはミドルレンジの下の方の価格帯で出た限定モデルだった。基本的に自分は限定モデルを買う気は全然なくて、というのもこの手の製品ってずっと販売されつづけることで消費者からの評判が定着してきて初めて市場から正当な評価が得られるものだから。限定モデルは希少価値を煽って評判が定着する前に売り切ってしまおうという魂胆が見える。
じゃあ今回なぜこの限定モデルを買ったのかというと、麻というこれまであまりヘッドホンに使われてこなかった木材を使った色物製品かと思いきや、実は廉価な割に意外なほど欠点の少ない優等生的なモデルだったことが知られるようになっていたから。
買ったあとで気づいたのだけど、Gradoらしい音を体験したかったのに優等生的なモデルを買ってどうすんねん!…まあそれでもしっかりGradoらしい音ではあるみたいだからいいんだけど。
一聴して思ったのは、すごく抜けのいいサウンドだった。普段開放型のつもりで使っていたbeyerdynamic T1が実は半密閉型だというのを忘れていた。hifiman HE6seも開放型なんだけど平面磁界型で繊細に鳴らすタイプなのでまた違っていた。このThe Hemp Headphone v2は思い切りのいいダイナミック型かつ開放型なのでいままでにない解放感だった。
高域がよく出ていて気持ちいい一方で、ちょっとノイズ成分も感じた。RME Fireface UCという繊細な音を出せるヘッドホンアンプでも少し耳障りに感じたので、ノイズはこのヘッドホンの特性なんだと思う。ハイカットせずにそのまま垂れ流している感じ。気になる人は気になるだろうし、気にしなければ気にしないでいられるかもしれない。ソースにもよると思う。ディストーションの効いたギターがザクザクしたロックや、エッジの効いたシンセサウンドに満ちたEDMなんかを聴くとそんなに気にはならないと思う。さすがにこれは値段なりなので仕方ないところか。
ダイナミック型を思い切りよく制動してくれるifi audioのmicro iDSD Diabloでも鳴らしてみたのだけど、思ったほどエネルギッシュな音にはならなかった。たぶんもともと鳴らしやすいからだと思う。それほどパワフルでないヘッドホンアンプでも十分鳴らせそう。
ケーブルがぶっとい。ヘッドホン自体のサイズに見合わないほど太くて固いケーブルに違和感があった。着脱できずに固定されている。まあどうせこのモデルは開放型なので外では使えないのだしケーブルが多少かさばっても大して気にはならない。
ヘッドクッションがむき出し(?)なのがちょっと安っぽく感じた。360度ウレタンが露出しているので、横置きすると自重が掛かって次第に形状が変わっちゃいそう。
間違いなく音はいいので、ノイズがそれほど気にならない人で、ヘッドホンアンプに金を掛けずに室内だけでとにかく安くていい音が聴きたいならベストチョイスだと思う。多分十数万のヘッドホンを買ってもこれをおとなしく落ち着かせた音にしかならないと思う。
RS2xとも悩んだんだけど、そっちは七万数千円するのでいきなり買うのはためらわれた。バランス接続できるモデルはさらにもっと高い。これも鳴らしやすいんだったらバランス接続にする意味はあんまりなさそうなのでアンバランスで十分だと思う(憶測)。
逆にブロガーのSandal氏が勧めていた廉価モデルSR125xも考えたのだけど、こっちは安すぎて音質が十分でなくて結局使わなくなっちゃうんじゃないかと思ってやめた。いま考えたらGradoを最初に体験したいんだったらまずこっちを買った方がよかったのかもしれない。
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