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野人転生 8巻まで
空手をやる若者がそのままファンタジー風の異世界に実質的に転移した。特別な能力もなければ装備もなく裸で森に放置された彼は、空手を活かした体術とサバイバルの知識により異世界で生き抜いていく。小説投稿サイトに上げられた作品が原作のコミカライズ版。

以前読んだKAKERU「ふかふかダンジョン攻略記〜俺の異世界転生冒険譚〜」の中で、生身の人間による本当のサバイバル描写というのがおもしろかったものの、作品自体のアクが強すぎて読むのをやめてしまった。今回この「野人転生」を読んでみたいと思ったのは、表紙の髭面に引きつけられたのもあるけれど、もう一度そういうサバイバルものを読んでみたいと思ったから。

ところが少なくともこのコミカライズ版ではあっさり最初の壁を乗り越えてしまい拍子抜けした。木の皮をはいで腰みのを作り、水場を見つけて住居を構えて整え、食べられそうな果実を恐る恐る口にし、火を起こして狩りをするところまですぐだった。最新刊の表紙では髭面な主人公も、最初の頃は丸刈りのイケメンでかっこいい。

そこから初めての魔物であるゴブリンたちと遭遇し、武器は持っていないので空手で倒すことになるのだけど、この世界でも十分通用することがわかる。異世界ものによくあるステータス画面を開くこともでき、レンジャーみたいなスキルも覚えていく。その後、初めてこの世界の人間と出会い、あとは割と普通の異世界ファンタジーになっていく。

…と思いきや、今度は人間社会でのサバイバルへと進んでいくのであった。野生の森のほうが生きていきやすいんじゃないかと思うぐらい次々とトラブルに遭遇する。彼らからしてみれば突如現れた社会の異分子に対して、危機を感じて排除しようとしたり、ナメてかかって利用しようとしたり、屈服させて搾取しようとしたりしてくる。平穏に生きていたいと願う主人公の望みはなかなかかなわない。

主人公が良かれと思ってやったことが様々な形で裏切られ、意外なきっかけとなってあとを引くのがおもしろい。普通の異世界転生ファンタジーだとかわいい女の子と頼りになる仲間を得ていく展開になるものだけど、この作品では仲間ができても全面的に信頼できるわけではないし、女の子と仲良くなっても彼女を不用意に危険に巻き込まないために距離を置かざるをえない。なんというか大人のファンタジーという感じがする。

主人公もそう簡単には強くならない。武器の扱いを身に着けようとするも結局自分には空手が一番だと思い直し、体術をサポートするために短剣を補助として使うようになる。また、レベルキャップ制みたいなものがあって、5レベル単位で強敵を倒さないと上限があって打ち止めになってしまう。これは主人公に限った話ではなくてこの世界の冒険者だけでなく兵士や悪党たちにも言える。

絵は写実的な割に線がはっきりしていて見やすいけれど、表情とかちょっとマンガチックな感じがする。拳の一撃で人を殺す描写とかリアルでいい。やってることはエグいけれどそれほど気持ち悪くない。女の子は素朴な感じがかわいいけれど、よくあるアニメ調の萌えからは遠い。九井諒子「ダンジョン飯」っぽいかも。ちょっと肉感的なのはいいかも。色気を感じられるかどうかは好みによると思う。

とにかく骨太で読み応えのある異世界ファンタジー作品なので、ちょいグロが苦手とか萌える女の子が見たいとかでなければ読んでみるといいと思う。
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