不思議の海のナディア |
ジュール・ベルヌの海底二万マイルの世界観をベースとし、サーカスの黒人姫をやっていた主人公ナディアが、発明少年ジャンや万能潜水艦ノーチラス号とその乗員達と出会い、冒険の中で少女から成長していく話。
もう十年以上も前の作品で、最近になってNHKで再放送していたので、ついつい見てしまった。そのあいだ、なんとディズニーによるモロパクリアニメ映画まで生まれたことから、海外にも多くのファンを持っていると思われる。製作は、ガンダム以来の大ヒットロボットアニメとなったエヴァンゲリオンを作ったガイナックス。
舞台は19世紀のロンドンから始まる。この話の主人公は多分ナディアだと思うのだが、フランス人の発明少年ジャンの視点で語られることが多い。ジャンは鳥人間コンテストのような大会に師匠と共に出ていたのだが、事件に巻き込まれていたナディアと出会い、その逃避行を助けたことから、彼女の願いをかなえるために自分の作った飛行機でアフリカへ送ってやろうとするが…。
まずナディアのキャラクターが非常にいい。勝気でスタイルがよく肌の黒い少女。しかもサーカスで団長にいじめられているという状況つきで、のっけから魅了される。主人公の圧倒的な魅力がこの作品を引っ張っているのは間違いない。自分勝手でわがままだけど時々弱いところを見せる、というツボも押さえていて、非の打ち所がない。さすが、萌えを追求するプロの仕事だと思わせられる。
この作品のストーリーは主に、ナディアのアフリカ行きと、古代帝国アトランティスとノーチラス号との戦いの、大きく二つの要素によって牽引されている。この作品に出てくるノーチラス号は、原子力潜水艦を越えた技術の粋を集めた未来型の万能潜水艦として描かれている。たった一隻で、ガーゴイルと呼ばれる黒幕に率いられたアトランティス帝国の強大な戦力と戦い、その野望を打ち砕くための戦いをしている。色気で引き込んだあとでメカと戦闘でしっかりと心をつかむところが憎い。
とこれ以上ストーリーを解説してしまうと、もしかしたらこれから見るかもしれない人がいると悪いので、ここまでにしておく。
私が最初の放送をリアルタイムで見終えたときに持った感想は、最後のほうわけが分からなくなって終わっちゃったな、というものだった。私は当時オタクという言葉すら知らなかったが、ナディアの正体が明かされたところから、あまりのあざとさに、ああこういう要素が好きな人たちがアニメを作っているんだな、という軽い憤りのような感情を持った。
だから私は、再放送を追ってはいたが、前半の何回か見ただけで見るのをやめるつもりでいた。しかし、改めて見てみると、以前見たときとは違った印象のところが意外にあった。中でも一番大きかったのは、いわゆるオタク的なところに対して寛容になれたことだった。特に最終回なんか、意味もなく突き出た柱の上に登場人物たちが乗せられて言葉を戦わせるシーンがあり、最初に見たときはほんとうに飽きれていたのだが、いま見るとまあこれも演出の一つかなと考えることができる。
ナディアのキャラクターも、以前はオタクによって作られた作為の塊のように思っていたのだが、改めてみてみるとこのキャラクターはオタク好みでもなんでもなく、むしろ普通の女の子を狙って作っているように思える。単に自分勝手でわがままだけど時々弱気になるだけならオタクの好きな記号の塊だが、ちゃんと物語の中でそれらを克服していくまでの過程が丁寧に描かれており、ちょっと格好つければコンテクストの中にちゃんと記号が置かれている。だが次回作のエヴァンゲリオンでは、露骨に記号の塊である二人の少女を出し、ストーリーを無視したにもかかわらず、オタクかそうでないにもかかわらず日本中を魅了した。そう考えれば庵野監督は、結局文化なんでみんなオタクなのだと証明する快挙を遂げたと言えるが、エヴァンゲリオンを傍観してナディアを懐かしんでいた人々もいたことは確かであろう。
うーん、この作品には語るべきところが沢山あるな。まだ半分来たとも思えない。
ストーリー上の一番の盛り上がりどころは、ノーチラス号が敗北しそうになるあそこだろう。書けない書けない。二回目に見た私にもちょっとついていきがたいシーンで、頭では理解できるのだが、感覚と結びつくことによるガツーンとした感動は得られなかった。とてもいい背景とストーリーだと思う。脚本が咀嚼不足なのか、私の頭が消化不良なのか分からないが、最初は「あれっ!?」と思わずにはいられない。
そんな数々のいいシーンがあるこの作品だが、この再放送を見る前まで私の中で一番記憶に残っていたのは無人島編だ。しかも無人島でナディアとジャンとの間が進展するところは割とキレイさっぱり忘れていて、わがままなナディアがジャンやマリーを困らせるところだけが印象に残っていた。以前ここでも書いた無人島脱出を描いたハリウッド映画、セブンデイズ・シックスナイツを見ていて思い出したというのもある。
黒幕のガーゴイルはとてもいいキャラクターだ。悪役にしてはちょっと甘すぎるところとか、特に自分はなんでも知っているという安直な語り口はうんざりするが、真の悪役とはこういうクールな存在なのだということを強く印象付けた。最後滅ぼされるところまでクールなのはアニメキャラながらも尊敬する。
キャラクター同士の関係もよくできている。ジャンとハンソンの発明家つながり、ナディアとエレクトラの女つながり、その他多くの似たものつながりや、グランディス対エレクトラ、ハンソン対サンソンなどの正反対キャラ同士の対決など、見所が沢山ある。
ナディアとジャンの関係が非常にバランスよく描かれている。子供同士の関係が、周りの大人にはやし立てられていくうちに大人の関係に近づいていくという状況は、いかにも作られた感じが強いのだが、本人達があまり周りに流されていないところがとても良い。
検索してみると、インターネット上の百科事典ウィキペディアに詳細な解説が載っていた。解説が細かくて感心する。再放送を追っていたら一話抜けていたような気がして、放送時間がずれたか私が録画を忘れただけかと思っていたが、解説によるとちょうど起きた中越地震により被害者への配慮から飛ばして放映し、ご丁寧なことに次の回の放送時にはナレーターを呼んできて新たなナレーションを吹き込んでつじつまを合わせようとしたらしい。その他、企画原案は宮崎駿が置いていったものだとか、無人島編とアフリカの回のあたりは韓国の会社に作画を外注していたなどということが書かれている。
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