在日・強制連行の神話 |
戦前に日本にきた韓国・朝鮮人の理由を探ることで、今も日本にいるいわゆる在日と呼ばれる人々が、強制的に連行されてきた人たちではなく、概して自分たちの意志で日本にとどまることを選んだ人々であることを証明した本。
色んな切り口からこの問題を語っていて非常に興味深い。その中でも一番重要なのは、終戦時に二百万人以上の韓国・朝鮮人がいて、そのうち祖国に戻りたい人は全員戻ったが、三分の一ほどの人々は日本に残ることを選んだ、ということである。強制的に連行されてきた韓国・朝鮮人は多くいたが、少なくとも在日とはほとんど関係ないのだと言っている。
韓国・朝鮮人が来日した理由についても、資料を掘り起こして現実的な答えを導いている。日本による占領後、朝鮮半島の人口が増加しているらしい。特に南部の農村部での人口増加の割合が高くなり、痩せた土地では吸収しきれなくなった。ダムを作るなどして人口の受け口も増えていたがズレがあって追いつかない。そこへ日本の内地での労働力不足という問題が丁度起こり、日本で吸収するという政策が生まれたそうだ。
トラックで乗り付けて力で押さえつけて捕まえていった、と言われることについても語っている。もともとの資料には、日本の方針に従って点数稼ぎのために朝鮮半島現地の役人がそういう乱暴なことをしている、と書いてあるのだが、引用するときにその部分をバッサリ切り捨てているのだそうだ。
石原慎太郎の三国人発言のときに一部の有識者が細々と言っていたことだが、戦前は増長した韓国・朝鮮人が好き放題やっていたのだということを色んな人が記録に残している。
世代についての切り口もある。在日一世よりも1.5世やそれ以降の世代の方が鼻息が荒いらしい。本気で被害者然としている人が多い中で、本当のことを知っているが敢えてそれに触れないというタイプの人もいると指摘している。
被害者然とした在日に対する精神分析として、いまだに微妙に差別されていることへの憤りがあるのだと言っている。そしてその理由を、自らのはっきりしないアイデンティティを棚上げしていることだと痛烈に批判している。
現実は複雑で、筆者も断定を使わず、かといって慎重というわけではないが、大勢はこうだったのではないかと論を進めている。プロパガンダ然としたものから一歩引いているところに誠実さが感じられる。あとは読者が著者の論をどのように受け取るかどうかだ。
とても読みやすくていい本だと思う。新書ということが十分に考慮された、手軽で中身のある本になっている。こういう本にもっと出会いたい。
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