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敷居の住人
母子家庭で育つ本田千暁は、よく中学をさぼってゲームセンターに入り浸っていた。髪を緑色に染め、かわいい顔だちをしており、誰かに撮られた写真が雑誌の投稿コーナーに載って近所のちょっとした有名人になる。しかし色々と思い通りにいかず、色んな女の子に囲まれながらも悶々とした日々を過ごす。青春マンガ。

「放浪息子」「青い花」を描いた志村貴子の処女長編。「放浪息子」を二回半読んで、ああこの人の作品は素晴らしいなあと思ったので、その勢いでやっとこの初期作品に手を出すことが出来た。

正直、2巻目ぐらいまではさっぱり面白くなかった。千暁くんがやり場のない思いに揺れる描写が延々続くのだけど、フワッとしていて伝わってこなかった。この作品は千暁くんが揺れるさまをいかに魅力的に見せるかがすべて、という狙いで描かれていると思うのだけど(超推測)、千暁くんの置かれている状況や彼の気持ちが漠然としすぎていてよく分からなかった。

彼は両親が離婚していて父親とはずっと音信不通だったのだけど、ある日急に目の前に現れたので、ときどき自分からも会いに行ったりして不器用に思いを伝えあったりする。でも、千暁が自分の父親に対して抱いてきた思いが描かれていない。周囲の人々が千暁に対しておまえの父親はこんなだったとか言う描写もそれに対する千暁のリアクションも薄い。母親は水商売しているけれど、別に男をとっかえひっかえして家に連れてくるわけでもないし、父親のことをことさらに悪しざまに言うわけでもない。また、教育が行き届いていないという以外に家庭環境が悪いわけでもない。

まぎらわしいことに、千暁と顔が瓜二つの兼田というつかみどころのない若い先生が出てくるのだけど、こいつは血縁的には千暁とはまったくの無関係で、千暁を手玉に取るのだった。

謎の美少女キクチナナコが出てくるけれど、思わせぶりなだけで最初は話に絡んでこない。人気者の千暁くんなのだけど、誰からも迫られることもないし、また誰かを好きになることもないのだった。

高校に進学した千暁くんは、ついに運命の人と巡り合ったとばかりにゆかりんこと安達佑佳里と出会い、向こうもまんざらでもなく積極的に話しかけてくるのだが…。

3巻あたりからようやく登場人物が積極的に行動を起こすようになってきて話が動くようになる。作者があとがきで自ら述べているように、この作品は登場人物がみんなわがままなので、やりたいことをやろうとする。千暁くんはそんな周りのわがままに翻弄される。だけど、自分が納得できなかったらきっぱりと断る。女の子に蹴りをかますシーンが印象に残った。そりゃまあ男だったら女を蹴り飛ばしたくなるようなことをされたうえにそんなことがなかったかのようにまた親しげに近付いて来たらそうなるよなあと思う。でもその女の子の気持ちも分かる。彼女にとって千暁とは単なる人気者でしかないのだから。

千暁はグレているけれど割と純粋で、他人の気持ちを尊重している。だから、自己本位に迫ることもないし、イヤと言われたら引き下がるし、親友との仲も気にするし、自分の気持ちにも忠実でありたいと思っているようである。でも、じゃあどうしたいのかというとそれが見えてこない。

そんな展開がダラダラと最終巻まで続く。そして物語は唐突に終わる。

この人は感性で描いているんだろうなあ。この手の作品が本来描き出すであろう「父と子の物語」や「家族の物語」、あるいは「男同士の友情の物語」や「運命の相手との恋物語」みたいなものが全然形を成さず、残骸が転がっている。のちの「放浪息子」「青い花」を見ると、結局自分の作品に分かりやすい物語は不要だと切り捨てたのだと思う。そして、分かりやすい物語が取りこぼしてしまうような繊細なものをざっくりとすくい取る作風を完成させたのだろうか。

主人公が女の子だったら、男性読者にもっとウケが良かったかもしれない。あ、そうしたらそもそも話が成り立たなかったか。千暁ちゃんに群がる男の子たちが彼女を前にしてやっぱ違うなんてことにはなりにくいだろうから。

でもそれ以前に千暁というキャラクターがやっぱりおかしいように思う。生い立ち的にも振る舞いとしてもやけっぱちな性格をしているのに、性格が妙に真面目でいじけている。きっちりした家庭で育って野生のない平凡な少年が不良の道に誘い込まれるけど生来の性格はなかなか変わらない、みたいな話だったらもっと共感できたかもしれない。

というわけでこの作品は志村貴子ファンだけ読めばいいと思う。まあ3巻まで行けば割と広く気軽に楽しめるんだろうけど、そこまで行くことが出来るかどうか。
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