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ちゃんと描いてますからっ!
中学生の女の子・平原歩未は、母親不在の父子家庭で苦しい家計を支えるため、冴えないマンガ家の父の仕事を手伝いながらなんとか暮らしていた。しかしある時を境に父はマンガを描かなくなり、仕方なく歩未は編集者の目をごまかしながら代わりにマンガを描くのだった。少年マンガ。

九十年代にヒットしたマンガ「りびんぐゲーム」の作者である星里もちるによる作品。「りびんぐゲーム」は面白かったけれど、もう再読することはないかなと思って処分しようか迷って床に平積みにしていたら、同じ作者の新作であるこの作品が目に留まったので読んでみた。とても面白かった。

中学二年生の女の子がけなげに周りの大人の目をごまかしてマンガ家としてやっているのがウケる。といってもネーム(話の筋やコマ割りまで出来ているいわばマンガの設計図)だけは毎回父親がファミレスで編集者と打ち合わせて終わらせている。その後、歩未の目をごまかして父親が毎度逃亡する。なぜ父親は描かなくなってしまったのか。

歩未が割と素朴な女の子なのがかわいい。いまどきこんな子がいるんだろうかってぐらいに。正直なんか古いなあとも思った。でも逆にいまの作家さんはこんな女の子を描けないかも。歩未は同じ陸上部だった先輩の男の子に想いを寄せているけれど、彼は父親のマンガのファンなのだった。実は自分が描いていると言いたい気持ちもあるけれど言えない。歩未は仕事が忙しくなったせいで陸上部をやめている。

歩未には妹がいて、メガネっ子でまるで男の子みたいな外見をしている。というか最初読んでいて弟なのだとばかり思っていた。こいつはパソコンに詳しくて、作中マンガ制作のデジタル部分で活躍する。口数は少ないけれど内気ではなく、思ったことをはっきり言う。小さい子たちが大人に負けずに仕事をしているのが面白い。

アシスタントの藤谷あかねは妙齢の女性で、仕事だけでなく母親のいない一家を家事でも支えている。そして父親のことが好きみたいだが、みんなに遠慮して距離を置いているのだった。

すごいテンポがよくて絵がすっきりしていて読みやすかったので、ぐいぐいと読み終わってしまった。単行本全4巻で完結するので短いし。気楽に読む作品としては最上級だと思う。

歩未が腕を怪我した父親の補助でネームの絵だけ描く場面が一番面白かった。父親がぶっきらぼうに指示を出したり、歩未がサラサラとすごい速度で描いていって父親が唖然としたり、何度注意してもオーバークオリティで下絵レベルの絵を描いてしまったり、それを間近で見ていた編集者が驚いたりするのがよかった。歩未と父親が丁々発止のやりとりをするのがいい。あと、歩未がついにふてくされて仕事を放棄する回の歩未の態度がめっちゃかわいかった。

ただ、読み終わって疑問というか消化不良なところがいくらかあった。一番大きいのは、結局これ何の話なの?っていうところだった。なぜ父親はマンガを描かなくなってしまったのか。話が進むとそのきっかけとなったであろうエピソードが紹介されるのだけど、それを見てもだからなにという感じだった。まあマンガ家一家の奮闘記ってことなんだろうけど、それ以上でも以下でもないってことなんだろうか。作者の代表作「りびんぐゲーム」でも、手違いでオフィスを借りられなくなった会社が主人公の家のリビングで営業してしまうという話が、最終的になんだかいい感じに現代社会のどうとかに結び付いたかに見えて終わっただけだった気がする。

登場人物がそれぞれどういう動機とか熱意をもって動いているのかが、いまいち掴みきれなかった。歩未のマンガや父親への想い、空の考えていること、アシスタントの藤谷あかねの想い。なんとなく伝わってくるのだけど、最終的にもやっとした部分が残った。あとは読者が想像力で補うべきところなんだろうか。歩未と先輩との淡い恋愛も、中学生同士だからあんなものなんだろうなあ。

最終巻で二人が創作をめぐってちょっとした対立から共作へと進むところは、良くも悪くもなんか息苦しかった。これ書くにあたって最初から再読したらついつい三巻まで読んじゃったけど、最終巻の前にいったん本を置いてしまった。でも結末はちょっといい感じでまとまるので初読なら読むといいと思う。

誰でも気軽に広く楽しめる素晴らしい作品なので、そういう本を探している人なら無条件で勧める。突き抜けた感動やキャラ愛みたいなものを求めている人にはちょっと物足りないかとは思うけれど、そういう人が読んでもよかったと思えるんじゃないだろうか。
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