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上野さんは不器用 6巻まで
ツインテールで勝気な女の子の上野さんは、科学部の活動として怪しい発明品を使って後輩の田中くんの劣情を誘って自分に惚れさせようとするが、鈍感でまっすぐな彼には届かないのだった。少年マンガ。

この作品は2019年にアニメ化されたのだけど、自分はその前にこの原作を確か一巻だけ読んでおり、第一話からろ過装置で処理した自分のおしっこを男の子に飲ませようとする展開に一発でやられたのだけど、すぐに読まなくてもいいかと思ってとっておいたらいつのまにかアニメ化されて単行本も6巻まで出ていた。

この作品の素晴らしいところは、まずボケとツッコミが研ぎ澄まされていること。まったく無駄のない会話のやりとりをじっくりと噛みしめてしまう。それどころかセリフのない無言のやりとりもあって、間の取り方といいコマ割といい本当に素晴らしかった。

舞台のほとんどは化学室(?)で毎度すっとぼけたやりとりが繰り広げられる。第一話は上野さんがあの手この手で理屈をこねて後輩の田中くんに自分のおしっこを飲ませようとするのだけど(!)、だまされまいと田中くんは頑として飲まない。で、なんだかんだで上野さんが自爆してオチがつく。理詰めで持って行くだけじゃなくて、勢いだけでなんとかしようとすることもあって緩急が素晴らしい。問答無用で寸劇に巻き込んでくるという合わせ技もある(田中くんが化学室に入ってきたらいきなり電車の中という設定だったり)。

主要登場人物としてさらに後輩のメガネ女子の山下さんが出てくる。こいつはマイペースで普段黙って本を読んでいるだけなのだけど、基本的には上野さんのしもべなので中立を装って話に絡んできて、「セクハラです」などと言って一緒に田中くんを貶めようとする。一方で嫌なことは頼まれてもやらないのだけど、百円とかで簡単に買収されるのがウケる。

上野さんは毎回毎回すごい発明品を作るのだけどそれについてはまったく鼻に掛けず、他方で自分が女子中学生として高い価値を持っていると信じ切っている。だから発明品は全部田中くんの性的関心を自分に向けることだけを目的としている。科学の力といっても惚れ薬とか自分をセクシーに見せるとかではなくて、遠回りな方法で自分の下着や素肌に田中くんの視線を向けさせようとするといった感じ。本当なら女の武器を利用しようとするだなんてイヤな女だなあと思うところを、なんともしょうもなくて逆に健気な乙女心だなあとかわいく感じてしまう。

絵がシンプルでかわいい。上野さんはツインテールで自信に満ちているほか、八重歯がのぞいていていたずらっぽく、たくらみがバレると急に赤面してあわてる。田中くんは毎度イヤがったりうんざりしたりする表情がかわいい。山下さんは一見おとなしいのに急に過激なことを言うときの不機嫌な表情がいい。

他に上野さんの友達が何人か出てくるのだけど、田中くんの前で裸になっても平気な痴女だとか(一応発明品で肌が見えないようになる)、ちょっとした誤解から田中くんに好かれていると思い込む女だとか、みんなどこかしらおかしい。田中くんの双子の妹ちゃんたちも性格が振り切れていて、たまに出てきて暴走して田中くんに怒られる。彼女らはみんなそれなりに魅力的ではあるのだけど、キャラクターとしてはなんか弱くて主要登場人物になりきれていない感じ。ちなみに男の子は田中くんだけ。

脚本演出が素晴らしいのにいまいち作品を愛しきれないのはなぜだろう。既刊分読んでだいぶ好きにはなったけど、このさき読めなくても別にいいかって思えそう。

たとえば上野さんの関心は田中くんを振り向かせることにしかないので、彼女が他にどんな嗜好を持っているだとか、逆に何が嫌いなのかとかはまったく描かれない。キャラクターものとしていまいち成り立っていないのはこういうところだと思う。

彼女が科学部に入ったきっかけとなる過去の話がちょっとだけ語られるのだけど、まだまだ断片的なのであまり見えてこない。先輩たちがいてにぎやかな科学部がどうなったのか、なんか泣けそうなエピソードが出てきそうなのでちょっと楽しみにしている。もちろん最後はギャグになるんだろうけど。

この作品にはストーリー展開もない。いきなり6巻から読んでも問題ないと思う。まあ13号とかタモンとか途中から出てきて準レギュラー化しているロボットやペットがいるので順に読まないと謎の存在になってしまうというのはあるけれど。話の筋がないのはダメなわけじゃないけど、なんというかワクワク感には乏しいと思う。そういえば藤子不二雄の超名作「ドラえもん」も映画以外はストーリーがなかったっけ。毎回面白そうな秘密道具が出てきて、のび太が悪用して調子にのって失敗する。この作品も似たようなものか。まあそもそも「ドラえもん」が面白いかというとどうなんだと思うけど(?)。あと上野さんの秘密道具(?)には夢がないか。

というわけで色々ととがった作品なので読む人を選ぶかもしれないけれど、研ぎ澄まされたやりとりは一見二見(?)の価値があるので、ギャグマンガやお笑いが好きな人はぜひ読んでみるといいと思う。
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