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無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
34歳無職で引きこもりだった主人公は、親の死がきっかけで兄弟姉妹から家を追い出され、絶望の中で路上をさまよっているうちにトラックにひかれて死んでしまう。その後なぜか中世ヨーロッパ風のファンタジー世界で貧乏騎士の一家の長男として生まれ変わり、今度こそ本気で生きることを決意する。ファンタジー小説。

2021年にアニメ化される前にフジカワユカによるコミカライズ版を読んで最初は面白かったのだけど、魔大陸編になってスペルド族と関わる話がなんだかいまいちに思えて途中で読むのをやめてしまった。その後アニメ版を見てすごく丁寧に作られているなあと思って毎週楽しみにしていたらあっさり1クールが終わってしまい、続きが非常に気になってあらためてコミカライズ版を既刊全部読んだ上で原作に手を出してみた。とても面白かった。

主人公はクズニートだったけど、高校受験に失敗して偏差値がちょっと低い高校に入り、生来の正義感でたちの悪い不良の素行を注意したところ学校に行けなくなるほどの壮絶ないじめを受けてそのままドロップアウトしたという不幸な生い立ちがある。だから元々の性格は快活で、人生をやりなおしたいというやる気には満ちており、前世で理由はどうあれ努力してこなかったことを後悔している。

ルーデウス少年として生まれ変わった彼は、イケメンの父親と美人の母親の血を受け継いでまあまあかわいい男の子となっていて、せっかくファンタジー世界に来たのだからと3歳の頃から魔法の勉強を始め、コツコツと努力しているうちに桁外れの魔力を身につけることになる。

とにかく筋書きが面白いのであまり内容を説明しないほうがいいと思う。

主人公が強力な力で無双する俺TUEEE的な作品ではあるのだけど、何度も壁にぶつかっては乗り越えていったり、時にはどうにもならない壁にぶち当たって途方に暮れることもあったりして、この先どうなるのか目が離せない展開ばかりだった。

自分が一番感動した場面を説明したいので、なるべく興が覚めない程度にちょっとだけ話を紹介すると、前世の記憶を持っているため頭がいい主人公ルーデウス少年は親戚の貴族一家のもとに家庭教師として住み込み、その家のお嬢様で三歳年上の少女エリスに教えることになる。ところがこのお嬢様は手の付けられない暴れ者で学校からも追い出されており、ルーデウス少年は授業をするどころではなく殴られたり蹴られたりする。その後なんだかんだでエリスを手なずけて親しくなり、様々なイベントや事件、そして大冒険があったあとでついに一つになる日を迎える。エリスの身の回りでは色々あり、彼女はこれからルーデウス少年を頼って生きていくことを一度は決意するのだけど、抱き合ったときに気づいてしまうのだ。ルーデウスが自分より三歳も年下の少年だということに(書き方が悪いのか当たり前のことを言っているようにしか聞こえない無念)。

いま思ったのだけどこういう粗野な女性をしつけていく話というのは「じゃじゃ馬ならし」「マイフェアレディ」みたいに定番なのかもしれない。こういう話は女性蔑視的だという議論もあるらしいけれど、この作品でのエリスはルーデウスを守ろうとする方向に向かうので、彼女の決意がとても尊く思えた。…アホキャラではあるのだけど。彼女が「うん、わかったわ!」と言ったあとで、これはわかっていないときのわかったわだとルーデウスが地の文で冷静に分析しているシーンが何度もあって笑った。でも頼りになるキャラで、ルーデウスをリードする場面も多い。ほかにもヒロインが何人かいて、魔法の師匠、守ってやるキャラ、売り言葉に買い言葉でケンカする相手、と色んなタイプの女の子が出てくる。

この作品には一見イヤなキャラがいっぱい出てくる。前述の粗暴なお嬢様エリスを始め、悪人だからと簡単に人を殺してしまう頑固なルイジェルド、自分の興味あることにしか関心を示さないザノバ、なにかと突っかかってくる有名ギルドのリーダー、自信過剰で高慢ちきなクリス、家名を守ることを第一に生きている口うるさい祖母。最初は衝突するけれどルーデウスはちゃんと彼らと向き合い、互いに譲れない部分は妥協しながら良い関係を築いていく。そうした中で得た人間関係がその後の彼の助けとなっていく。

伝説上の人物が普通に出てくる。数百年前に起きた魔族対人族の戦いで活躍したキャラがまだ生きていて、物語に普通に関わってくる。そういう偉い人とも関係を結んで力を借りたり、あるいはどうしても力を貸してくれなかったり、時には対立したりする。なんというか半分神話みたいな感じで面白い。でも幼女のなりをしたハイテンションな魔帝キシリカ・キシリスとか、どこかしらみんなコミカルな魔王たちの存在は正直あんまり好きになれなかった。彼らの気まぐれさとかこだわりなんかはいかにもそれっぽくて世界観になじんでいたように思うんだけど、一方で軽薄な感じがしてしまう。

準伝説上の存在として七強がいたり、剣術の各流派のボスや大幹部たちがいる。この世界には剣術に大きく三つの流派があり、一撃必殺の剣神流、受け流してカウンターの水神流、そしてなんでもありの北神流がある。それぞれ段みたいなのがあって、下級、中級、上級、その上が剣神流なら剣聖、剣王、剣帝、剣神と階層構造になっている。剣王ギレーヌとか称号みたいに呼ばれる。魔術師も似たようなもので、上級水魔術師とか呼ばれる。色んな英雄がいて敵として出てきたり味方として一緒に戦ってくれたりしてワクワクする。ちなみにルーデウスは結局土魔法を好んで使うようになるのが渋い。

ルーデウスは実のところ物語的に何かを成し遂げるわけではない。魔神ラプラスにも匹敵する魔力を持つと言われるが、作中で次の大戦が起きるわけではない。歴史的な事件を陰では支えるけれど表には出てこない。本編の最後に歴史書を引用するという形で略歴が第三者の目で紹介されるが、謎の多い人物として書かれている。結局のところ彼がやったのは、信頼する友や愛する人と出会い、家庭を築き、子供を育てるといったことだ。本編のあとに蛇足編としてその後の話が書かれるが、彼のもとに最後まで残っていた子供が独立して家を出る話で終わっている。それならばもっと子育てに焦点を当ててほしかった。なにかしらエピソードめいた話が描かれている子供は確か一人だけだったと思う。本編が2015年に完結しているのでもう作者はこれ以上書くつもりがないみたいだ。

父親パウロとの様々なエピソードがどれもよかった。賢しい子供だったルーデウスに対して半ば不気味に思っていた父親パウロは、不幸な事件のあとで知らず知らずのうちにルーデウスを頼っていたことで逆に行き違いが起きて衝突するが、そのうち良好な関係になっていく。ルーデウスのほうも最初は自分の父親に対して女癖がひどくてどうしようもないやつだと思っていたけど、そんなところも含めて尊敬すべきところだけでなくどうしようもない部分も含めて愛おしく思うようになる。結婚前のパウロのことがかつての仲間の口から語られるのも味わいがあって良かった。

ちなみに転生前の両親との関係について反省する描写もあるのだけど、こっちのほうはあまり具体的な描写がなくてふわっとしていた。引きこもり始めたときに親身になってくれた友達を遠ざけてしまったことを後悔もするのだけど、転生前の話はそんなに描かれていなかった。ひょっとしたら転生前の描写を厚くすることで読者が感情移入しやすくなったかもしれないけれど、転生後の話だけで十分普遍的に人の心を掴むと思うので転生物である必要なんてなかったんじゃないかと思う。あ、でもそうなると幼少期からなんでも出来たのは嫌な感じになっちゃうのか。

ザノバの弟の報われない話や祖母との行き違いの話なんかはちょっと出来すぎた感じがして素直に楽しめなかったけれど、こういうほろ苦い話が物語に深みを与えていると思う。細かいところをほじくりだすと他にもいくらか気になるところはあるのだけど、そういうのがあまり気にならないほど全体的に豊かな作品だった。

ギレーヌが結局最後に自分の進むべき道としてあれを選んだのがちょっとしっくりこなかった。冒険者を引退して用心棒をしながらルーデウスから読み書き算術と魔法を習った彼女がいまさらあの道に進もうと思うだろうか。その前にかたき討ちを望むほどの義理堅さを見せるところにも違和感があった。アスラ王国が好きになったということなんだろうか。

この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」で長いこと累計総合ランキング1位だったらしい。でも完結してからはビュー数も落ち、いまでは伏瀬「転生したらスライムだった件」に1位を奪われている。ちなみにいまそっちのコミカライズ版も読み始めているのだけど、魔王と呼ばれる存在が主人公のいる街に住み着くところなんかが同じで、どっちがパクったのかそれとも全然違う作品がパクり元なのか知らないけれどなんだかんだでなろう系の作品って普通の商業作品と比べて節操ない感じがした。

ナナホシは結局どうなったのだろう。

なんだかんだでファンタジー小説の傑作なのでぜひ読んでみてほしい。
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