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ようこそ実力至上主義の教室へ 一年生編(11.5巻)まで
日本が国際的な競争力を失った空想近未来、単純な学力や身体能力だけではない本物の「実力」を養成するため、高度育成高等学校という高校が国によって設立された。そこでは定期的にさまざまな種目でクラス単位での団体戦や個人戦が行われ、その結果によって高額の小遣いがもらえるほか、最終結果によって卒業後の進路まで約束されるのだった。ライトノベル。

2017年にアニメが放映されたのをまず見たのだけど、おもしろいとは思ったものの夢中になるほどではなかったので無人島編の手前でいったん見るのをやめてしまった。それからしばらくして続きを見ようと思ったら筋を忘れていたのでマンガ版(作画:一乃ゆゆ)を見て追いついてから最後までアニメを見た。その後、2022年の夏にアニメの2期が始まることを知り、また筋を忘れてたので今度はこの原作小説を最初から読んでみた。おもしろかった。なお、小説で一年生編の最後まで読んでしまったのでアニメはまた途中で見るのをやめてしまった。

クラス分けにより40人学級が4つ、A~Dクラスに分けられる。クラスポイントなるものがどのクラスにも最初1,000ポイントずつあって、クラスの成員であれば毎月これの百倍のプライベートポイントが与えられる。このプライベートポイントはなんと日本円とほぼ同等の価値があり、学園内であれば好きなように買い物したり飲食したりできる。何もしなくても毎月約十万円ももらえることを知り、狂喜乱舞する生徒たち。だがそれには裏があるのだった。

この学校のおもしろいところは、現実世界のしくみがよく反映されていること。その最初の洗礼として、ルールは必ずしもすべて明示されるわけではないことを生徒たちは知らされる。また、コミュニケーションスキルなんかも重要だということ。

次に、クラスで連帯責任があること。個人個人でいくらがんばっても、がんばらない人に足を引っ張られる。仮に全員がんばったとしてもどうしても個人差が出てくる。自衛隊とか警察学校にもこういう訓練があって、能力的に劣る人がいたり突発的に誰かにトラブルが発生したりしたら互いにカバーすることを求められる。

さらに、バレなければ不正が黙認されること。学園内には監視カメラがたくさん置かれているけれど、置かれていない場所もあるし死角もある。人を出し抜いたり出し抜かれたりすることも「実力」であるということ。

主人公の綾小路清隆は一番下のDクラスに属することになるのだけど、このクラスにはひとくせもふたくせもある人間が多く振り分けられる。こいつ自身は人と仲良くなるのが苦手なのでなかなか友達ができない。同じくクラスで孤立しているっぽい堀北鈴音に話しかけてみるが冷たくあしらわれる。それでもなんとかしようとしているうちに、クラスの3バカと呼ばれる男子生徒たちとそれなりに親しくなる。

その中の一人、バスケ部所属で早々にレギュラーを獲得しそうな須藤健は、部活動優先で授業中は居眠りし、ろくに勉強もしないのでテストの点もひどかった。クラスのためにちゃんとやってくれと周りから言われるが、言うことを聞かないどころか暴力をちらつかせて威圧してくる。さらには他クラスの策略に引っかかって暴力事件により退学させられそうになる。こいつを助けてクラスの足を引っ張らないよう言い聞かせようと言う人がいる一方で、さっさと退学にさせたほうがクラスのためにいいんじゃないかと言う人たちも出てくる。

一学期が終わり、生徒たちが学校のしくみに慣れ始めたところで、夏休みに豪華客船でのクルーズが行われるが、それは無人島で行われる特別授業のためだった。ここでなんとクラス単位での一週間のサバイバル生活が行われる。この授業だけの特別なポイントを使えば無人島でもある程度快適に過ごせるが、ポイントを使わなければ授業が終わったあとでクラスポイントを増やすことができる。ポイントの使い方でクラス内が割れるだけでなく、いくつかの特殊なルールによりクラス間でのポイント争奪戦が行われる。

いろいろ説明していてもキリがないのでいったんこのあたりにしておく。

なんといっても実社会を想定した学校のしくみがおもしろいのだけど、これをおもしろがることのできる人ってどのくらいいるのだろう。特にアニメやマンガやライトノベルが好きな読者層からすると、自分たちの存在を否定されるように思うんじゃないだろうか。ヒーローが活躍するたびに自分たちが弱者であることを思い知らされるという。

頭脳戦にとどまらないところが素晴らしい。学校でのクラス対抗戦というとまず井上賢二「バカとテストと召喚獣」が思い浮かぶけれど、あっちが仮想的な戦場の中でテストの点数が反映される召喚獣同士で戦うのに対して、こっちはルールの中で実際に知力体力と謀略を尽くして競う感じ。福本伸行のカイジシリーズや甲斐谷忍のLIAR GAMEのほうが近いと思う。

先行する作品との一番の違いは、いかにゲームの必勝法を見破るかではなくて、ルールの裏をかいて相手を出し抜けるかどうかがポイントだというところだろうか。たとえば、最悪ゲームに負けてポイントを失うことになっても、相手との交渉により失ったポイント以上のものを手に入れたり、審判のような存在である教師と交渉して意外な方向から勝ちに行ったりする。そういうなんでもありなところが総合格闘技のようにえげつなくも見ごたえのあるものとなっている。

主人公というかこの作品で主に一人称をとっているのは綾小路清隆という一見冴えない男子生徒なのだけど、どう考えても成長の点でいえば堀北鈴音や須藤健のほうが主人公っぽい。なぜこいつらを主役にせずに綾小路清隆に話を語らせたのか。その答えは徐々に明かされていくのだけど、こいつ主人公にしておもしろいんだろうか。この圧倒的強者感がいいんだろうか。

綾小路清隆は人を人と思わず利用する。サイコパスそのもの。ちょっとネタバレになるけれどこいつは「ホワイトルーム」という特殊な育成機関で育っている。圧倒的に優れた自分に自信を持っており、人に成長を求める傲慢さも持っている。一方でこいつは自分自身の弱点についても一応自覚してはいるのだけど、普通の人なら絶対にしない失敗もするのがちょっとおもしろい。でもこいつの物語を読者は共感できるんだろうか。

クセもの揃いでなかなか団結できないDクラスに対して、龍園翔という独裁者が恐怖政治を敷き汚い手を使ってくるCクラス、一ノ瀬帆波というお人よしすぎる博愛主義者のもとで固く団結するBクラス、一枚岩になれず派閥争いをしているが個でも群でも強いAクラス。果たしてどのクラスが勝つのかを追いかけると、作者の世界観とか文学性が見えてきそうで名作の匂いがしたのだけど、読んでいてその点あまり真摯に突き詰めている感じがしなかった。天才対秀才とか。

なんというかキャラの魅力に乏しいと思う。本当に個性豊かなキャラがたくさん出てきて色んな行動をしたり感情をぶつけたりしてくるのだけど、なんというか妙に浅い感じがする。堀北鈴音が須藤健に対して語りかける場面も、読んでいて唐突感が拭えなくて一歩引いて読んでしまった。この流れで急に須藤がシングルマザーどうこう言うか?みたいな。

たぶんアニメ2期のクライマックスになるであろうCクラスの龍園翔との決戦の結果は事前に予想がついてしまった。それでもやっぱり展開はおもしろかったんだけど、Cクラスの人間模様に実感が持てなかった。龍園翔がどうやってみんなを従えるようになったのかとか、支配が確立してから手下となったメンバーが龍園翔に対してどう思っているかとか、読んでいて微妙に納得できなかったせいかストーリーにもそれほど満足できなかった。

Bクラスがなぜ一ノ瀬帆波に心酔してすべてを任せるようになったかとか、Aクラスでなぜ葛城が敗勢で坂柳に掌握されるようになったかとか、こいつらを主人公に絡ませるんだったらもっと描写が必要だと思う。そういうのを本編ではなくサイドストーリー的な4.5巻や7.5巻なんかでやっていくべきだったと思うのに、葛城については本当に意味不明なエピソードになっている。一つの作品として成り立っているかどうか微妙な日常回で埋められていてつまらなかった。これらの巻は読み飛ばしたほうがいいと思う。

こういうことを書くと作者の人格への批判になってしまうかもしれないのだけど、作者とイラストレーターのコンビは同じエロゲー制作会社で同じゲームを作ってきたタッグみたいで、そのせいなのかとにかく商業クオリティの作品を作ろうというプロ精神が先行してしまっていて、人物描写をこのぐらい書いておけば設定上十分だからこういう話を展開しようみたいな線が透けて見えるように思えた。

宝島社の「このライトノベルがすごい!」では二年生編が刊行された2020年から読者投票で一位になっているみたいなので、そこからがすごくおもしろくなるのかもしれない。このランキングのしくみがどうなっているのかよくわからないけれど、協力者票なる操作くさい票を除いた読者投票で一位になっていることから、ステマではない真の人気を得ているんだと思う。自分にはそこまで刺さらなかったけど。

二年生編では、生徒会長だった堀北学(鈴音の兄)が卒業し、新たに生徒会長になり競争絶対主義を掲げる南雲雅や、綾小路清隆を手元に呼び戻したい父親から送り込まれた月城理事長代行やホワイトルームからの死角、そしてもちろん成長しつづける同学年のライバルたちや新たに入ってくる一年生との戦いなんかがあるらしい。

ルールの枠内におさまる頭脳戦に物足りない人、個性豊かな登場人物が繰り広げる学園模様を楽しみたい人、圧倒的に強くてサイコパスな主人公の活躍を見守りたい人、本物の「実力」なるものに納得できる人なら結構楽しめる作品だと思うので読んでみるといいと思う。
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