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死の壁

養老 孟司 (新潮新書)

まあまあ(10点)
2005年3月26日
ひっちぃ

大ベストセラーとなったバカの壁の第二弾。解剖学者の養老先生が、今度は死について語っている。

悪く言えば放談。思いついてきたことをコロコロと次から次へと語っている。良く言えば、長年熟成させてきた考えを一つ一つ搾り出している。あとがきで作者が述べているが、この本に書いた内容で大体いままでにためてきた言いたいことは語り尽くしたらしい。

ハッとさせられることがいくつかあった。まず、安楽死問題を、医師の視点から考えてみよう、ということ。これまで安楽死は、死を願う人とその家族ぐらいにしか焦点があたっていなかった。では医師はどうなのだろう。たとえ患者を救うためとはいっても、人を殺すという重大なことを任せて良いのだろうか。死刑執行のときは、銃殺刑でも電気椅子でも、必ず執行者は複数用意された。そうでなければ精神が持たないからだという。人を殺すという行為は、たとえどんな状況であれ、その人に大きな影響を与える。それなのに、これまで我々は安楽死させる役目を持つであろう医師について、なんにも考えてこなかった。

死や死体には一人称と二人称と三人称があるという。一番つらいのは二人称つまり肉親や知り合いの死だ。三人称の死は、どこかで誰かが死にましたという死だ。一人称の死は実際には存在しないものだという。自分の死は自分では感じることが出来ないからである。作者の解剖学教室で、かつての恩師を解剖することになったときは、さすがに学生たちも二日目だか三日目ぐらいでもうこれ以上できなくなってしまったのだそうだ。

日本の都市化が、死を覆い隠してしまった、というどこかで聞いたことのあるようなことも語られている。

一つ一つのテーマがあまり掘り下げられず、軽い本のようにも見えるが、老いて経験を積んできた作者がためてきただけあって、一つ一つ考えさせられるテーマが多い。一方で、ちょっと心にとまっていたからと軽く出しているように見えるテーマもあり、受け止める読者である私がまだあまりよく理解できていないこともあるのだろうが、あんまり直球ど真ん中に来るような本ではなく、ゆるいカーブでストライクを取られたような印象の本だった。

まあでもそれほど読んでよかったという感じがしないのはなぜだろう。

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