映画、テレビ番組、舞台芸術
アニメ
十二国記 アニメ版
原作:小野不由美 NHK、スタジオぴえろ
最高(50点)
2006年8月7日
主人公の優等生タイプの女子高生・中島陽子が、突如異界からの使者に招かれ、古代中国に似た世界で自分と向き合う冒険の旅に放り出される話、ほか。
大きく四つの区切りがあり、最初の「月の影 影の海」では、ヒロインが周囲をうかがって良い子を演じてきた自分と決別し、自分のやるべきことを成し遂げるまでの物語だ。人に裏切られ、自分がどうすればよいのか悩み、やがて諦めの底から新たな自分に自信を持つようになるまでの心の成長を描いている。見ていて何度もため息が出るほどの、ほろ苦くも甘い成長物語で、感動した。楽俊のネズミの容貌が妙にこっけいで面白かった。とても真面目なことをこんな姿の人物に語らせることで、陳腐になることを避けているのかなと勘ぐる。
次の区切りでは、王を選ぶべき運命を持った幼い麒麟の子供が、様々な人々とのふれあいの中で最終的に王を選ぶまでの物語だ。改めて振り返って見ると特にメッセージ性の無い話ではあるが、自分の使命の重圧に押しつぶされそうになる主人公の葛藤に引き込まれる。
三番目の話は、最初の話の主人公である中島陽子と、さらにその同年代ながら境遇が対極に位置する二人の娘の、計三人の主人公を軸にし、別々だった運命が一つの結末へ向かう話で、本作の中で一番大きな話となっている。古代中国をモデルにした権謀術数や人々の動きがとてもよく描かれており、ラストが非常に心地よい。
四番目の話は、雁の国王の回顧録で、かつて起きた反乱の顛末が語られる。雁の国王はかつて、父親の無策に何もしなかったばかりに自らの民を失った。一方反乱の主・斡由は、利己心ゆえながらも愚かな父親を幽閉して善政を施し、自分に対して禅譲と戦いを挑んできた。自分の過去が気に掛かって決断を下せなかった国王は、斡由を試すべく策を行い、過去の自分と向き合うことになる。
どれもとてもよくできた話だ。まず物語として面白い。その上で、全体を通じて主人公と言って良い中島陽子の心の成長を描いている。とても素晴らしい作品に出会えたことに感謝したい。本作は日本だけでなくアメリカや中国でもヒットしたらしい。
古代中国を扱っている点がいい。三国志や史記などの世界の焼き直しだが、基本的に戦争が禁止されている世界なので、軍記モノとは一線を画している。麒麟とか妖魔などの幻想ファンタジー系の存在がいて、独自の世界観を築いてはいるが、一貫して人の心を描いている。大げさな話だが、中国を起源とした東アジア独特の倫理観や歴史を、アニメという大衆文化の形で作り出した本作の意義は大きいと思う。
原作は小説だからまだよかったのだが、漢語を音だけで理解するのはとても難しい。中国学者・高島俊男が口を酸っぱくして言っていたことだが、改めて漢語(もどき?)が日本人にとって外国語であることを感じた。
私は原作をまだ読んでいないので詳しいことは分からないが、原作では脇役だった杉本や、原作にはいなかった浅野が、とてもお粗末な感じがした。杉本には主人公の影の役目があったようなのだが、エキセントリックなキャラで意味不明な点が多かった。浅野に至っては物語の妨げにさえなっているように思う。アニメのスタッフが余計なことを考えていらぬことをしたと私は思っている。ただ、古代中国を舞台にした幻想ファンタジーを誰にでも分かる形にしたという点では、アニメの貢献度は非常に高いだろう。
一つ自分で一人合点してニヤリとしたのは、三番目の話の主人公の一人・スズを百年ものあいだ自分の手元においていびりつづけた仙女が、本当はスズが自分に対して文句を言ってくるのを期待していたのだということ。この仙女はかつて自分が王に讒言しすぎて追放された過去を持っており、自分があえて従者にひどいことをして讒言されるのを待って自分への信頼を確かめようとしているのだろう。
私が本作に関して気になる数少ない点として、かなり危なげな世界観の上に物語を成り立たせている点が挙げられる。この世界の子供は木から実となって生まれるだとか、この世界の神のような存在である天帝の意志が時に非常に具体的な形で世に作用している。しかしそんなことを作者は意に介さずに、これがヒューマンドラマを描くために必要な設定なのだと言わんばかりに設定に寄りかかって作品を作り上げている。
あと現代の中国人にとって本作に出てくる漢字の国名とか人名に違和感はないのか余計な心配をしたくなる。中国に詳しい人が監修しているのか、作者本人が漢学の素養を持っているのか分からないが、仮にそんなものがなくても現に中国でもヒットしたのだから大丈夫なのだろう。
現在本作のアニメは、原作が停滞しているお陰で45話で止まっている。本当はまだアニメ化されていない原作があるそうなのだが、原作が進まないとイメージが固まらないという理由で止められているそうだ。なので原作を待つしかないのだが、かれこれ三四年ばかり止まっているそうなのであまり期待できないかもしれない。私が見たアニメ版では、四つの話はどれも面白いし、展開の順になっているので最初から順に見るのが良いだろう。
大きく四つの区切りがあり、最初の「月の影 影の海」では、ヒロインが周囲をうかがって良い子を演じてきた自分と決別し、自分のやるべきことを成し遂げるまでの物語だ。人に裏切られ、自分がどうすればよいのか悩み、やがて諦めの底から新たな自分に自信を持つようになるまでの心の成長を描いている。見ていて何度もため息が出るほどの、ほろ苦くも甘い成長物語で、感動した。楽俊のネズミの容貌が妙にこっけいで面白かった。とても真面目なことをこんな姿の人物に語らせることで、陳腐になることを避けているのかなと勘ぐる。
次の区切りでは、王を選ぶべき運命を持った幼い麒麟の子供が、様々な人々とのふれあいの中で最終的に王を選ぶまでの物語だ。改めて振り返って見ると特にメッセージ性の無い話ではあるが、自分の使命の重圧に押しつぶされそうになる主人公の葛藤に引き込まれる。
三番目の話は、最初の話の主人公である中島陽子と、さらにその同年代ながら境遇が対極に位置する二人の娘の、計三人の主人公を軸にし、別々だった運命が一つの結末へ向かう話で、本作の中で一番大きな話となっている。古代中国をモデルにした権謀術数や人々の動きがとてもよく描かれており、ラストが非常に心地よい。
四番目の話は、雁の国王の回顧録で、かつて起きた反乱の顛末が語られる。雁の国王はかつて、父親の無策に何もしなかったばかりに自らの民を失った。一方反乱の主・斡由は、利己心ゆえながらも愚かな父親を幽閉して善政を施し、自分に対して禅譲と戦いを挑んできた。自分の過去が気に掛かって決断を下せなかった国王は、斡由を試すべく策を行い、過去の自分と向き合うことになる。
どれもとてもよくできた話だ。まず物語として面白い。その上で、全体を通じて主人公と言って良い中島陽子の心の成長を描いている。とても素晴らしい作品に出会えたことに感謝したい。本作は日本だけでなくアメリカや中国でもヒットしたらしい。
古代中国を扱っている点がいい。三国志や史記などの世界の焼き直しだが、基本的に戦争が禁止されている世界なので、軍記モノとは一線を画している。麒麟とか妖魔などの幻想ファンタジー系の存在がいて、独自の世界観を築いてはいるが、一貫して人の心を描いている。大げさな話だが、中国を起源とした東アジア独特の倫理観や歴史を、アニメという大衆文化の形で作り出した本作の意義は大きいと思う。
原作は小説だからまだよかったのだが、漢語を音だけで理解するのはとても難しい。中国学者・高島俊男が口を酸っぱくして言っていたことだが、改めて漢語(もどき?)が日本人にとって外国語であることを感じた。
私は原作をまだ読んでいないので詳しいことは分からないが、原作では脇役だった杉本や、原作にはいなかった浅野が、とてもお粗末な感じがした。杉本には主人公の影の役目があったようなのだが、エキセントリックなキャラで意味不明な点が多かった。浅野に至っては物語の妨げにさえなっているように思う。アニメのスタッフが余計なことを考えていらぬことをしたと私は思っている。ただ、古代中国を舞台にした幻想ファンタジーを誰にでも分かる形にしたという点では、アニメの貢献度は非常に高いだろう。
一つ自分で一人合点してニヤリとしたのは、三番目の話の主人公の一人・スズを百年ものあいだ自分の手元においていびりつづけた仙女が、本当はスズが自分に対して文句を言ってくるのを期待していたのだということ。この仙女はかつて自分が王に讒言しすぎて追放された過去を持っており、自分があえて従者にひどいことをして讒言されるのを待って自分への信頼を確かめようとしているのだろう。
私が本作に関して気になる数少ない点として、かなり危なげな世界観の上に物語を成り立たせている点が挙げられる。この世界の子供は木から実となって生まれるだとか、この世界の神のような存在である天帝の意志が時に非常に具体的な形で世に作用している。しかしそんなことを作者は意に介さずに、これがヒューマンドラマを描くために必要な設定なのだと言わんばかりに設定に寄りかかって作品を作り上げている。
あと現代の中国人にとって本作に出てくる漢字の国名とか人名に違和感はないのか余計な心配をしたくなる。中国に詳しい人が監修しているのか、作者本人が漢学の素養を持っているのか分からないが、仮にそんなものがなくても現に中国でもヒットしたのだから大丈夫なのだろう。
現在本作のアニメは、原作が停滞しているお陰で45話で止まっている。本当はまだアニメ化されていない原作があるそうなのだが、原作が進まないとイメージが固まらないという理由で止められているそうだ。なので原作を待つしかないのだが、かれこれ三四年ばかり止まっているそうなのであまり期待できないかもしれない。私が見たアニメ版では、四つの話はどれも面白いし、展開の順になっているので最初から順に見るのが良いだろう。