フィクション活字
ファンタジー
ゼロの使い魔 10巻まで
ヤマグチノボル
最高(50点)
2007年1月6日
現代日本の高校生でちょっと間の抜けたところはあるが正義感の強い平賀才人が、ファンタジーな異世界の貴族で魔法使いの少女・ルイズに使い魔として召喚され、恋に冒険に騒動を繰り広げる物語。俗に言うライトノベル。
本作の特徴は、ヒロインがツンデレであること、そしてハーレムものであることだ。ツンデレとは、普段は相手にツンツンした態度を取りながら時折デレデレとかわいいところを見せるという最近主にオタク系で流行りの女性の性格類型のこと。ハーレムものとは、作者の言を借りると登場人物の女の子全員が主人公を好きになる種類の話。説明していてイヤになるほどベタな設定だ。
物語がしっかりしている。一巻は世界設定や登場人物の説明から身近な事件の解決までと小さくまとまっている。二巻以降は国家単位の大冒険が繰り広げられる。各巻で大きな物語が展開され、しかもそれが一冊でちゃんときれいに完結する。筋書きもよく出来ていて読ませる。ここまで物語に注力した作品は最近では珍しいんじゃないだろうか。近年の傑作の類型は、訳の分からない物語に重い心理描写がついているものが多い。
世界設定が史実を元にしたものになっている。主人公たちのいる国がトリステインという国で、フランス語圏っぽくベルギーやオランダ風な感じ。空中に浮かぶ大陸にはアルビオンという辞書で調べるとイギリスの古い呼称のついた国があり、陸隣ではドイツ風のゲルマニアやフランス風(?)のガリア、イタリア風のロマリアがある。作者は中世について割と詳しいようで、地名から貴族の名前から風習まで細かく凝っている。イギリスをモデルにした国には、その名もずばりウェールズ皇太子とか、クロムウェルなんていう名前のやつもいる。ここまでちゃんとやっておいて、組織名に「レコン・キスタ」とつけるのはわざとやっているのだろうか。意味的には正しいのに、なぜあえて誤りの箇所で単語を区切ったのだろう。気になって仕方がなかった。
ファンタジーとしては、割と王道を行く設定になっていると思う。浮遊がレビテーションで飛行がフライ、トロールやオーク、先住魔法、エルフ、四大系統。ファンタジー好きは安心できる。
これまで私が読んできたライトノベルで傑作と思うものは、実のところライトノベルの枠を超えた作品ばかりであった。本作は生粋のライトノベルだ。これは決して馬鹿にしているわけではない。ライトノベルとして新たな文学を切り開いたと言ってもいいのではないだろうか。
正直辟易する部分も多い。本作にはアニメ・マンガ的な表現がよく使われている。顔を真っ赤にする、顔をふにゃっとさせた、などのアニメのようなイメージに根ざした表現が過剰に溢れていたり、人間はそんなに簡単に気絶したりしないのにマンガのように気絶したり、主人公の切ないところ(注:股間のこと)を蹴り上げるなどのマンガ的なドタバタ表現が多い。せっかく文章には文章なりの適した表現があるのになぜこういうのにアニメ・マンガ風にこだわるのか残念だ。
その一方で、一見アニメ・マンガ風ではあるものの、文章表現で有効に成り立つ内省的な考えや想いのほとばしりは、従来の小説では考えられなかった奔放さがあって非常に良いと思う。舐めるように読んで初めてジワジワと染みてくる地味なものだけを文学と呼ぶことはない。台詞回しもいい感じ。
ちょっとエロを狙っている。そのまま絵にするとまずいような描写がある。結構イメージを喚起されて楽しめた。ただ、あきれるほど単純すぎる描写に苦笑することも多い。
主人公やヒロインが自分に自信を持てないところはとても共感できるし、悩んでいるところは魅力的だ。ただし、せっかく仲が進展したところを、展開上一度引き離すために説明的な描写になっているように露骨に感じられることがたびたびある。長編ラブコメの宿命だからある程度は仕方がない。
物語はよく出来ていると言ったが、多分作者は色々なところから話を持ってきていると思う。タバサの身代わりになって母親が心を失う毒を飲んだというエピソードは宮崎駿の「風の谷のナウシカ」にあり、多分私は知らないがおおもとはまた別の作品にあると思う。私が知る限りでは他に「ローマの休日」をちょろっとパロった一言を見つけてウケた。悪く言えばパクり、良く言えば再構成。優れたフィクション(虚構・作り話)とはノンフィクション(事実)から成り立っているというのが私の持論なのでそのあたりは当然のところか。
とりあえず二巻まで読んで欲しい。一巻は導入部で、登場人物の性格とくに主人公のを掴むまで違和感があった。現代から異世界にやってきた主人公というと、読者の分身のように感じてしまうので、そのイメージを振り払うのに手間取った。主人公・平賀才人はかなりコミカルな人物なので、そこに慣れないと物語を楽しめない。二巻で国家的な事件に巻き込まれて主人公とヒロインが大活躍する。ライトノベルなせいか、一冊一冊の物語がラスト1mmぐらいでちゃんと感動的に完結してくれる。
本作の特徴は、ヒロインがツンデレであること、そしてハーレムものであることだ。ツンデレとは、普段は相手にツンツンした態度を取りながら時折デレデレとかわいいところを見せるという最近主にオタク系で流行りの女性の性格類型のこと。ハーレムものとは、作者の言を借りると登場人物の女の子全員が主人公を好きになる種類の話。説明していてイヤになるほどベタな設定だ。
物語がしっかりしている。一巻は世界設定や登場人物の説明から身近な事件の解決までと小さくまとまっている。二巻以降は国家単位の大冒険が繰り広げられる。各巻で大きな物語が展開され、しかもそれが一冊でちゃんときれいに完結する。筋書きもよく出来ていて読ませる。ここまで物語に注力した作品は最近では珍しいんじゃないだろうか。近年の傑作の類型は、訳の分からない物語に重い心理描写がついているものが多い。
世界設定が史実を元にしたものになっている。主人公たちのいる国がトリステインという国で、フランス語圏っぽくベルギーやオランダ風な感じ。空中に浮かぶ大陸にはアルビオンという辞書で調べるとイギリスの古い呼称のついた国があり、陸隣ではドイツ風のゲルマニアやフランス風(?)のガリア、イタリア風のロマリアがある。作者は中世について割と詳しいようで、地名から貴族の名前から風習まで細かく凝っている。イギリスをモデルにした国には、その名もずばりウェールズ皇太子とか、クロムウェルなんていう名前のやつもいる。ここまでちゃんとやっておいて、組織名に「レコン・キスタ」とつけるのはわざとやっているのだろうか。意味的には正しいのに、なぜあえて誤りの箇所で単語を区切ったのだろう。気になって仕方がなかった。
ファンタジーとしては、割と王道を行く設定になっていると思う。浮遊がレビテーションで飛行がフライ、トロールやオーク、先住魔法、エルフ、四大系統。ファンタジー好きは安心できる。
これまで私が読んできたライトノベルで傑作と思うものは、実のところライトノベルの枠を超えた作品ばかりであった。本作は生粋のライトノベルだ。これは決して馬鹿にしているわけではない。ライトノベルとして新たな文学を切り開いたと言ってもいいのではないだろうか。
正直辟易する部分も多い。本作にはアニメ・マンガ的な表現がよく使われている。顔を真っ赤にする、顔をふにゃっとさせた、などのアニメのようなイメージに根ざした表現が過剰に溢れていたり、人間はそんなに簡単に気絶したりしないのにマンガのように気絶したり、主人公の切ないところ(注:股間のこと)を蹴り上げるなどのマンガ的なドタバタ表現が多い。せっかく文章には文章なりの適した表現があるのになぜこういうのにアニメ・マンガ風にこだわるのか残念だ。
その一方で、一見アニメ・マンガ風ではあるものの、文章表現で有効に成り立つ内省的な考えや想いのほとばしりは、従来の小説では考えられなかった奔放さがあって非常に良いと思う。舐めるように読んで初めてジワジワと染みてくる地味なものだけを文学と呼ぶことはない。台詞回しもいい感じ。
ちょっとエロを狙っている。そのまま絵にするとまずいような描写がある。結構イメージを喚起されて楽しめた。ただ、あきれるほど単純すぎる描写に苦笑することも多い。
主人公やヒロインが自分に自信を持てないところはとても共感できるし、悩んでいるところは魅力的だ。ただし、せっかく仲が進展したところを、展開上一度引き離すために説明的な描写になっているように露骨に感じられることがたびたびある。長編ラブコメの宿命だからある程度は仕方がない。
物語はよく出来ていると言ったが、多分作者は色々なところから話を持ってきていると思う。タバサの身代わりになって母親が心を失う毒を飲んだというエピソードは宮崎駿の「風の谷のナウシカ」にあり、多分私は知らないがおおもとはまた別の作品にあると思う。私が知る限りでは他に「ローマの休日」をちょろっとパロった一言を見つけてウケた。悪く言えばパクり、良く言えば再構成。優れたフィクション(虚構・作り話)とはノンフィクション(事実)から成り立っているというのが私の持論なのでそのあたりは当然のところか。
とりあえず二巻まで読んで欲しい。一巻は導入部で、登場人物の性格とくに主人公のを掴むまで違和感があった。現代から異世界にやってきた主人公というと、読者の分身のように感じてしまうので、そのイメージを振り払うのに手間取った。主人公・平賀才人はかなりコミカルな人物なので、そこに慣れないと物語を楽しめない。二巻で国家的な事件に巻き込まれて主人公とヒロインが大活躍する。ライトノベルなせいか、一冊一冊の物語がラスト1mmぐらいでちゃんと感動的に完結してくれる。