性格破綻者の大学生の青年が、自分の「友達」である少女の用事で、とある人里離れた山奥の研究所から彼女の古い仲間を連れ出しに行く。少女とその仲間たちはかつてサイバー犯罪者として名を轟かせた天才たちだった。老齢の研究所長はそのうちの一人を囲って手放そうとしない。そこへ殺人事件が起きて主人公らは濡れ衣を着せられる。

導入部がウザい。主人公は少女のことを友達だと思っているが、少女は主人公のことを恋人だと思っており、周りも同じように見ている。その奇妙な点を少女のかつての仲間だった男から突かれ、この男と主人公との対話が最初延々と続く。空虚な論理がダラダラと続き、作者の西尾維新の文章を私は初めてつまらないと感じた。

本作にはとても奇抜な筋書きがある。ミステリーというジャンルを茶化しているのか、それとも世の中の仕組みを真剣に論じているのだろうか。私はとても興味深い趣向だとは思うが、この筋書きのおかげで欲求不満になる。読者はどの程度ついてきたのだろうか。

上下巻に分けての長編なのに読み終わってみれば小さい話だ。この作者は文章で読ませる人なんだなあと巧みさに感心するが、もっと何か欲しかった。

少女の謎についても結局ほのめかすだけでほとんど語られない。ついに語るのかと主人公が独白を始めるシーンがあるが、結局すぐにそれも終わってしまう。一体いつになったら語られるのか。この様子だと作者は少なくともこの時点では何も考えていないのではないかと思えるぐらい空虚な前フリである。

泥棒・石丸小唄と主人公が一緒に「走り幅跳び」するシーンが良かった。多分このシーンが私の中でこの作品をあらわすイメージになったと思う。局所局所でいいシーンがいくつかある。それくらいかなあ。