フィクション活字
SF
敵は海賊・海賊版
神林長平 (ハヤカワ文庫)
最高(50点)
2008年4月4日
宇宙を陰で支配するという実在するかどうか分からないとされる伝説の海賊ヨウメイの元を、トランス状態の占い師の口から偶然彼の居場所を知ったフィラール星の主席女官シャルが訪ねる。自分が仕えている王女がさらわれたので取り戻してほしいという。人に支配され命令されることを何より嫌う海賊ヨウメイだったが、平行世界からの不思議ないざないを受け、王女奪還のために手を貸すことになる。一方海賊と戦う海賊課の刑事たちもまた別のいざないを受けてヨウメイを追う。
小松左京や筒井康隆などのあとの世代で日本のSF作家の中で多作で知られる神林長平の、人気長編シリーズの一作目。いや正確には最初に短編があるのだけど。
本作の主人公は海賊ヨウメイだと言っていいのではないだろうか。主人公は誰だという不毛な議論をしたいわけではないのでどうでもいいのだが、本作いや本シリーズでの海賊ヨウメイの存在は圧倒的だ。なにものにも支配されたくないという強烈な意志のもとで、自分の親や姉を幼い頃に殺し、ついには全宇宙を陰で支配する存在となった伝説の海賊。ほとんど誰も、彼が実際に存在するかどうか知らない。その数少ない例外の一人が、語り部のようなポジションにいる引退した海賊オールド・カルマで、火星にある海賊の町サベイジでバー軍神を経営している。本シリーズは、このバーでヨウメイがカルマに語ってみせた実話かどうか分からない話の数々ということになっている。
もう出だしから絶品。主席女官という高い地位にあり女王からの信任の厚い美人の女官シャルファフィン・シャルファフィナ(以下シャル)は、王家のためなら自らの命などどうでもいいと思う忠誠心の高い人物。そんなシャルが海賊ヨウメイに必死のお願いをする。一方ヨウメイは何者にも縛られないことを絶対の信条とするので冷たいが、次第に彼女に惹かれていく(?)。ヨウメイとシャルとカルマのやりとりにうっとりする。
本作の舞台は平行世界である。二つの世界があり、片方の世界からもう片方の世界に海賊と刑事が乗り込んでいく。だからその世界に彼らは二人ずついることになる。しかもその世界には神話的な存在、神とか悪魔みたいなものがいて、人間に代理戦争させている。この世界のもともとの住人にはその存在を知覚できないが、異邦人のほうには分かる。海賊と刑事は代理戦争に巻き込まれる。
刑事の側は、最初の短編に出てきた射撃の名手ラテル、黒猫型宇宙人アプロ、そして対コンピュータ戦用フリゲート・ラジェンドラが抱腹絶倒のやりとりを繰り広げる。非常にコミカルで面白い。
文体がとても簡潔でしびれる。たぶんいまの普通の小説に慣れている人からすると描写がシンプル過ぎると感じるのではないだろうか。必要最小限なのかそれ以下なのかは人によって感じ方がそれぞれだと思うが、私はこの文章を研ぎ澄まされているなあと感じる。とはいっても必ずしも完成度が高いと言いたいわけではなく、多分これはセンスの問題なのだろう。
批判もしておくと、まず謎の赤ん坊にして天使とされるメイシアの存在が意味不明だった。あれは結局なんだったのだろう。何かの象徴だと言いたいのだろうか。
この作品で一番盛り上がるところは、ヨウメイとフィルが互いに感じる感情に関わるところだろう。特異な人物であるヨウメイに感情移入できるかどうかでこの作品の読後感は変わってくるのではないだろうか。姉さえも自らの手で殺したヨウメイは、フィルに何を感じたのか。その点が具体的には書かれていない。もちろんこれは読者に想像させるところであり、書かれていないことが問題なのではない。ヨウメイはあくまでヨウメイであり、何かが変わったという具体的な描写もない。ただ、ヨウメイはなにかしら変わったということがほのめかされてはいる。これをどう読み取るのかが難しい。一方のフィルについての描写も少ない。読者がそれぞれ都合のいい解釈をして楽しめばいいのだろうか。良くも悪くも神林長平の作品らしい部分だろう。
メタっぽい描写がある。なにせこの作品は架空の文書作成支援システムの力を借りて作られたことになっている。私はこの点についてはぜんぜん気にしなかった。人によっては興奮したりうんざりしたりするかもしれない。
荒唐無稽な話についていけない人も少なくはないだろう。
雑魚海賊なんかが死にすぎる。ちょっと不快。ただ、主要登場人物も常に死と隣り合わせだという緊張感を出すためにしょうがないのかなとは思う。
80年代はスターウォーズやらガンダムなんかの宇宙モノが作られた時代であり、本作もその中の一つに数えられる。銀河英雄伝説はいつだっけ。その中でも本シリーズは、王道を行く設定を発展させたすばらしい背景世界で、ヨウメイやアプロなど魅力あふれる登場人物が、スピード感のある展開であっと驚くストーリーで楽しませてくれる優れた娯楽作品として、他の有名作品と比肩しうると私は思う。
小松左京や筒井康隆などのあとの世代で日本のSF作家の中で多作で知られる神林長平の、人気長編シリーズの一作目。いや正確には最初に短編があるのだけど。
本作の主人公は海賊ヨウメイだと言っていいのではないだろうか。主人公は誰だという不毛な議論をしたいわけではないのでどうでもいいのだが、本作いや本シリーズでの海賊ヨウメイの存在は圧倒的だ。なにものにも支配されたくないという強烈な意志のもとで、自分の親や姉を幼い頃に殺し、ついには全宇宙を陰で支配する存在となった伝説の海賊。ほとんど誰も、彼が実際に存在するかどうか知らない。その数少ない例外の一人が、語り部のようなポジションにいる引退した海賊オールド・カルマで、火星にある海賊の町サベイジでバー軍神を経営している。本シリーズは、このバーでヨウメイがカルマに語ってみせた実話かどうか分からない話の数々ということになっている。
もう出だしから絶品。主席女官という高い地位にあり女王からの信任の厚い美人の女官シャルファフィン・シャルファフィナ(以下シャル)は、王家のためなら自らの命などどうでもいいと思う忠誠心の高い人物。そんなシャルが海賊ヨウメイに必死のお願いをする。一方ヨウメイは何者にも縛られないことを絶対の信条とするので冷たいが、次第に彼女に惹かれていく(?)。ヨウメイとシャルとカルマのやりとりにうっとりする。
本作の舞台は平行世界である。二つの世界があり、片方の世界からもう片方の世界に海賊と刑事が乗り込んでいく。だからその世界に彼らは二人ずついることになる。しかもその世界には神話的な存在、神とか悪魔みたいなものがいて、人間に代理戦争させている。この世界のもともとの住人にはその存在を知覚できないが、異邦人のほうには分かる。海賊と刑事は代理戦争に巻き込まれる。
刑事の側は、最初の短編に出てきた射撃の名手ラテル、黒猫型宇宙人アプロ、そして対コンピュータ戦用フリゲート・ラジェンドラが抱腹絶倒のやりとりを繰り広げる。非常にコミカルで面白い。
文体がとても簡潔でしびれる。たぶんいまの普通の小説に慣れている人からすると描写がシンプル過ぎると感じるのではないだろうか。必要最小限なのかそれ以下なのかは人によって感じ方がそれぞれだと思うが、私はこの文章を研ぎ澄まされているなあと感じる。とはいっても必ずしも完成度が高いと言いたいわけではなく、多分これはセンスの問題なのだろう。
批判もしておくと、まず謎の赤ん坊にして天使とされるメイシアの存在が意味不明だった。あれは結局なんだったのだろう。何かの象徴だと言いたいのだろうか。
この作品で一番盛り上がるところは、ヨウメイとフィルが互いに感じる感情に関わるところだろう。特異な人物であるヨウメイに感情移入できるかどうかでこの作品の読後感は変わってくるのではないだろうか。姉さえも自らの手で殺したヨウメイは、フィルに何を感じたのか。その点が具体的には書かれていない。もちろんこれは読者に想像させるところであり、書かれていないことが問題なのではない。ヨウメイはあくまでヨウメイであり、何かが変わったという具体的な描写もない。ただ、ヨウメイはなにかしら変わったということがほのめかされてはいる。これをどう読み取るのかが難しい。一方のフィルについての描写も少ない。読者がそれぞれ都合のいい解釈をして楽しめばいいのだろうか。良くも悪くも神林長平の作品らしい部分だろう。
メタっぽい描写がある。なにせこの作品は架空の文書作成支援システムの力を借りて作られたことになっている。私はこの点についてはぜんぜん気にしなかった。人によっては興奮したりうんざりしたりするかもしれない。
荒唐無稽な話についていけない人も少なくはないだろう。
雑魚海賊なんかが死にすぎる。ちょっと不快。ただ、主要登場人物も常に死と隣り合わせだという緊張感を出すためにしょうがないのかなとは思う。
80年代はスターウォーズやらガンダムなんかの宇宙モノが作られた時代であり、本作もその中の一つに数えられる。銀河英雄伝説はいつだっけ。その中でも本シリーズは、王道を行く設定を発展させたすばらしい背景世界で、ヨウメイやアプロなど魅力あふれる登場人物が、スピード感のある展開であっと驚くストーリーで楽しませてくれる優れた娯楽作品として、他の有名作品と比肩しうると私は思う。