ノンフィクション
国際
インテリジェンス人間論
佐藤優 (新潮社)
傑作(30点)
2008年5月3日
外務省ノンキャリ官僚で鈴木宗男の疑獄事件に連座し最近では作家として高い評価を得ている佐藤優が、主に新潮45という雑誌に書いた、人物をテーマにしたノンフィクションをまとめた本。政治・外交の裏側と諜報について、自らの体験と発掘した資料をもとに書いている。
私はこの本をトイレに入れてゆっくり読んだので最初の方は結構忘れてしまった。単行本は重くて電車の中で読めないので軽くして欲しい。
まず北方領土問題に関わりが深いところから始まる。鈴木宗男や橋本龍太郎や森喜朗がここまでがんばっていたんだなあということがとても意外でそしてジンとくる。まあ当時無名のノンキャリ官僚だった佐藤優に対して、下でよく働いてくれる人間として政治家たちはねぎらったりしていたんだろうなあと思うし、そんな面だけを見ても人を測ることはできないのだろうけど、マスコミには決して出ない顔なので興味深い。いまはどうなっているんだろうなあ北方領土問題。
次にプーチンの実像に迫ってみせる。プーチン自身は自分が大統領になったことをとても意外に思っているらしい。大統領周辺の嫉妬や距離や力学が生々しく現実感があって面白い。こういう力場は政治だけでなく会社とか学校なんかにもあると思う。こういうあまり科学的でないが真実に近いと思われることを書くというのはなかなか難しいことだろう。
戦前の思想家・蓑田胸喜という人に一章を割いている。なんでも一時期すごい影響力を持っていたケンカっぱやい論客だったそうだが、無茶苦茶な論理で論敵をバッタバッタと切りまくり、あとになってほとんどその当時のことを書き残す人がいなかったらしい。ちょっと違うかもしれないけど最近なら小林よしのりなんかがこんな扱いになるのかもしれないなあと思った。ほかにも何人か近代の人について書いている。
最後にこの人の専門である神学について何章か書いている。神学なんて私は全然知らなかったし興味なかったのだが、作者は丁寧に神学のいろはを説明してくれている。神学なんて正直何の役にも立たない学問ですらないものだと思っていたが、ある種哲学に近いものだということが分かった。神という視点のある人間学のようなものなのかもしれない。
短編集で読みやすく中身が深いのがとても良かった。自分に合わない読み物もあったが、短いので我慢して読むことができ、興味外のことも知ることができた。
序章に鈴木宗男について書き下ろして書いている。書くのが大変だったと語っている。まだ生きていて親しくしている最中の人物について気を使って書いているのが分かる。内容は面白いのだが、この身内に対する配慮みたいなものが少しうっとうしく感じた。鈴木宗男が死んだらもっとズバッと書いてくれるのだろうか、それとも自分の品位を守るためにやはり控えめにしか書かないのだろうか。
南朝の忠臣みたいな存在への特別な感情は分からないでもないのだけど、ちょっと私からすると入り込み過ぎな感じがする。でも中高年層には共感を呼ぶかもしれない。
あとがきで新潮45とそのの編集長を持ち上げすぎじゃないだろうか。佐藤優ほどの作家で現にこれだけ評価されている人が、仕事のために雑誌や編集長を持ち上げることなんて無いと思うから、本心から言っているのだろうけど、これはちょっと引くなあ。でも中村うさぎや西原理恵子の連載を「真剣に読む」と書くことは佐藤優のキャラ上なかなかできることじゃない。佐藤優はこの女性たちを神学的に高く評価しているのだろうか。分からなくはないのだけど。
私はこの本をトイレに入れてゆっくり読んだので最初の方は結構忘れてしまった。単行本は重くて電車の中で読めないので軽くして欲しい。
まず北方領土問題に関わりが深いところから始まる。鈴木宗男や橋本龍太郎や森喜朗がここまでがんばっていたんだなあということがとても意外でそしてジンとくる。まあ当時無名のノンキャリ官僚だった佐藤優に対して、下でよく働いてくれる人間として政治家たちはねぎらったりしていたんだろうなあと思うし、そんな面だけを見ても人を測ることはできないのだろうけど、マスコミには決して出ない顔なので興味深い。いまはどうなっているんだろうなあ北方領土問題。
次にプーチンの実像に迫ってみせる。プーチン自身は自分が大統領になったことをとても意外に思っているらしい。大統領周辺の嫉妬や距離や力学が生々しく現実感があって面白い。こういう力場は政治だけでなく会社とか学校なんかにもあると思う。こういうあまり科学的でないが真実に近いと思われることを書くというのはなかなか難しいことだろう。
戦前の思想家・蓑田胸喜という人に一章を割いている。なんでも一時期すごい影響力を持っていたケンカっぱやい論客だったそうだが、無茶苦茶な論理で論敵をバッタバッタと切りまくり、あとになってほとんどその当時のことを書き残す人がいなかったらしい。ちょっと違うかもしれないけど最近なら小林よしのりなんかがこんな扱いになるのかもしれないなあと思った。ほかにも何人か近代の人について書いている。
最後にこの人の専門である神学について何章か書いている。神学なんて私は全然知らなかったし興味なかったのだが、作者は丁寧に神学のいろはを説明してくれている。神学なんて正直何の役にも立たない学問ですらないものだと思っていたが、ある種哲学に近いものだということが分かった。神という視点のある人間学のようなものなのかもしれない。
短編集で読みやすく中身が深いのがとても良かった。自分に合わない読み物もあったが、短いので我慢して読むことができ、興味外のことも知ることができた。
序章に鈴木宗男について書き下ろして書いている。書くのが大変だったと語っている。まだ生きていて親しくしている最中の人物について気を使って書いているのが分かる。内容は面白いのだが、この身内に対する配慮みたいなものが少しうっとうしく感じた。鈴木宗男が死んだらもっとズバッと書いてくれるのだろうか、それとも自分の品位を守るためにやはり控えめにしか書かないのだろうか。
南朝の忠臣みたいな存在への特別な感情は分からないでもないのだけど、ちょっと私からすると入り込み過ぎな感じがする。でも中高年層には共感を呼ぶかもしれない。
あとがきで新潮45とそのの編集長を持ち上げすぎじゃないだろうか。佐藤優ほどの作家で現にこれだけ評価されている人が、仕事のために雑誌や編集長を持ち上げることなんて無いと思うから、本心から言っているのだろうけど、これはちょっと引くなあ。でも中村うさぎや西原理恵子の連載を「真剣に読む」と書くことは佐藤優のキャラ上なかなかできることじゃない。佐藤優はこの女性たちを神学的に高く評価しているのだろうか。分からなくはないのだけど。