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敵は海賊・海賊課の一日

神林長平 (ハヤカワ文庫)

まあまあ(10点)
2008年5月10日
ひっちぃ

広域宇宙警察の海賊課の名物トリオは突如チーフ・バスターから苦情処理係を命ぜられた。その日はラジェンドラが気まぐれで計算した猫型宇宙刑事アプロの誕生日と重なる。ラテルの元に過去の叔父から連絡が入り、ラテルの過去の回想と時間を越えた復讐が始まる。人気SFシリーズの第五弾。

今回のメインはラテルの過去にある。ラテルの生い立ちは宇宙キャラバンから始まるが、幼い頃に海賊に襲われて一族はほぼ全滅した。残ったのはちょっとアウトローでいい加減だが根はやさしい叔父グライドだけだった。血をたどり名門コンパレン家に引き取られて育てられたラテルは、その家になじまずにいつしか宇宙刑事を目指すようになる。

というような回想が、苦情処理係の役目中に断続的に入る。その間、アプロが意外とおとなしくしていたり、苦情処理係のカシス主任と穏やかな交流をしたりと、アクション主体だった本シリーズでは異色の内容となっている。この雰囲気がとても良かった。

だが結末がいまいちだった。一作目に出てきた異世界の魔女バスライを大して必然性もなく再登場させたり、ヨウメイが意味不明なことを言ってすぐ退場したり、場をしっちゃかめっちゃかにして強引に盛り上げてから終局に持っていくだけ。

独自の時間理論について語っている点でも魅力を感じなかった。曰く、時間とは水が入ったシリンダの中の浮子(うき)が上昇していくようなもので、時間も空間もない次元に一人一人の過去も未来も存在するのだという。ラテルが感傷の中で思索するので少し引き込まれてしまったが、改めて考えると意味がよくわからない。

とまあ不満はあるけれど話としては良かった。じんとくる。宇宙キャラバンとかのSF的な設定の中で人情話っぽいものを楽しむことができる人には悪くない作品だと思う。

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