フィクション活字
SF
ラッキーカード
草上仁 (ハヤカワ文庫)
まあまあ(10点)
2008年8月20日
SF作家なのに心の温まる作品を書く人だとばかり思っていた草上仁の、比較的純度の高いSF作品ばかりを集めた短編集。表題作「ラッキーカード」は幸運を数値化してクレジットカードのように流通するようになった空想未来の平等社会でのある男の悲劇を描いた作品。
短編七つで構成されている。
「夜を明るく」は宇宙の運送屋が花火を運んでいる最中に不思議な惑星に不時着して、そこで待ち受ける災難を機知で避けるユーモアある話。とはいったものの発想が当たり前すぎて詰まらなかった。それ以前に花火ごときであれは無理だろう。太陽とは絶対的な差がある。序盤のワクワク感だけ良かった。
「セルメック」はなんとプログラミングできる空想素材を使った一篇。この発想にはちょっと興奮した。軽いタッチで描かれる乗組員同士の会話も面白い。しかし、結末の始まりの部分を冒頭に持ってくる構成がいまいちうまくいっていないと思う。結末自体もちょっと貧しい。せっかく解除コードという面白い仕組みを用意したのだから、抱腹絶倒な言葉遊びを入れる余地があったと思う。
「割れた甲冑」は作者のデビュー後に初めて売り込んで買ってもらえた記念すべき作品だとあとがきで書いているが、それだけあって結構ガチガチのSF作品だ。やはり不思議な惑星にたどり着いて、そこで不思議な生物を目撃するというだけの内容になっている。確かに面白い趣向があって生物や文化の可能性について考えさせてくれる作品ではあったが、自分はどうもこの手の思考実験みたいなものに面白みを感じなかった。
「牛乳屋」は本書の短編の中で私が選ぶ一番素晴らしい作品だった。ミステリー仕立てなので話は最初から最後まで言わないほうがいいだろう。たぶん発展途上国からみて先進国はこんな感じに見えるんだろうな、という優れた視点の切り替えがある。
「ラッキーカード」は最初少し説明したが、人によって運の良し悪しがあるという不平等をむちゃくちゃな科学で解決してしまい、運不運を数値化して平均化してしまう社会でのある男の運命を描いた作品。幸運を引き起こしたければその分自分のカードからポイントを使えばいい。一方で不可抗力で不運な目に遭うと自分のポイントが貯まる。ある日突然会社が傾いてリストラされた主人公の男性が、そのことでたくさんたまったポイントを使おうとして、次々と色々なことが起こってしまう。発想自体は何かしら誰の頭の中にもありそうなシンプルなアイデアだが、これを一本の完成度の高い作品として書いてしまうところが素晴らしい。ただ、SFに慣れていない人が読むと尻切れ感があるかも。
「ウォーターレース」は空想未来のイルカレースの話。これだこれ。私にとっての草上仁はこういう作品を書く作家だ。…でも不思議なほど楽しめなかった。動物ものだから? きれいにまとまっていて完成度の高い作品だと思うのだけど。うーん。世界設定がつまらなくてそこにだいぶ筆が費やされているからかな。
「可哀相な王女の話」はふざけた昔話のスタイルで書かれた笑い話。SF版清水義範みたいな。語り口からして愉快。結末も皮肉が効いていて面白い。男ってこういうものなんだというオチを、まさかのSFネタでつけている上に、「このお話の教訓は」で見当違いの解説で笑わせてくれる。素晴らしい。
それなりに面白い作品集で、部分部分に絞れば結構楽しめたのだけど、それ以外の大部分は読んでいて割と退屈だった。たぶんいまの私が短編よりも長編を読みたいからだと思う。でもこの作者の初期短編集には長編なみにじんわりとくる作品が結構あったと思ったんだけどなあ。
短編七つで構成されている。
「夜を明るく」は宇宙の運送屋が花火を運んでいる最中に不思議な惑星に不時着して、そこで待ち受ける災難を機知で避けるユーモアある話。とはいったものの発想が当たり前すぎて詰まらなかった。それ以前に花火ごときであれは無理だろう。太陽とは絶対的な差がある。序盤のワクワク感だけ良かった。
「セルメック」はなんとプログラミングできる空想素材を使った一篇。この発想にはちょっと興奮した。軽いタッチで描かれる乗組員同士の会話も面白い。しかし、結末の始まりの部分を冒頭に持ってくる構成がいまいちうまくいっていないと思う。結末自体もちょっと貧しい。せっかく解除コードという面白い仕組みを用意したのだから、抱腹絶倒な言葉遊びを入れる余地があったと思う。
「割れた甲冑」は作者のデビュー後に初めて売り込んで買ってもらえた記念すべき作品だとあとがきで書いているが、それだけあって結構ガチガチのSF作品だ。やはり不思議な惑星にたどり着いて、そこで不思議な生物を目撃するというだけの内容になっている。確かに面白い趣向があって生物や文化の可能性について考えさせてくれる作品ではあったが、自分はどうもこの手の思考実験みたいなものに面白みを感じなかった。
「牛乳屋」は本書の短編の中で私が選ぶ一番素晴らしい作品だった。ミステリー仕立てなので話は最初から最後まで言わないほうがいいだろう。たぶん発展途上国からみて先進国はこんな感じに見えるんだろうな、という優れた視点の切り替えがある。
「ラッキーカード」は最初少し説明したが、人によって運の良し悪しがあるという不平等をむちゃくちゃな科学で解決してしまい、運不運を数値化して平均化してしまう社会でのある男の運命を描いた作品。幸運を引き起こしたければその分自分のカードからポイントを使えばいい。一方で不可抗力で不運な目に遭うと自分のポイントが貯まる。ある日突然会社が傾いてリストラされた主人公の男性が、そのことでたくさんたまったポイントを使おうとして、次々と色々なことが起こってしまう。発想自体は何かしら誰の頭の中にもありそうなシンプルなアイデアだが、これを一本の完成度の高い作品として書いてしまうところが素晴らしい。ただ、SFに慣れていない人が読むと尻切れ感があるかも。
「ウォーターレース」は空想未来のイルカレースの話。これだこれ。私にとっての草上仁はこういう作品を書く作家だ。…でも不思議なほど楽しめなかった。動物ものだから? きれいにまとまっていて完成度の高い作品だと思うのだけど。うーん。世界設定がつまらなくてそこにだいぶ筆が費やされているからかな。
「可哀相な王女の話」はふざけた昔話のスタイルで書かれた笑い話。SF版清水義範みたいな。語り口からして愉快。結末も皮肉が効いていて面白い。男ってこういうものなんだというオチを、まさかのSFネタでつけている上に、「このお話の教訓は」で見当違いの解説で笑わせてくれる。素晴らしい。
それなりに面白い作品集で、部分部分に絞れば結構楽しめたのだけど、それ以外の大部分は読んでいて割と退屈だった。たぶんいまの私が短編よりも長編を読みたいからだと思う。でもこの作者の初期短編集には長編なみにじんわりとくる作品が結構あったと思ったんだけどなあ。