フィクション活字
ファンタジー
伯爵と妖精 あいつは優雅な大悪党 (シリーズ第1巻)
谷 瑞恵 (集英社コバルト文庫)
傑作(30点)
2009年3月29日
19世紀半ばの日の沈まぬ帝国イギリスは、人々が様々な妖精と接していた記憶を失おうとしていた。しかしそれでもフェアリードクターと呼ばれる妖精との交渉役が細々と受け継がれていた。幼い頃に亡くした母親のあとを継いで一人前のフェアリードクターになりたいと願う少女リディアは、まだ独り立ちしていないながらスコットランドで一人暮らしをしていたが、ロンドンに住む父親を訪ねようと一人で船に乗ろうとしたところを、父親の知り合いだという青年に声を掛けられてついていってしまい、妖精が守る宝剣をめぐる騒動に巻き込まれる。少女小説の代名詞コバルト文庫の人気シリーズの第一巻。
何か面白くて長く読める気楽なライトノベルがないか探していたが、少年向けにはあんまり面白そうなのがないので思い切ってコバルト文庫で探してみたら、このシリーズが一番人気があるのか冊数が多くて書店で特別コーナーが出来ていて最近アニメ化までされているというから手を出してみた。コバルト文庫といえば今野緒雪「マリアさまが見てる」が最高だったのでもっと早く他の作品を探すべきだった。
結論から言うと、この作品はとても面白かった。
妖精の宝剣をめぐって二人の悪党が争う。主人公の少女リディアは、そのうちの一人エドガーに連れ去られ、不本意ながら妖精に関する知識を動員して彼の手助けをすることになる。宝剣に至るまでのヒントとなる古文書には様々な妖精の名前が出てきて、謎を解いていく展開が面白い。映画「インディ・ジョーンズ」を思わせる。
妖精には妖精の論理があって、彼らの詭弁に引っかかってしまうと人間は破滅してしまう。そこをうまいこと屁理屈っぽい論理を使ってフェアリードクターの卵リディアが綱渡りで交渉をまとめ、うまいこと持っていこうとしようとするのがスリリングで楽しい。
出てくる妖精たちもちゃんと文献に出てくる有名な名前ばかりだ(と思う)。ピクシーとかバンシーとか。なかでもこの巻はメロウという人魚っぽい妖精を相手にしている。スクウェアエニックスのゲーム「ファイナルファンタジーXI」に出てくる合成生物モンスターにその名もメロウという人魚型の種族が出てくるのだが、この本によるとメロウはスコットランド版の人魚の妖精なのだという。
主人公の少女リディアの葛藤がいい。自分はとんでもない人物に手を貸そうとしているのではないか。どうやって逃げ出そうか。でも実は信用できる人物なのではないか。自分は頼りにされているのではないか。いや、やはりこの男は連続殺人犯なのではないか。そんな迷いの中、次第にこの男エドガーと心を通わせていく。
一方のエドガーも、闇の世界を生きてきた人間として、他人を騙したり従わせたりするのは得意で日常茶飯事だったが、いつも陽の当たるところで生きてきた少女リディアのストレートな性格に調子を狂わされ、窮地に陥ったときに素直に彼女に助けを求め、次第に彼女に引かれていく。
脇を固める登場人物もなかなか魅力的だ。エドガーの配下にして仲間の色黒で無表情で寡黙な青年レイヴンは、リディアの知らない異国の戦闘的な精霊を宿し、非常に高い戦闘力を持つ。例によってこういうキャラは時々人間っぽさをポロッと出して腐女子の人気を集めているのだろうな。ショートカットで男装をしていても白い肌と黒い髪から女性の魅力を隠しきれていないアーミン。主人公の少女リディアが小さい頃から一緒にいた紳士を気取る猫型の妖精ニコ。
ちょっと批判もすると、敵役がいとも簡単に主人公たちの行く手に現れてグダグダなやり取りや戦闘をするのはどうにかしてほしかった。
エドガーとアーミンとリディアの心理描写が難しくて、私の読解能力の問題もあるのかもしれないが、所々ちょっと微妙に感じられた。悪党エドガーが今までのすさんだ精神状態からは信じられないほどリディアに対して素直になるに至るまでの描写とか、アーミンのエドガーを想う複雑な心理描写、リディアがエドガーに抱く不信が不思議と次第に氷解していくところなんか、まあこんなものかと思いながら読んでしまった。
現在私は本シリーズの第4巻の途中まで読んでいて、その後も多分読み進めると思うので、本シリーズは人に勧めることが出来るとても面白い作品なんじゃないかと思う。でも第2巻以降はちょっとリディアのエドガーに対する不信がくどくなってきて、それに対するエドガーの甘い言葉に正直ちょっとうっとうしさも覚える。
でもなんだかんだでリディアはかわいいなあ。少女小説のヒロインは読者が感情移入する対象だから、男にとってはそんなに魅力的である必要はないと思うのだけど、自分の髪や瞳の色にコンプレックスを感じていて、妖精と会話が出来る能力から同世代の男の子たちとうまいこといかなかったリディアが、初めて好意らしい好意を金髪の美男子(笑)から受けて戸惑い、素直には信じられず拒絶するところはグッとくる。ちょっと皮肉をこめてしまうけど、読者の女性が求める夢物語はこういうところにあるのだろうな。紳士的で金持ちだし。
何か面白くて長く読める気楽なライトノベルがないか探していたが、少年向けにはあんまり面白そうなのがないので思い切ってコバルト文庫で探してみたら、このシリーズが一番人気があるのか冊数が多くて書店で特別コーナーが出来ていて最近アニメ化までされているというから手を出してみた。コバルト文庫といえば今野緒雪「マリアさまが見てる」が最高だったのでもっと早く他の作品を探すべきだった。
結論から言うと、この作品はとても面白かった。
妖精の宝剣をめぐって二人の悪党が争う。主人公の少女リディアは、そのうちの一人エドガーに連れ去られ、不本意ながら妖精に関する知識を動員して彼の手助けをすることになる。宝剣に至るまでのヒントとなる古文書には様々な妖精の名前が出てきて、謎を解いていく展開が面白い。映画「インディ・ジョーンズ」を思わせる。
妖精には妖精の論理があって、彼らの詭弁に引っかかってしまうと人間は破滅してしまう。そこをうまいこと屁理屈っぽい論理を使ってフェアリードクターの卵リディアが綱渡りで交渉をまとめ、うまいこと持っていこうとしようとするのがスリリングで楽しい。
出てくる妖精たちもちゃんと文献に出てくる有名な名前ばかりだ(と思う)。ピクシーとかバンシーとか。なかでもこの巻はメロウという人魚っぽい妖精を相手にしている。スクウェアエニックスのゲーム「ファイナルファンタジーXI」に出てくる合成生物モンスターにその名もメロウという人魚型の種族が出てくるのだが、この本によるとメロウはスコットランド版の人魚の妖精なのだという。
主人公の少女リディアの葛藤がいい。自分はとんでもない人物に手を貸そうとしているのではないか。どうやって逃げ出そうか。でも実は信用できる人物なのではないか。自分は頼りにされているのではないか。いや、やはりこの男は連続殺人犯なのではないか。そんな迷いの中、次第にこの男エドガーと心を通わせていく。
一方のエドガーも、闇の世界を生きてきた人間として、他人を騙したり従わせたりするのは得意で日常茶飯事だったが、いつも陽の当たるところで生きてきた少女リディアのストレートな性格に調子を狂わされ、窮地に陥ったときに素直に彼女に助けを求め、次第に彼女に引かれていく。
脇を固める登場人物もなかなか魅力的だ。エドガーの配下にして仲間の色黒で無表情で寡黙な青年レイヴンは、リディアの知らない異国の戦闘的な精霊を宿し、非常に高い戦闘力を持つ。例によってこういうキャラは時々人間っぽさをポロッと出して腐女子の人気を集めているのだろうな。ショートカットで男装をしていても白い肌と黒い髪から女性の魅力を隠しきれていないアーミン。主人公の少女リディアが小さい頃から一緒にいた紳士を気取る猫型の妖精ニコ。
ちょっと批判もすると、敵役がいとも簡単に主人公たちの行く手に現れてグダグダなやり取りや戦闘をするのはどうにかしてほしかった。
エドガーとアーミンとリディアの心理描写が難しくて、私の読解能力の問題もあるのかもしれないが、所々ちょっと微妙に感じられた。悪党エドガーが今までのすさんだ精神状態からは信じられないほどリディアに対して素直になるに至るまでの描写とか、アーミンのエドガーを想う複雑な心理描写、リディアがエドガーに抱く不信が不思議と次第に氷解していくところなんか、まあこんなものかと思いながら読んでしまった。
現在私は本シリーズの第4巻の途中まで読んでいて、その後も多分読み進めると思うので、本シリーズは人に勧めることが出来るとても面白い作品なんじゃないかと思う。でも第2巻以降はちょっとリディアのエドガーに対する不信がくどくなってきて、それに対するエドガーの甘い言葉に正直ちょっとうっとうしさも覚える。
でもなんだかんだでリディアはかわいいなあ。少女小説のヒロインは読者が感情移入する対象だから、男にとってはそんなに魅力的である必要はないと思うのだけど、自分の髪や瞳の色にコンプレックスを感じていて、妖精と会話が出来る能力から同世代の男の子たちとうまいこといかなかったリディアが、初めて好意らしい好意を金髪の美男子(笑)から受けて戸惑い、素直には信じられず拒絶するところはグッとくる。ちょっと皮肉をこめてしまうけど、読者の女性が求める夢物語はこういうところにあるのだろうな。紳士的で金持ちだし。
(最終更新日: 2009年7月27日 by ひっちぃ)