フィクション活字
ミステリー
池袋ウエストゲートパーク
石田衣良 (文春文庫)
傑作(30点)
2009年7月4日
ガキどもが群れ集う池袋。工業高校を卒業して家業の果物屋の手伝いをしている主人公のマコトは、仲間たちと主に池袋西口公園で落ち合い、たむろし、遊ぶ。ある日マコトの仲間が事件に巻き込まれる。責任を感じたマコトは、池袋中のガキに協力を求め、仲間の仇を討とうとする。そんなこんなで池袋で問題解決屋として一目置かれるようになるマコトと仲間たちの活躍を描いた連作短編。
たぶん流行作家の石田衣良のこれがなんとデビュー作。人気脚本家の宮藤官九郎が脚本を手がけてテレビドラマ化されている。
最初この題を見たとき、なんかヘンに未来的なイメージを持ち、ちょっといけすかないなあ(死語?)と思って興味も沸かなかったのだけど、なんてことはない、「池袋西口公園」を単純に英語に訳しただけなのだ。チャラ男芸人の慶が八王子のことを「エイトプリンス」と呼んでいるのとまさに同じノリで、ちょっと頭の足りないガキが精一杯かっこつけようとして英語にしている感覚をそのまま題に織り込んだのだろう。
四篇で構成される最初の章は、謎の連続首絞殺人未遂犯を追う話。まず主人公マコトの仲間の話から入る。マコトがいた工業高校には二強の男二人がいた。一人は学校の近くによく来る飼い犬のドーベルマンを殺した男で、そのことであだ名がドーベル殺しの山井になるのだが、これが生肉をエサにして武器で刺し殺した丸っきりの不意打ち。これわざとこんなしょぼいエピソードにしてるのか。もう一人は落下物を瞬時に掴むほどしなやかな筋肉を持つというタカシ。この二人が卒業前にどっちが強いかタイマン(一対一のケンカ)をし、辛くもタカシが勝つ。このタカシが池袋のガキを締めるGボーイズというグループのヘッド(リーダー)になっている。もう一方の山井は主人公マコトとよくつるむようになる。ほかに工業高校から四流大学に滑り込んだ秀才のマサ、最初はカツアゲ(恐喝)するつもりがなぜか仲間になったチビな美大生シュン、逆ナン気味に声を掛けてきて親しくなったヒカルとリカ。
そんなマコトの仲間のうちの一人が事件に巻き込まれる。仲間の仇を討つため、マコトはGボーイズのヘッドに収まっていたタカシを頼み、池袋中のガキに協力を依頼し作戦を立てる。ガキたちのチームプレイはついに犯人を捕らえる。しかし実はその裏に意外な真犯人がいるのだった。
この短編のテーマとして、親による虐待が取り上げられている。そりゃそうだ。夜の繁華街をたむろするような頭の悪いガキが生まれる裏には、それに輪を掛けたようなバカ親がいる。そんな親のもとで育って精神的におかしくなったガキを、作者は結構丁寧に地味に描写している。出会ってすぐに仲間の全員に高価なプレゼントを贈り続けようとする女の子。あからさまに「ヘン」とは書かず、具体的な描写で浮き彫りにしようとしている。
二つ目の話は、最初の事件を解決に導いた主人公マコトの手腕を買って、池袋の地元ヤクザの組長がマコトに人探しを頼む話。年老いた組長が内縁の妻に産ませていまは女子高生となっている娘は、過保護のせいもあって奔放に育ち、頻繁に遊びに出かける不良に育ったが、ある夜を境に消息を立ってしまう。ヤクザの調査力が及ばないガキどものネットワークと方法でなんとかならないかという依頼だ。このヤクザの組には、マコトの同級生で登校拒否になって学校に来なくなったあだ名サルがいて、調査に帯同するようになる。事件はマコトならではの方法で解決に導かれるが、組長の娘に惚れていたサルは独走してケジメをつけようとする。
三つ目は麻薬の売人をハメる話。主人公マコトの同級生でクラスで一番かわいかった千秋はいまでは近所のヘルス(風俗)に勤めている。ある日客としてやってきた麻薬の売人にクスリを使われ、それが元で常習するようになる。それを知ったイラン人の真面目な彼氏が売人の取引中のヤクに火をつけて台無しにしてしまい、元売のヤクザからも追われるようになる。そんな彼氏をかくまって二人一緒にいられるようにしてほしいと頼まれたマコトは、デジタルオタクを集めて独自におとり捜査をする。
四つ目は池袋のガキどもを二分するどうしようもない内戦を解決に導こうとする話。突如池袋に現れたダンサーの京一は、カリスマ性でたちまち池袋に独自の勢力を作ってしまい、最初はつまらないことでいさかいに発展し、敵対するチームカラーの赤と青を身に着けているとまったく関係ない人間まで無差別に暴力の対象となるようになり、ついには死者を出すほどエスカレートしてしまう。マコトはそんな現状を憂い、争いの原因を突き止めて紛争をとめようとする。結局争いの原因というか理由づけがいまいちよく分からなかったが、最後は非常に絵になる終わり方をしていて、鮮やかに物語の幕をいったん引いている。
全体を通じて言えるのは、とにかくストーリーに引き込まれる。一体この先どうなるのだろうと気になってしょうがない。
問題解決のためのポイントは大きくいくつかあるが、まず挙げるべきは主人公マコトの人脈だろう。作中を通じてどんどん増えていく。まず池袋を締めるグループのリーダーとは最初から仲が良かった。よく世話になる警察の少年課の吉岡から目を掛けてもらっている。二話でヤクザの知り合いが出来る。四話ではかつて近所にいてよく遊んでもらった兄貴分が東大を出てキャリア官僚となって池袋の警察署に署長として赴任してくるというとってつけたような展開があったり。
仲間の特殊な能力が事件を解決に導く助けとなる。似顔絵が書けるシュン、盗聴に詳しい通称ラジオ、地道な張り込みが出来る引きこもり。
じゃあそんな風に人をひきつける主人公マコトとはどういう人物なのか。これが一人称小説なので読者にはよく分からないようになっている。どうやら長身でイケメンらしい。学力はないが頭は回るようだ。一応不良みたいで、カツアゲもするらしいのだが、仲間思いらしい。良い子の文化が嫌いかと思ったら、CDショップの店員と仲良くなってクラシックを聞き始める。割と謙虚で人の話によく耳を傾ける。この人物造型はちょっとよく分からない。不良だから周りに散々迷惑を掛けてきたのに仲間思いな正義漢という調子の良さは置いておくとしても、このキャラは一体なんなのだろう。作者の分身なのだろうか。
そんなマコトが語るこの物語は、マコトの世界観がよく出ていると思う。たとえマコトがいくらか作者の分身だったとしても、さすがにここまでいまどきの若者風に書くのは手間が掛かっただろう。私が散々この文章で「ガキども」と書いているのもこのマコトの世界観の中の言葉遣いをそのまま使っている。不器用な自分を客観視しようとしているようなところとか、なんとかしたいのに及ばない自分にいらだつところなんかが誠実で好感が持てる。でもますます人物造型的には不自然な感じもしてくる。
なんだかんだで最後がとても盛り上がるし、一話一話どれも面白くて引き込まれたのだが、登場人物に対してほとんど魅力を感じなかったり違和感を持った。一言で言えば薄っぺらい。作者はプロット先行、ストーリー先行で描いたような感じがする。主人公マコトが暴力を振るうシーンにも思いが感じられなかった。それはまあ読者である私が自分とは縁遠い登場人物に対してあまり共感を持てないせいかもしれないが、一番の理由は多分一人称視点だからあまりクドクドしい描写が出来ないせいだと思う。独特の語り口は新鮮でオリジナリティにあふれているが、こういうところで作品をぼやけさせているように感じた。まあだからこそ、テレビドラマ化がバッチリハマったようにも思う。私はまだ見たことないけどw
物語の一つ一つが完全なハッピーエンドで終わらずに、なにかしら憂い含みの結末を迎えるのがとても味があって良かった。とてもリアリティがあるし、少し考えさせられる。
にしても、キャリア官僚とはいえ二十代の若造が、地元警察のベテラン刑事を「吉岡君」って呼ぶのはさすがにありえなさすぎる。お飾りとか論文とか数値解析みたいなところはそれっぽくて良かったのだけど、結局ラストを彩るための一要素みたいな扱いになってしまってシラケた。一方で、出稼ぎイラン人のカシーフのようなインテリのイラン人が東京でドカタをしているというのは多分事実だろうし風情があるように思った。
事件解決に貢献するのは主にオタクっぽい人間だけで、純粋な不良はまったく役に立っていない。これって不良たちの物語なんじゃないの? そもそもマコトはオタクと仲良くなれるようなキャラなの? ストリートは学校で、怖いけど学べる場所だというけど、一体何を学べるというの? 不良ってなにが偉いの? と突っ込みどころが多すぎる。作者はシブヤ系よりもアキバ系にシンパシーを持った人なんだろうな、と思った。現に作者には「アキハバラ@DEEP」という作品もある。読んだことないので知らないが。
とは言え早速続編を買い込んで読むのを楽しみにしている私なので、とても読みやすくて面白い読み物だから人にも勧めたい。
たぶん流行作家の石田衣良のこれがなんとデビュー作。人気脚本家の宮藤官九郎が脚本を手がけてテレビドラマ化されている。
最初この題を見たとき、なんかヘンに未来的なイメージを持ち、ちょっといけすかないなあ(死語?)と思って興味も沸かなかったのだけど、なんてことはない、「池袋西口公園」を単純に英語に訳しただけなのだ。チャラ男芸人の慶が八王子のことを「エイトプリンス」と呼んでいるのとまさに同じノリで、ちょっと頭の足りないガキが精一杯かっこつけようとして英語にしている感覚をそのまま題に織り込んだのだろう。
四篇で構成される最初の章は、謎の連続首絞殺人未遂犯を追う話。まず主人公マコトの仲間の話から入る。マコトがいた工業高校には二強の男二人がいた。一人は学校の近くによく来る飼い犬のドーベルマンを殺した男で、そのことであだ名がドーベル殺しの山井になるのだが、これが生肉をエサにして武器で刺し殺した丸っきりの不意打ち。これわざとこんなしょぼいエピソードにしてるのか。もう一人は落下物を瞬時に掴むほどしなやかな筋肉を持つというタカシ。この二人が卒業前にどっちが強いかタイマン(一対一のケンカ)をし、辛くもタカシが勝つ。このタカシが池袋のガキを締めるGボーイズというグループのヘッド(リーダー)になっている。もう一方の山井は主人公マコトとよくつるむようになる。ほかに工業高校から四流大学に滑り込んだ秀才のマサ、最初はカツアゲ(恐喝)するつもりがなぜか仲間になったチビな美大生シュン、逆ナン気味に声を掛けてきて親しくなったヒカルとリカ。
そんなマコトの仲間のうちの一人が事件に巻き込まれる。仲間の仇を討つため、マコトはGボーイズのヘッドに収まっていたタカシを頼み、池袋中のガキに協力を依頼し作戦を立てる。ガキたちのチームプレイはついに犯人を捕らえる。しかし実はその裏に意外な真犯人がいるのだった。
この短編のテーマとして、親による虐待が取り上げられている。そりゃそうだ。夜の繁華街をたむろするような頭の悪いガキが生まれる裏には、それに輪を掛けたようなバカ親がいる。そんな親のもとで育って精神的におかしくなったガキを、作者は結構丁寧に地味に描写している。出会ってすぐに仲間の全員に高価なプレゼントを贈り続けようとする女の子。あからさまに「ヘン」とは書かず、具体的な描写で浮き彫りにしようとしている。
二つ目の話は、最初の事件を解決に導いた主人公マコトの手腕を買って、池袋の地元ヤクザの組長がマコトに人探しを頼む話。年老いた組長が内縁の妻に産ませていまは女子高生となっている娘は、過保護のせいもあって奔放に育ち、頻繁に遊びに出かける不良に育ったが、ある夜を境に消息を立ってしまう。ヤクザの調査力が及ばないガキどものネットワークと方法でなんとかならないかという依頼だ。このヤクザの組には、マコトの同級生で登校拒否になって学校に来なくなったあだ名サルがいて、調査に帯同するようになる。事件はマコトならではの方法で解決に導かれるが、組長の娘に惚れていたサルは独走してケジメをつけようとする。
三つ目は麻薬の売人をハメる話。主人公マコトの同級生でクラスで一番かわいかった千秋はいまでは近所のヘルス(風俗)に勤めている。ある日客としてやってきた麻薬の売人にクスリを使われ、それが元で常習するようになる。それを知ったイラン人の真面目な彼氏が売人の取引中のヤクに火をつけて台無しにしてしまい、元売のヤクザからも追われるようになる。そんな彼氏をかくまって二人一緒にいられるようにしてほしいと頼まれたマコトは、デジタルオタクを集めて独自におとり捜査をする。
四つ目は池袋のガキどもを二分するどうしようもない内戦を解決に導こうとする話。突如池袋に現れたダンサーの京一は、カリスマ性でたちまち池袋に独自の勢力を作ってしまい、最初はつまらないことでいさかいに発展し、敵対するチームカラーの赤と青を身に着けているとまったく関係ない人間まで無差別に暴力の対象となるようになり、ついには死者を出すほどエスカレートしてしまう。マコトはそんな現状を憂い、争いの原因を突き止めて紛争をとめようとする。結局争いの原因というか理由づけがいまいちよく分からなかったが、最後は非常に絵になる終わり方をしていて、鮮やかに物語の幕をいったん引いている。
全体を通じて言えるのは、とにかくストーリーに引き込まれる。一体この先どうなるのだろうと気になってしょうがない。
問題解決のためのポイントは大きくいくつかあるが、まず挙げるべきは主人公マコトの人脈だろう。作中を通じてどんどん増えていく。まず池袋を締めるグループのリーダーとは最初から仲が良かった。よく世話になる警察の少年課の吉岡から目を掛けてもらっている。二話でヤクザの知り合いが出来る。四話ではかつて近所にいてよく遊んでもらった兄貴分が東大を出てキャリア官僚となって池袋の警察署に署長として赴任してくるというとってつけたような展開があったり。
仲間の特殊な能力が事件を解決に導く助けとなる。似顔絵が書けるシュン、盗聴に詳しい通称ラジオ、地道な張り込みが出来る引きこもり。
じゃあそんな風に人をひきつける主人公マコトとはどういう人物なのか。これが一人称小説なので読者にはよく分からないようになっている。どうやら長身でイケメンらしい。学力はないが頭は回るようだ。一応不良みたいで、カツアゲもするらしいのだが、仲間思いらしい。良い子の文化が嫌いかと思ったら、CDショップの店員と仲良くなってクラシックを聞き始める。割と謙虚で人の話によく耳を傾ける。この人物造型はちょっとよく分からない。不良だから周りに散々迷惑を掛けてきたのに仲間思いな正義漢という調子の良さは置いておくとしても、このキャラは一体なんなのだろう。作者の分身なのだろうか。
そんなマコトが語るこの物語は、マコトの世界観がよく出ていると思う。たとえマコトがいくらか作者の分身だったとしても、さすがにここまでいまどきの若者風に書くのは手間が掛かっただろう。私が散々この文章で「ガキども」と書いているのもこのマコトの世界観の中の言葉遣いをそのまま使っている。不器用な自分を客観視しようとしているようなところとか、なんとかしたいのに及ばない自分にいらだつところなんかが誠実で好感が持てる。でもますます人物造型的には不自然な感じもしてくる。
なんだかんだで最後がとても盛り上がるし、一話一話どれも面白くて引き込まれたのだが、登場人物に対してほとんど魅力を感じなかったり違和感を持った。一言で言えば薄っぺらい。作者はプロット先行、ストーリー先行で描いたような感じがする。主人公マコトが暴力を振るうシーンにも思いが感じられなかった。それはまあ読者である私が自分とは縁遠い登場人物に対してあまり共感を持てないせいかもしれないが、一番の理由は多分一人称視点だからあまりクドクドしい描写が出来ないせいだと思う。独特の語り口は新鮮でオリジナリティにあふれているが、こういうところで作品をぼやけさせているように感じた。まあだからこそ、テレビドラマ化がバッチリハマったようにも思う。私はまだ見たことないけどw
物語の一つ一つが完全なハッピーエンドで終わらずに、なにかしら憂い含みの結末を迎えるのがとても味があって良かった。とてもリアリティがあるし、少し考えさせられる。
にしても、キャリア官僚とはいえ二十代の若造が、地元警察のベテラン刑事を「吉岡君」って呼ぶのはさすがにありえなさすぎる。お飾りとか論文とか数値解析みたいなところはそれっぽくて良かったのだけど、結局ラストを彩るための一要素みたいな扱いになってしまってシラケた。一方で、出稼ぎイラン人のカシーフのようなインテリのイラン人が東京でドカタをしているというのは多分事実だろうし風情があるように思った。
事件解決に貢献するのは主にオタクっぽい人間だけで、純粋な不良はまったく役に立っていない。これって不良たちの物語なんじゃないの? そもそもマコトはオタクと仲良くなれるようなキャラなの? ストリートは学校で、怖いけど学べる場所だというけど、一体何を学べるというの? 不良ってなにが偉いの? と突っ込みどころが多すぎる。作者はシブヤ系よりもアキバ系にシンパシーを持った人なんだろうな、と思った。現に作者には「アキハバラ@DEEP」という作品もある。読んだことないので知らないが。
とは言え早速続編を買い込んで読むのを楽しみにしている私なので、とても読みやすくて面白い読み物だから人にも勧めたい。