映画、テレビ番組、舞台芸術
洋画
スラムドッグ$ミリオネア
監督:ダニー・ボイル 原作:ヴィカス・スワラップ
最高(50点)
2009年11月28日
経済発展を遂げたインドのムンバイ。高額な賞金がもらえる日本でもおなじみのクイズ番組「クイズ$ミリオネア」で、ものすごい大金を手に入れつつあった貧民ジャマールは、番組の収録が延長されその日の収録が終わった途端にいかさま容疑で捕まってしまう。刑事たちから強引な取調べを受けたジャマールの口から彼の半生が語られる。
日本ではみのもんたがネチッこい司会で一時期流行したあのクイズ番組のインド版が舞台となっている。この番組、元々はイギリスの番組制作会社が作った番組で、日本やインドだけでなく世界中でこの番組のフォーマットが買われ、各地のスタッフにより制作されている。
どうしてジャマールにはクイズの答えが分かったのか。物語は、捕まった彼が刑事の尋問に一つ一つ答えていくたびに、回想シーンによって綴られていく。貧民窟で生まれてから、宗教対立で肉親を失い、こじきや泥棒をして日々の糧を得てきた毎日。クイズの答えは、そんな日々の中で偶然知ったことの数々に過ぎなかった。
インドの映像が素晴らしい。絵に描いたような貧民窟に始まり、乞食集団のキャンプ、経済発展を続ける街、観光地となっている寺院タージマハールの美しさと騒がしさ、高層ビルの建築現場、そして人々の夢を集めた舞台であるクイズ番組の収録現場。ブルーレイを衝動買いした甲斐があった。
この作品にはいくつもの筋書きと要素が詰まっていて、多分観た人はなにかしらに惹かれると思う。まずは題名にもなっているクイズ番組で主人公が勝ちあがっていくところ。貧民の一攫千金という夢への階段が分かりやすい。次に大きなのがヒロインとの恋。乞食キャンプで出会った少女ラティカと引き裂かれてしまい再び出会うがさらに障害が起きる。原作にはいなかったらしい兄は、主人公とは対称的な生き方を選び、主人公を助けたり対立したりする。貧困という社会問題についても考えさせられる。大人によってわざと目を潰された少年が街頭で歌を歌ってお金を稼いでピンハネされる。こういった間口の広さこそがヒットにつながったのだろう。
この作品はイギリス人監督とイギリス人主演俳優によるイギリス映画かと思いきや、それ以外の点では近年映画大国として認知されたインドのボリウッド映画なのだ。ほとんどの俳優と製作現場のスタッフ。そしてエキゾチックでありながらモダンで斬新な素晴らしい音楽もインド映画音楽の巨匠ラフマーンという人が書いている。ボリウッド映画が日本に広く知られる元となった「ムトゥ踊るマハラジャ」の音楽もこの人が作ったらしい。ちなみにボリウッド映画の特徴の一つとなっている終劇後のキャスト全員による脈絡のないダンスもしっかりこの作品にはある。
クイズ番組の収録現場とその舞台裏という現代社会の一つの虚像について描かれているのが面白い。特に、日本人にはなじみのあるあの番組のインド版で、おなじみの仕組みと演出により番組が進められ、インド人司会者がテレビマンぶりを見せたりするところが不思議な感じがする。異化効果なのだろうか。
賞賛してばかりなのでここらで批判もすると、クイズ番組で賞金を得ることと恋愛を成就することを物語の山場に持ってきたことで非常に分かりやすい作品となったが、結局はそれかい!という何かおきざりにされた感がする。
どうも演出が中途半端に感じる。一人の貧民が賞金を得たことでインドの貧民層に夢を与えたとか、主人公ジャマールの話を聞いていくに従って刑事が引き込まれて心象をよくしていったとか、主人公ジャマールの兄サリームが弟に対してどう思っていたのかとか、インドの貧困問題全般についてとか、その他色々な描写がいま一歩物足りない。映像も音楽も筋書きも素晴らしいのに脚本演出が一流ではない感じがする。三流ではないとは思うのだけど。
とは言っても普通に楽しむ分にはそんなに気にならない。広く勧めることが出来る素晴らしい作品だと思う。観ている最中はたっぷりと現代のインドに浸ることが出来る。すがすがしいハッピーエンドが気持ちいい。
日本ではみのもんたがネチッこい司会で一時期流行したあのクイズ番組のインド版が舞台となっている。この番組、元々はイギリスの番組制作会社が作った番組で、日本やインドだけでなく世界中でこの番組のフォーマットが買われ、各地のスタッフにより制作されている。
どうしてジャマールにはクイズの答えが分かったのか。物語は、捕まった彼が刑事の尋問に一つ一つ答えていくたびに、回想シーンによって綴られていく。貧民窟で生まれてから、宗教対立で肉親を失い、こじきや泥棒をして日々の糧を得てきた毎日。クイズの答えは、そんな日々の中で偶然知ったことの数々に過ぎなかった。
インドの映像が素晴らしい。絵に描いたような貧民窟に始まり、乞食集団のキャンプ、経済発展を続ける街、観光地となっている寺院タージマハールの美しさと騒がしさ、高層ビルの建築現場、そして人々の夢を集めた舞台であるクイズ番組の収録現場。ブルーレイを衝動買いした甲斐があった。
この作品にはいくつもの筋書きと要素が詰まっていて、多分観た人はなにかしらに惹かれると思う。まずは題名にもなっているクイズ番組で主人公が勝ちあがっていくところ。貧民の一攫千金という夢への階段が分かりやすい。次に大きなのがヒロインとの恋。乞食キャンプで出会った少女ラティカと引き裂かれてしまい再び出会うがさらに障害が起きる。原作にはいなかったらしい兄は、主人公とは対称的な生き方を選び、主人公を助けたり対立したりする。貧困という社会問題についても考えさせられる。大人によってわざと目を潰された少年が街頭で歌を歌ってお金を稼いでピンハネされる。こういった間口の広さこそがヒットにつながったのだろう。
この作品はイギリス人監督とイギリス人主演俳優によるイギリス映画かと思いきや、それ以外の点では近年映画大国として認知されたインドのボリウッド映画なのだ。ほとんどの俳優と製作現場のスタッフ。そしてエキゾチックでありながらモダンで斬新な素晴らしい音楽もインド映画音楽の巨匠ラフマーンという人が書いている。ボリウッド映画が日本に広く知られる元となった「ムトゥ踊るマハラジャ」の音楽もこの人が作ったらしい。ちなみにボリウッド映画の特徴の一つとなっている終劇後のキャスト全員による脈絡のないダンスもしっかりこの作品にはある。
クイズ番組の収録現場とその舞台裏という現代社会の一つの虚像について描かれているのが面白い。特に、日本人にはなじみのあるあの番組のインド版で、おなじみの仕組みと演出により番組が進められ、インド人司会者がテレビマンぶりを見せたりするところが不思議な感じがする。異化効果なのだろうか。
賞賛してばかりなのでここらで批判もすると、クイズ番組で賞金を得ることと恋愛を成就することを物語の山場に持ってきたことで非常に分かりやすい作品となったが、結局はそれかい!という何かおきざりにされた感がする。
どうも演出が中途半端に感じる。一人の貧民が賞金を得たことでインドの貧民層に夢を与えたとか、主人公ジャマールの話を聞いていくに従って刑事が引き込まれて心象をよくしていったとか、主人公ジャマールの兄サリームが弟に対してどう思っていたのかとか、インドの貧困問題全般についてとか、その他色々な描写がいま一歩物足りない。映像も音楽も筋書きも素晴らしいのに脚本演出が一流ではない感じがする。三流ではないとは思うのだけど。
とは言っても普通に楽しむ分にはそんなに気にならない。広く勧めることが出来る素晴らしい作品だと思う。観ている最中はたっぷりと現代のインドに浸ることが出来る。すがすがしいハッピーエンドが気持ちいい。
(最終更新日: 2010年3月8日 by ひっちぃ)