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ソードアート・オンライン1 アインクラッド

川原礫 (アスキー・メディアワークス 電撃文庫)

傑作(30点)
2011年4月22日
ひっちぃ

高度なヴァーチャルリアリティ技術でコンピュータネットワーク上に構築された仮想的なファンタジー世界を舞台にした多人数参加型ロールプレイングゲームが仮想近未来の日本で開発された。競争率の高い先行テストプレイにも当たって熱心にプレイしていた少年キリトは、正式サービスの開始日に突如ゲーム世界に降臨した天才プロデューサーから恐ろしい事実を突きつけられる。一万人ものプレイヤーをクリアするまでゲーム世界に閉じ込め、ゲーム内で死を迎えたプレイヤーをゲーム端末からの高圧電流で現実世界でも殺す…! その日以来二年間、ほぼたった一人で戦い続けた少年は、一人の少女と出会う。インターネット上で個人的に公開されて650万PVものアクセスがあったという大人気ネット小説シリーズが書籍として出版された第一作目。

2ちゃんねるのネット実況板のおすすめライトノベルスレッドで多くの人が挙げていたので興味を引かれて読んでみた。

この作品に出てくるゲームのモデルになっているのは、ウルティマオンラインに始まるMMORPG(大規模同時プレイネットRPG)と呼ばれる一連のゲームだろう。私もいくつか遊んだことがあり、ひどいときには家にいるあいだはずっとこの種のゲームで遊んでいた時期があった。世界的に中毒性が問題になっており、ゲームを立ち上げるたびに現実世界を大切にしようというメッセージが表示されるほどだ。最近は下火になってしまい、モンスターハンターシリーズのようにMORPGつまり大規模じゃなくなって身近な人と一緒にゲーム機を持ち寄って遊ぶゲームのほうが人気みたいなのだけど、私を含めた多くの人はきっと魅力的なMMORPGが開発されないか待ち望んでいると思う。その期待を背負ったファイナルファンタジー14がひどいコケかたをして今に至っているのだけど。

この作品はそんなMMORPGを遊んだことのある人にとってなじみの世界が描かれている。敵と戦ったりダンジョンを攻略したりするだけでなく、ゲーム内での人との出会いとコミュニケーションがある。ゲーム内の世界には人によって強い弱いがあったり、大勢の友達がいる人もいれば孤独な人もおり、お金持ちもいれば貧乏人もいる。ケンカになったりすることもあれば、愛を語り合ったりすることもある。

なんか前置きを書くのが面倒になってきたので説明はこのへんにしておく。

この作品のテーマはたぶん作者があとがきで言っているように仮想世界と現実世界の違いってなんだろうというものだろう。MMORPGをやったことのある人にとってはたぶん何度も考えたことがあることだと思う。やったことのない人にはこの感覚、分かるんだろうか。読んでみた感じ割と丁寧に説明されていたので、これならこの種のゲームを遊んだことのない人にも理解できそうだなと思ったけれど、やったことのある人間が推測しているので実際どうなのだろう。でもまあ一昨年流行ったジェイムズ・キャメロン監督の映画「アバター」と近いので大丈夫そうだな。ちなみにこのネット小説は2002年に発表されている。それ以前にも似たような作品はあるかもしれないけれど。

仮想世界はほとんどの点で現実世界に似ている。プレイヤーは仮想世界では限られた力しか持たないそれぞれのキャラクターを操作しているだけなのだけど、遊んでいるうちに人気者だとか有名人なんていうキャラクターが出てくる。ゲーム内通貨を沢山持っている大金持ちや、希少なアイテムを沢山持っている人だけでなく、人を惹きつける魅力を持った人や、自然と尊敬を集めてリーダーに祭り上げられる人。また、同じ志を持った人が集まってグループを形成し、そのグループに属することが一つの栄誉にもなったりする。

この作品では、効率優先でほとんど一人で戦ってきた主人公の少年キリトが、有力グループの副団長の美少女剣士アスナと出会う。ちなみに実際にあるゲームだと、この作品の最初のほうでパロディ気味に描かれているように、キャラクターはみんなかっこいい高精細ポリゴンで描かれているので、プレイヤーの美醜は問題になることがない。でもこのゲームは端末の調整時にひそかにプレイヤーの顔や体格をスキャンして再現するようになっている。ただでさえ男のプレイヤーが多いゲームで(実は主婦がかなり多いという説もある)、美少女でなおかつ有力グループの幹部をやってるプレイヤーという設定になっているヒロインのアスナは、この世界ではかなりの有名人ということになっている。彼女に引っ張られて主人公の少年キリトはこの世界の中心に導かれる。

なんだかバカバカしく思ったかもしれないけれど、これって結構ネットゲーマーの思い描く夢だと思う。この世界には厳然と格差が存在するので、ほかのプレイヤーより自慢の出来る何かを持った人はそれだけで優越感にひたれる。現実世界のそれと変わらないかそれ以上の喜びが得られる。

美少女剣士アスナとの出会いのあとは結構恋愛ものになる。その中で主人公の少年キリトがなぜ孤独なソロプレイをしてきたのかといった少年の物語や、美少女剣士アスナがなぜ人を率いて戦っているのかといった物語なんかが語られ、最後は一つの巨大な敵に立ち向かっていって終わる。

とても面白い作品だったけれど、読んでいていくつも気になるところがあった。

主人公の少年と美少女剣士との恋愛がすごく甘美でよかった。こんなに恋愛モノになってしまっていいんだろうか。もう少女マンガをバカに出来ないと思う。恋愛モノが好きな私にとってみればいい時代になったものだ。でもこれ、ちょっと甘ったるすぎる上に稚拙な感じがする。ヒロインの感情表現とか少年の愛情表現がベタすぎる。少年も幼い感じがする。まあ軽くネタバレしちゃうと実際に幼いのだからこんなものなのかな。あまりにストレートなので気恥ずかしい。私がひねくれているからだろうか。ああ、そうか、こういうのを純愛ものって言うのか。

ちなみにネット上の恋愛は必ずしもこんな純愛になるのではなく、現実世界とそう変わらない。三角関係とかストーカーとかハラスメントなんかがあってドロドロしたりもする。私も少し恋愛関係になったことがあるけれど、ピークを過ぎたらだんだん相手にイラだってきて結局自分から別れた。実際に会って結婚した人も少なくないらしいけれど、私の周りにはいなかった。夫婦で遊んでいる人は割といた。

主人公の少年キリトが妹に似て女っぽい顔立ちをしているという設定が最初にあっていきなり萎えた。これのせいか、主人公への感情移入がろくに出来なかった。ついでに言うと、ゲーム世界の中でも現実の容姿になってしまうという設定にしたのはたぶん正解なのだろうけどそれでも釈然としないものを感じる。なんだ結局容姿か、みたいな。

あれだけ思わせぶりだった《軍》が結局アレだけってのもなあ。

でもクライマックスと結末がとても良かったので読後感がすごく良かった。

このレベルの小説がインターネット上の個人サイトで公開されていたということに驚いたが、それ以上によくみんな読んで口コミで広がったなあと驚いた。ネットだとせいぜいSS(ショートストーリー)ぐらいがせいぜいだと思っていた。そもそも素人の作品なんてイラストやマンガならともかく小説なんていう文字だらけのものを読もうと思う人がいるのか。以前私が読んで面白かったネット小説「絶望の世界」は、最初はいじめられっこの日記という体で書かれていたため、ネット上で小説なんて読まないと思っていた私はそれと知らずにぐいぐいと引き込まれていって結局全部読んでしまった。陰湿ないじめという引きがなかったら読まなかったと思う。でもいまはネットや携帯文化の影響でなんだかんだで若い人の間で小説は手軽に読むものになったのかもしれない。

私はいまはMMORPGをやっていないけれど、またいつかハマりたいなあ。早くソードアート・オンラインが開発されないかなあ。ファイナルファンタジー14には期待していたんだけどなあ。私が大金持ちだったら、リアルなMMORPGが開発されるよう関連業界に採算度外視で投資しまくると思う。お金がない私はせめてこんな駄文を書いて一人でも多くの人に布教したい。

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