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神のみぞ知るセカイ 145話目ぐらいまで

若木民喜 (小学館 週刊少年サンデー)

傑作(30点)
2011年6月15日
ひっちぃ

一日中ギャルゲー(女の子を口説くゲーム)ばかりやっている高校生男子・桂木桂馬のもとに悪魔少女・エルシィがやってきた。人間の若い女の心の隙間に寄生する「駆け魂」を退治する手伝いをしてほしいので、女の子にキスして「駆け魂」をおびきだしてほしいという。現実世界を冷めた目で見ている彼が、ゲーム攻略のテクニックを応用して現実の女の子を手探りで口説いていく。少年マンガ。

最近アニメ化されたのを見てまあまあ面白かったものの、それほどではないなと思いつつもこれはひょっとして原作のほうが面白いパターンかと思って手を出してみた。

この作品の何が面白いって、ゲームの中のルールをそのまま現実に適用するとどうなるか?というズレが笑える。ギャルゲーには種種多様な女の子のパターンがあり、それぞれどういう風にすれば攻略しやすいのかある程度決まっている。お嬢様キャラにはまず尽くすとか、教師キャラを落とすには自分が「教え子」の枠に入らないようにするとかあって、作中で主人公の桂木桂馬が解説しながら実践してみせるのだけど、現実はなかなか一筋縄にはいかない。

桂木桂馬の性格がひねくれているのも良かった。曰く「現実(リアル)なんてクソゲーだ」。彼はゲームの中の世界だけを愛していて、現実には目もくれない。授業中も一心不乱にゲームをしていて教師からの注意も無視している。テストではほぼ満点なので教師は何も言えない。クラスでは「オタメガネ」と言われて女子たちからバカにされている。

そんな桂木桂馬のことを最初ナンパ師かなにかと勘違いしてやってくる悪魔少女エルシィがすごいアホっ子なのがいい。魔界では三百年間ずっと掃除係をやっていて最近になってやっと「駆け魂」退治に抜擢された落ちこぼれ悪魔で、消防車が大好きという非常に子供っぽい性格をしていて、自分ひとりでは何も出来ないのでいつも桂木桂馬のことを頼っている。彼の妹という設定で同じクラスに転入してみんなと仲良くしている。天女の羽衣みたいなのをつけていて和風のいでたちをしていて設定がよくわからない。最初キャラづけが微妙だなあと思ったけれど、見ているうちにかわいくみえてきた。

途中で第二の悪魔少女ハクアがやってくる。優等生で主席卒業で地区長として赴任してきてエルシィとも仲良しで非常に尊敬されていてプライドの高い性格をしているのだけど、実は…みたいな。

桂木桂馬が口説く対象となった女の子はかれこれ十数人に達する。おおむねみんな個性的でかわいい。陸上部員、お嬢様、アイドル、図書委員、空手部員、同じクラスの平凡女子、教育実習生、とアニメ化されている範囲ではこのくらい。普通の恋愛モノ作品と違うのは、ほぼ常にマイナススタートであること、女の子の最初の拒絶具合がひどいことなんかが挙げられるけれど、一番重要なのは主人公が男であるにも関わらず相手の女のほうに常に焦点があたっていること。男ががんばって女を口説く作品なのだけど、男の成長とか意志や意欲はさしあたってはほとんど描かれていない。だから少年マンガによく出てくる偶像的なヒロインではなく、女の子の意思や心の揺れがとても魅力的だ。ただ、これだけいるので微妙なキャラも何人かいる。たぶん好みの問題もあると思う。

逆に女の子の方から接近してくるパターンもたまにあって、主人公は現実の女の子に興味を持っていないという設定なので無視するのだけど、このパターンは微妙な感じ。最初アニメで見ていて、アイドルの女の子が自分に自信を持てなくて桂木桂馬に突っかかる場面なんか、見ていてなんだかなあと思った。一方で、教育実習生が職業的義務感から桂木桂馬と仲良くしようとやってくるのを彼が拒みきれないところはとても良かった。

主人公が女の子攻略の糸口を見つけると、決め台詞「エンディングが見えた」が出る。大体キスに成功すると「駆け魂」が女の子の体から出てきて、それを悪魔少女エルシィが捕まえて完結する。キスで終わるのは分かりやすくて物語的にはいいのだけど、現実にはちょっとこれはありえないよなあと思う。まあいいか。

ちなみに「駆け魂」を抜くことに成功した女の子はそのときの記憶を失うので展開に影響しない。…と思いきや、再攻略編と題して新たな展開が現在繰り広げられている。ネット上でこの作品のことを「ヒロイン使い捨て」と言う人がいて、まさに途中まではそのとおりだった。だからこそ個性的な女の子が次から次へと出てくるのがこの作品の魅力ではあったのだけど、それが薄っぺらいのもまた確かだった。特に、だいぶあとになって主人公桂木桂馬の幼馴染の女の子が出てきたときは結構うんざりした。しかしそこを起点に再攻略編が始まると、いままで攻略した女の子たちの中に六人の「女神」が潜んでいる可能性があることが分かり、一体どの女の子の中に女神がいるか分からないので女神探しをするようになる。女神が潜んでいるとキスしても実は記憶を失っていない、女神はいまは力を失っているが恋愛感情を呼び起こすと力を取り戻していく、みたいな設定があって物語を盛り上げている。

この作品の構造として、「絵に描いたような恋愛パターン」を裏切ってくる現実(まあそれもマンガという作り物ではあるのだけど)を描いているためか、主人公をサポートする悪魔少女エルシィとハクアの位置付けがとても独特で、特にエルシィは最初見たときすごく違和感があった。物語の枠組みからはみ出た余計なものという感じすらした。それが読んでいくにしたがって魅力的に思えてきた。エルシィと比べるとハクアは割と分かりやすくツンデレにしてあって面白みはないけれど、その分ストレートな魅力がある。

作品全体を通じて非常に新しい感じがする。この作品がメタな作品であることが新しさを感じる大きな理由なのだろうけど、それだけではないように思う。主人公の桂木桂馬は作中何度も意外性を感じて戸惑う描写が多く、それはまた読者である私たちも感じる新鮮な思いだ。ギャルゲー攻略ごっこという一見ワンパターンなものを扱ったこの作品の魅力は、よく作りこまれたストーリーから放たれているのだと思う。と言いつつ、安易な展開や微妙な展開になっていることも少なくないのだけど…。

この作品が今後どのような方向に進んでいくか、実のところ私は良い意味であまり期待していなくて、もういまのままの形で十分楽しいので大満足しているのだけど、どうやら作者は主人公桂木桂馬の成長の物語にもするつもりでいるらしい。確かにちょっと成長している感じがする。口で言っていることはいままでと大して変わっていないものの、なんだかんだで現実と深くコミットしている。どういった形でこれを着地させてくれるのか、期待してもいい気もしてくる。それともあくまで正ヒロインはゲームキャラの「よっきゅん」なんだろうかw

(最終更新日: 2011年6月21日 by ひっちぃ)

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