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ペルソナ4

アトラス

最高(50点)
2011年9月11日
ひっちぃ

新規出店してきた郊外の大型スーパーと昔ながらの商店街が対立する日本の平凡な田舎町に、高校二年生の一年間だけ都会から転校してきた主人公の青年が、みんなに受け入れられ親しくなっていく中で、不思議な連続殺人事件が起きて巻き込まれ解決しようとする。コンピュータRPGの良作を量産するアトラスによる、世界中の神話や伝承からモチーフを得た大ヒットシリーズの四作目。

前作ペルソナ3が非常に面白かったので、もう少し間をあけようと思っていたけれどこの4もやってみた。最初からすごく引き込まれた。

田舎の駅に降り立つ主人公の青年。雨が降る中、古い車で迎えに来る親戚の壮年の男。この男は妻を亡くしていて、小さい娘と木造家屋で暮らしている。十分に母親に甘えられなかった小さなおかっぱの女の子は、わがままを言わずに控えめな性格をしている。男はこの田舎町で刑事をしていて、事件があると娘を一人置いて仕事に出かけてしまう。自然と主人公の青年は娘と二人きりになる。最初はポツポツと話すだけなのが、次第に打ち解けていく。

主人公の青年が転入先の高校に行くと、そこにも新たな出会いが待っていた。一年前に都会から越してきた気さくな青年、旅館の女将を母親に持つ一見おとなしくて髪の長い少女、カンフーにかぶれて体を鍛えるのが趣味の短い茶髪の元気な少女。そのほか、先輩や後輩、先生、商店街の人々など。

この大して面白い場所のない田舎町で、遊びにきていた女優が変死体で見つかる。

今回冒険の舞台となるのは、テレビの中の世界だ。深夜0時に電源をつけていないテレビを見ると人が映るという不思議な噂がこの町の学生たちの間では流れており、みんなこれをマヨナカテレビと呼んで他愛のない恋占いと結びつけて話題にしていた。ところがあるとき主人公は、村の連続殺人とマヨナカテレビとが深く関係することに気づいてしまう。マヨナカテレビが映っているときに画面に手を触れると中に入れるのだ。テレビの中に不思議な世界があることを知り、連鎖的に仲間を巻き込みながら冒険を繰り広げることになる。

今回は基本的に前作のゲームシステムを大体引き継いでいる。世界中の神話や伝承をモチーフにしたペルソナと呼ばれる存在を仮面のようにつけかえて様々なスキルを駆使し、仲間とパーティを組んでテレビの中のダンジョンを攻略していく。中にはシャドウと呼ばれる敵がうろついており、倒しながら宝物を拾いつつ奥を目指し、ボスを倒してクリアしていく。強いペルソナを手に入れるために、普段の日常生活では様々な人々と知り合うことでコミュニティを増やし、仲を深めていくことで使えるペルソナが強くなっていく。知り合う人々それぞれにドラマがあり、選択肢を選んでいくことで色々な展開が繰り広げられ、人生の障害を乗り越えていく人々が描かれる。学校でのイベントも豊富で、まさに青春といった感じ。

前作は一つの塔を延々と登っていくだけだったが、今回はテレビの中に色んなダンジョンが用意されていて、展開によって一つずつ攻略していく。というのも、テレビの中はいわゆる深層心理によって形作られる世界だからだ。普段押さえつけていた欲望が剥き出しになり、表の自分から切り離されたもう一人の自分が、隠していたい本音を出して襲い掛かってくる。知り合った人々のそんな側面に触れながら、人々の悩みを解決へと導き、主人公は仲間を増やしていく。

他にも色々と紹介すべき要素はあるのだけど、面倒くさいし前作とかぶる部分も多いので省略することにする。

今回は前作にも増してゲームの中の世界に圧倒された。前作も素晴らしかったけれど、今回特に良かったのは仲間たちのキャラが立っていて彼らが表情豊かに会話していることだと思う。展開上仲間たちの深層心理や悩み事が描かれるほか、普段の性格や行動も会話やイベントの中で活き活きとしていて、どの人物にも強く思い入れた。前述のほか、女々しいところも併せ持つ不良、仕事に疲れたアイドルの女の子、学生なのに探偵をしていて警察に協力している謎の少年など。

この世界での出来事は、おおげさだけど自分の中の擬似的な思い出として深く心に残った。

テレビの世界にいた謎の「クマ」という気ぐるみのマスコットキャラっぽいやつが、ちょっと分かりやすぎるけれどコミカルな掛け合いを主人公たちと繰り広げていて笑った。こいつのダジャレに対する長髪の女の子の反応が特におもしろかった。

ちょっと教育上よくないんじゃないかと思うような趣向もある。たとえば一番分かりやすいのは、夜の病院での清掃のバイトで知り合う夜勤の看護婦さんとのやりとり。このゲームでは出会いごとにタロットをモチーフにしたコミュニティ名称がつけられるのだけど、主人公を誘惑してくる妙齢の看護婦とのコミュニティの名前が「悪魔」なのがウケる。でこの看護婦との仲を進展させるには、彼女の出してくる問いかけに対して、わざとウブな態度で答えなければならない。つまり彼女からすれば高校生のバイトの男の子である主人公は大人の女の自分からすればからかう対象でしかなく、彼女はそんな自分の世界観そのままにしか主人公を見ないので、主人公が本当はそんなキャラじゃないとしても無視してしまい、自分の望む振る舞いをしなければ仲が進展しにくくなってしまうのだ。だから自然とプレイヤーは彼女の思うままに主人公を演じさせることになる。まさにペルソナ(仮面)だ。現実世界でみんな自然とやっていることだけど、こうしてあまりにわかり易い形で提示されてしまうとなんだか身も蓋もない。でもこの趣向はすごく面白いと思う。

終盤になって真犯人を突き止める展開になる。プレイヤーに本当に謎解きをさせようとするので驚いた。私はあんまりミステリーを読まないので、この作品の謎解きがどの程度のレベルなのか評価できないし、犯人が分かったいま改めて思い起こすとそう大した謎ではなかった気がしてしまうのだけど、プレイ中は本当に分からなくて手探りで推理して選択肢を選んでなんとか当てることができて非常に大きな手ごたえがあった。自問自答のような語り口にも引き込まれた。

音楽は前回と同じ目黒将司という人がやっていて相変わらず素晴らしいけれど、どちらかというと前作のほうがよかったかも。特にメロディ、ボーカル曲が。

戦闘は弱点を突いたときや突かれたときのアドバンテージやペナルティが緩和されてバランスがよくなったほかは特に変化なしか。中ボスでセーブできなくて全滅してやりなおしたり、強力な雑魚敵にたまに全滅させられて唖然とするのも相変わらず。

ほかの大物RPGシリーズが次世代機へと進んだのに対して、本シリーズがプレイステーション2に踏みとどまって内容の深化を目指したとネットで呼んだとおり、話の内容的にはこれ以上ない素晴らしい作品だと思う。ドラゴンクエストシリーズも思い切って携帯機に行って着実な進化を遂げているように、ハードウェアの性能の向上はあくまで演出などの補助的なものであって、話の内容こそが一番重要だという当たり前のことを強く思った。特に女の子とのコミュニティが高レベルに到達するときのイベントシーンの数々は、小説やマンガと比べても相当レベルが高いと思う。素晴らしすぎて、なんだかゲーム要素のほうがどうでもよくなってしまい、かえってゲーム離れが進んでしまいそうだw

やったことのない人は是非やってほしい。この秋からアニメ化されるらしく、そっちのほうも楽しみではあるのだけど、この作品が色んな点でいまのアニメの枠に収まるのか結構心配だ。世界を自由に歩き回れて行動できるというゲームならではの仕組みや時間の流れが、物語を語る上での一つの表現手段でありこれまでのメディアとは違うのだということをはっきりと知らしめられそうな気がする。

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