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ビー・バップ・ハイスクール

きうちかずひろ (講談社 ヤンマガKCスペシャル)

まあまあ(10点)
2012年9月9日
ひっちぃ

不良高校生のヒロシとトオルとその仲間たちのケンカと恋愛の日々を描いたツッパリマンガ。仲村トオルなどが主演して実写映画化して大ヒットするなど社会現象になり(?)、不良少年のお手本の中でもたぶん最も大きかった作品だと思う。

テレビ朝日系列のバラエティ番組「アメトーーク!」でこの作品を取り上げていたのを見て興味がわいてきたので読んでみた。

子供の頃、床屋とか年上のいとこの家なんかに置いてあったので何度も手にとって読んでみたのだけど、当時はいったいなにが面白いのかよくわからなかった。いま読んでみるとそれなりに面白い。当時はなぜつまらないと感じたのか、そっちのほうが不思議に思えてきた。

まずツッパリとか不良についての説明からしておいたほうがいいんだろうか。親に対して極度に反抗するようになった中高生が、親や教師の望む「良い子」像からかけ離れた格好や振る舞いをし、周りに迷惑を掛けるようになることをツッパるとか不良になるなどと言う。たぶんこんなところだろうなあ。周りに迷惑が掛かっていなかったら単なる変人だろうし。

不良のシンボルといえばリーゼントで、きっとこれは校則で髪型について言われることに対する反抗なのだと思う。振る舞いとしては他人への暴力や恐喝、そして喫煙などの自傷行為だろうか。若くて責任が持てない時期での性行為もそうか。

この作品では主にケンカと恋愛を扱っている。主人公たちの周りには偏差値の低いふきだまりのような学校がいくつもあり、そこにそれぞれ不良たちがいて覇を唱えている。みんな腕に自信があり、どっちが強いかを決めたがっているので、ちょっとしたことで言いがかりをつけてケンカになる。仲間がやられたらその仕返しをするために相手と同じ学校の違う人間を襲って痛みわけたりする。学校同士だけでなく校内でも群れの中の強弱をつけたがり、番長(リーダー)の座を争ったりどっちが上かをはっきりさせようとしたりする。どちらかが潰されるまで戦い続けるのではなく、ちょうどいいところで手打ちにして秩序を守る。

ところがこの作品の面白いところは、主人公のヒロシとトオルは自分たちがのし上がろうとは考えていない。自分たちの面子(プライド)は守ろうとするからナメられたら(下に見られたら)戦うことが多い。ただし明らかに自分たちより強い相手からは逃げる。また、先輩に頭が上がらなかったりする。だから、よくあるバトルものとは一線を画している。

腕っぷしの強さ、という分かりやすい強弱関係を軸に、高校生活の中の生々しい人間関係が描かれる。人間は平等じゃないわけで、二人の人間がいれば必ずどちらが上か決まってしまう。子供の頃は主にそれが力だった。力の強い相手には理屈なんて通用しない。力だけじゃなく、美醜やリーダーシップやキャラ(面白さ)や人脈などによる立場の上下がある。そんなことは当たり前じゃないかと言う人のほうが世の中には多いだろうけれど、認めたくない人は少なくないと思う。

初期のエピソードにはガリ勉キャラが結構いじられる。正直読んでいて不快だった。まあこいつも結構人間的で自分勝手で悪い男なんだけど、ヒロシやトオルにひどいことをされて一方的に笑いものになる。あ、ひょっとしてこの作品をこういう風に読む人ってあまりいないかもしれないな。

しばらく読み進んでいくと、結構どのキャラもひどい目に遭ってオチに使われるようになる。トオルとヒロシは自分たちだけ留年して肩身が狭い思いをするし、ヒロシは中学生の彼女が出来るものの彼女が受験生なのでずっとおあずけを食らうし、トオルなんて本当はモテるのにいろいろ間が悪くてまったく女と仲良くできずに本気で当り散らしたりする。理不尽に後輩を殴りつけるエピソードもあれば、彼ら自身が先輩に無理難題を吹っかけられたりする。

前半部分は他校とのケンカの話が多いのだけど、中盤以降は小話が多くなる。一対一のいざこざとかやっかいごとの話がメインになり、あまり暴力は使わなくなる(それでも最終的な解決が必要なときにはケンカが起きるのだけど)。登場人物たちは頭で考えて互いにやり込めようとする。どのキャラもいきいきしていて、みんな本気でやりあっているのが見ていて楽しい。最近の作品は仲間同士で仲良くやっていることが多いので特にそう思う。

だから、ちょっとというかかなりかわいそうな目にあう登場人物が多く、素直に笑えないこともたびたびあった。不良マンガなだけに倫理観は通常の感覚からするとおかしいと思う。でもこの世界にもこの世界なりのバランス感覚があるようだ。たとえば、ボンタン(ズボン)やクツを奪ったり現金を恐喝するのは問題なしなのだけど、腕時計を奪って売り払い、あとでそれは父親の形見だから返してくれと言われてもウソをついてごまかすようなやつは問題ありとして退場させられる。恋敵に対してスパナで腕を折る行為はアリだけど、人の面子を汚す行為はダメ、だとか、ケンカで武器を使ってもいいケースとわるいケースがあったりする。そんなもの全部ダメじゃんと思うところだけど、彼らの中には線引きがあって、決して容認は出来ないけれど読者としては納得させられる。人を馬鹿にしたやつは殴られてもしょうがない、といった線引きは一体いくつの頃まで存在したのだろう、なんてことも考えさせられたりした。

この作品にはかわいい女の子もいればすごいブスも出てくるし、性格のいい子よりもみんななにかしら自己本位で悪いところが描かれる。いわゆるマドンナ的なキャラはいない。一時期トオルとヒロシが一人の女を取り合うのだけど、その女もあまり悪くは描かれていないものの煮え切らない態度がマイナス気味に描かれていて、次第に二人も興味を失っていく。

うーん、この作品の魅力を一言で言うと、人物の奥行きなのかなあ。しょうもない方向での。でもこれってすごいことだと思う。若い頃って自分がなるべく他人よりも高い位置にいようとすることにもっと力を注いでいたと思う。そういった気持ちがあけすけに作中人物によって語られている。自分は仲間のために何かしたいだなんて、ウソとは言わないけれど二次的なものなんじゃないかなあ、なんてことに思いをめぐらす。人間ってこういうしょうもないことのかたまりなんじゃないかな。

と、いかにもこの作品が名作であるかのような持っていきかたになってしまったけれど、実のところ読んでいてそれほど引き込まれないのも確か。ケンカで盛り上がっていた頃は結構展開にドキドキして読み急いだりもしたのだけど、特に中盤後半はまったりしていて淡々と話が進む。ごくたまにすごくいい場面があってジーンとくるんだけど。

読むならあまり期待せずに読んだほうがいいと思う。

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