マンガ
ファンタジー
DRAGON QUEST -ダイの大冒険-
監修:堀井雄二 原作:三条陸 作画:稲田浩司
まあまあ(10点)
2014年5月25日
善良な魔物に育てられた小さな少年ダイは、人間の世界から隔絶されたデルムリン島で魔物たちと仲良く暮らしていたが、あるとき魔王が復活してそれまで善良だった魔物たちが暴れだした。ダイの額に竜の紋章が浮かび上がり、世界を救う勇者として祭り上げられていく。和製コンピュータRPGの雄「ドラゴンクエスト」シリーズからスピンオフ(派生)したオリジナル少年マンガ。
学生の頃にリアルタイムで週刊少年ジャンプを購読していてこの作品を読んだことがあるのだけど、最後まで読んだ覚えがなかった。このあたりの頃にジャンプを読むのをやめてしまったぐらいだから大して面白くなかったのだと思うけど、最近になって2ちゃんねるなどでこの作品のネタがいくつか流用されているのを知って、これは教養(?)として一度全部読んでおくべきだと思ったのと、面白い少年マンガだったら気楽に読んで楽しめるだろうと思って読んでみた。
あのドラゴンクエストのマンガ化ということで当時はちょっと期待していたのだけど、なにか違うなと思っていた。主人公がドラゴンボールの悟空のように小さくて強くて、立ちはだかる敵を次から次へと倒していくというとても少年マンガっぽい作品で、ゲームとは世界観だけ同じだけど別物として読んでいたような覚えがある。ほとんど魔王軍の幹部たちと戦ってばかり。
同時期に放映されたこれまた別物のアニメ化作品のほうがまだゲームに近くて、当時はどちらかというとそっちのほうが好きだった。キートン山田が魔法使いの声をやってたのと、ヒロインがやたらと主人公の名前「アベル〜」って叫んでるのぐらいしか覚えてないんだけど。
このマンガ化作品のほうは、序盤で出てくるアバン先生という元勇者のイメージが強烈で、この先生のお調子者っぽいところとか、あのヘンなカールした髪型にメガネとか、印象に残りまくっていた。自分にとってこの作品=アバン先生っていうぐらいに覚えていた。
いま改めて読み返してみると、アバン先生は思ったより早く退場してしまい、その後は結構長いバトルもの作品になっていることが分かった。ドラゴンクエストが好きな人にとって、ドラゴンクエスト=堀井節だと思うところだけど、派生作品にはこの堀井節がほとんど見られないのだった。あ、魔王軍を戦車で撃退した王なんか改めて見ると割と堀井節なのかもしれないけれど、取り返しがつくうちに改心してしまうのでむしろこのマンガ版の原作者である三条陸という人の色が出ているように思う。
ジャンプといえば、かつて戦った者同士が仲間になる展開が多くて、この作品にもそれが当てはまるのだけど、子供だましではなくてこの作品には独特のほろ苦さがあってとても味わい深い。特に獣王クロコダインは本当にいいキャラで、外見は爬虫類男なんだけど人間以上に人間臭くて、悪が善に改心するという安易な流れではなく、自分の道に背いてしまったことを主人公ダイたちによって気付かされ、後悔しながらも突き進むしかなく敗れていくシーンに思わず涙してしまった。こいつは冗談じゃなく第三の主人公と言っても言い過ぎではないと思う。
こいつに限らず、悪の組織の幹部連中がこんなに性格豊かな作品は他にあまりないと思う。名誉と勲功を求める氷炎将軍フレイザード、おのれの保身と出世のために狡猾に振る舞う妖魔術士ザボエラ、かつての魔王でいまは大魔王バーンに仕える魔軍司令ハドラーなど。
ただこの作品、基本的にボスクラスと戦ってばっかりなんだよなあ。森の中をさまようなどフィールド上の冒険は本当に序盤だけだし、ダンジョンの攻略も序盤と終盤にあるだけ。あとは決戦だの防衛戦だのばかり。
この作品の主人公は勇者ダイなのだけど、原作者はもう一人の主人公として魔法使いのポップを用意したとのこと。Wikipediaが引用しているインタビュー記事によると、原作者の三条陸という人の考えで、臆病で弱くて伸びしろの大きい魔法使いポップを成長させることで勇者ダイとは違った物語を同時に語れるという狙いがあったのだという。ドラゴンボールで言うところの悟空とクリリンみたいなものか。ちょっと露骨に感じたところもあるけれど、自分はダイよりもポップのほうが良かった。ポップの特に序盤はひどくて、ダイを見捨てて逃げ出したりするのだけど、師を得て努力して成長していく。ジャンプの編集者はこんなやつ早く殺せばいいのにとか言っていたみたいで笑えた。序盤はほんと読んでいて自分もそう思った。
恋愛要素もある。序盤に勝気な女僧侶戦士マァムが出てきてポップが惚れる。でもポップは恋心を明かせず、憎まれ口も叩くようになり、仲はとてもよくなっていくが恋愛とは遠ざかる。そのマァムはイケメンの魔法剣士ヒュンケルのことが気になるようになり、ポップは悔しがる。そんなポップのことを影で好きになる占い師メルル。あと勇者ダイと王女レオナとの間にもちょっと芽生えている感じ。でも基本的にこの作品は少年マンガなので、告白までは描かれるけれど返事までは描かれない。でもポップの切ない気持ちがマァムとすれ違うシーンはとても味わい深かった。
この作品の何が一番面白いかというと、やはり人と人(魔物も含む)との想いがスレ違うところだと思う。スレ違うから戦いが起こる。戦いの理由がドラマチックであったり必然的であったりするので、正直戦い自体は自分にとってはそんなに面白くないのだけど、決着がついたあとの展開に期待してしまう。でも、この作品の中で最大のスレ違いである、勇者ダイとその父親との衝突がとてもいまいちだった。この親子の存在が超越的すぎてワケわからなくなってるからというのが大きいけれど、父のわが子への思いや、子の父親への思いが、ほとんど描かれないままに親子関係を強調しているからなんじゃないかと思う。ダイには育ての親がすでにいるからしょうがないのかもしれないけれど、自分の本当の父親や母親についていままでに感じてきた思いとか、父親が自分の子についてどれだけ特別な思いを持っているのかという描写がもっとないと、読んでいる方としても想像力を働かせにくい。
文庫本にして22冊もあるとても長い話なのだけど、引き伸ばしがひどい。我慢して読んだけれど、ヒュンケルが何度でも復活したり、チェスのコマみたいな幹部が新登場したり、なかでも最悪なのが一度死んだはずのあいつが復活しちゃったりするのがうんざりした。大魔王バーンの最終形態は、展開的には長引かせ過ぎだと思ったけれど、その仕組みがとても巧妙で面白かった。最終形態があるんなら最初からそれでいけよというツッコミを退ける素晴らしい設定だと思った。
それなりに面白い話ではあるのだけど長すぎる。よほど暇な人にならマンガ喫茶で読めばいいよと勧めることが出来るけれど、普通の人にいまから勧められるような作品じゃないと思う。この作品は、連載当時に読んでいた世代だけが共有していけばいいんじゃないかと思う。
学生の頃にリアルタイムで週刊少年ジャンプを購読していてこの作品を読んだことがあるのだけど、最後まで読んだ覚えがなかった。このあたりの頃にジャンプを読むのをやめてしまったぐらいだから大して面白くなかったのだと思うけど、最近になって2ちゃんねるなどでこの作品のネタがいくつか流用されているのを知って、これは教養(?)として一度全部読んでおくべきだと思ったのと、面白い少年マンガだったら気楽に読んで楽しめるだろうと思って読んでみた。
あのドラゴンクエストのマンガ化ということで当時はちょっと期待していたのだけど、なにか違うなと思っていた。主人公がドラゴンボールの悟空のように小さくて強くて、立ちはだかる敵を次から次へと倒していくというとても少年マンガっぽい作品で、ゲームとは世界観だけ同じだけど別物として読んでいたような覚えがある。ほとんど魔王軍の幹部たちと戦ってばかり。
同時期に放映されたこれまた別物のアニメ化作品のほうがまだゲームに近くて、当時はどちらかというとそっちのほうが好きだった。キートン山田が魔法使いの声をやってたのと、ヒロインがやたらと主人公の名前「アベル〜」って叫んでるのぐらいしか覚えてないんだけど。
このマンガ化作品のほうは、序盤で出てくるアバン先生という元勇者のイメージが強烈で、この先生のお調子者っぽいところとか、あのヘンなカールした髪型にメガネとか、印象に残りまくっていた。自分にとってこの作品=アバン先生っていうぐらいに覚えていた。
いま改めて読み返してみると、アバン先生は思ったより早く退場してしまい、その後は結構長いバトルもの作品になっていることが分かった。ドラゴンクエストが好きな人にとって、ドラゴンクエスト=堀井節だと思うところだけど、派生作品にはこの堀井節がほとんど見られないのだった。あ、魔王軍を戦車で撃退した王なんか改めて見ると割と堀井節なのかもしれないけれど、取り返しがつくうちに改心してしまうのでむしろこのマンガ版の原作者である三条陸という人の色が出ているように思う。
ジャンプといえば、かつて戦った者同士が仲間になる展開が多くて、この作品にもそれが当てはまるのだけど、子供だましではなくてこの作品には独特のほろ苦さがあってとても味わい深い。特に獣王クロコダインは本当にいいキャラで、外見は爬虫類男なんだけど人間以上に人間臭くて、悪が善に改心するという安易な流れではなく、自分の道に背いてしまったことを主人公ダイたちによって気付かされ、後悔しながらも突き進むしかなく敗れていくシーンに思わず涙してしまった。こいつは冗談じゃなく第三の主人公と言っても言い過ぎではないと思う。
こいつに限らず、悪の組織の幹部連中がこんなに性格豊かな作品は他にあまりないと思う。名誉と勲功を求める氷炎将軍フレイザード、おのれの保身と出世のために狡猾に振る舞う妖魔術士ザボエラ、かつての魔王でいまは大魔王バーンに仕える魔軍司令ハドラーなど。
ただこの作品、基本的にボスクラスと戦ってばっかりなんだよなあ。森の中をさまようなどフィールド上の冒険は本当に序盤だけだし、ダンジョンの攻略も序盤と終盤にあるだけ。あとは決戦だの防衛戦だのばかり。
この作品の主人公は勇者ダイなのだけど、原作者はもう一人の主人公として魔法使いのポップを用意したとのこと。Wikipediaが引用しているインタビュー記事によると、原作者の三条陸という人の考えで、臆病で弱くて伸びしろの大きい魔法使いポップを成長させることで勇者ダイとは違った物語を同時に語れるという狙いがあったのだという。ドラゴンボールで言うところの悟空とクリリンみたいなものか。ちょっと露骨に感じたところもあるけれど、自分はダイよりもポップのほうが良かった。ポップの特に序盤はひどくて、ダイを見捨てて逃げ出したりするのだけど、師を得て努力して成長していく。ジャンプの編集者はこんなやつ早く殺せばいいのにとか言っていたみたいで笑えた。序盤はほんと読んでいて自分もそう思った。
恋愛要素もある。序盤に勝気な女僧侶戦士マァムが出てきてポップが惚れる。でもポップは恋心を明かせず、憎まれ口も叩くようになり、仲はとてもよくなっていくが恋愛とは遠ざかる。そのマァムはイケメンの魔法剣士ヒュンケルのことが気になるようになり、ポップは悔しがる。そんなポップのことを影で好きになる占い師メルル。あと勇者ダイと王女レオナとの間にもちょっと芽生えている感じ。でも基本的にこの作品は少年マンガなので、告白までは描かれるけれど返事までは描かれない。でもポップの切ない気持ちがマァムとすれ違うシーンはとても味わい深かった。
この作品の何が一番面白いかというと、やはり人と人(魔物も含む)との想いがスレ違うところだと思う。スレ違うから戦いが起こる。戦いの理由がドラマチックであったり必然的であったりするので、正直戦い自体は自分にとってはそんなに面白くないのだけど、決着がついたあとの展開に期待してしまう。でも、この作品の中で最大のスレ違いである、勇者ダイとその父親との衝突がとてもいまいちだった。この親子の存在が超越的すぎてワケわからなくなってるからというのが大きいけれど、父のわが子への思いや、子の父親への思いが、ほとんど描かれないままに親子関係を強調しているからなんじゃないかと思う。ダイには育ての親がすでにいるからしょうがないのかもしれないけれど、自分の本当の父親や母親についていままでに感じてきた思いとか、父親が自分の子についてどれだけ特別な思いを持っているのかという描写がもっとないと、読んでいる方としても想像力を働かせにくい。
文庫本にして22冊もあるとても長い話なのだけど、引き伸ばしがひどい。我慢して読んだけれど、ヒュンケルが何度でも復活したり、チェスのコマみたいな幹部が新登場したり、なかでも最悪なのが一度死んだはずのあいつが復活しちゃったりするのがうんざりした。大魔王バーンの最終形態は、展開的には長引かせ過ぎだと思ったけれど、その仕組みがとても巧妙で面白かった。最終形態があるんなら最初からそれでいけよというツッコミを退ける素晴らしい設定だと思った。
それなりに面白い話ではあるのだけど長すぎる。よほど暇な人にならマンガ喫茶で読めばいいよと勧めることが出来るけれど、普通の人にいまから勧められるような作品じゃないと思う。この作品は、連載当時に読んでいた世代だけが共有していけばいいんじゃないかと思う。
(最終更新日: 2021年1月9日 by ひっちぃ)