映画、テレビ番組、舞台芸術
ノンフィクション
“独立”する富裕層〜アメリカ 深まる社会の分断〜
クローズアップ現代 (NHK 2014年4月22日19時30分〜)
傑作(30点)
2014年7月27日
アメリカで富裕層が自分たちの住む場所を合法的に市として独立させ、自分たちの払う税金で自分たちに合った行政サービスを充実させる一方で、富裕層がいなくなって税収が減って最低限の行政サービスすら得られなくなり、貧困層がますます困窮する事態が進んでいる実態を描いたドキュメンタリー。
もう四か月以上前に放映された番組なのだけど、何か書こうと思ったまま放置していたのを思い出したので簡単に書き残しておくことにする。
アメリカで富裕層が集まって高級住宅地を築き、周りをバリケードで囲って私設の警備員を雇い、自分たちだけで閉じた社会を作っているという話は聞いていたのだけど、最近では法律をうまく使って自分たちの地方自治体を作っているらしい。
そうすることで何がメリットかというと、所得の再分配を抑えることができるというのだ。つまり、金持ちほど税金を取られ、その税金は貧しい人たちに優先的に使われるのが一般的な社会保障制度なのだけど、社会の構成員を金持ちだけにしてしまえば貧しい人たちに分配せずに済むという理屈だ。
番組ではアトランタ州のサンディ・スプリングス市の例を扱っていた。裁判所までも民営化することで行政コストを半分に抑え、浮いた分で高度な警備システムなんかを導入したのだそうだ。一方でこの市に独立されたことで予算が減り、郡の南部の貧困地区の行政サービスがみじめになり、たとえば図書館の開館時間が減るなど教育に影響し、格差が広がっていっているというのが紹介されていた。
とても衝撃的だった。
この「身勝手な市と富裕層」を弾劾する理屈はあるのだろうかと考えてみた。なにせ市として独立した以上、市の予算の中で回しているのだから何の問題もない。じゃあ市として独立したのが間違っているのかというと、その地域に住む人々が独立したいと思った以上、独立することに理がないわけではないと思う。まあそういうことを言い始めると町とか個人が勝手に独立したりしかねないし、いくら金持ちでも社会インフラを全部少数の人々で用意するのは大変だし、もし彼らが破産したときにいったいどこの地方自治体が受け入れてくれるのかという問題もある。…あ、ここでまず一つ目の理屈を見つけた。もし富裕層たちが作った市が破産した場合はどうするのか?しれっと元の鞘に収まるのだろうか?まあ住民は引越しちゃえばいいんだけど。
そもそもこの市に住む富裕層というのは、いったいどこで金儲けしているのだろうか。まさかこの市だけで経済を回しているわけではないだろうから、多くの人々はよその地域で金を稼いでいるのだと思う。じゃあ、その地域で稼いだ金については、その地域の社会保障を負担してその地域に税金を払うべきではないんだろうか。
富裕層だけが暮らす市では、たとえば清掃だとか警備員といった労働者はいったいどこから調達するのか。これについては番組でも取り上げられていたのだけど、周辺の自治体から出稼ぎにやってくる。じゃあこの人たちの社会保障についても考えなくていいんだろうか?
格差が広がって富める者がますます富み貧しいものがますます貧するようになった場合、富める者はいままでどおりに富むことができるんだろうか?貧困層が困窮するとモノが売れなくなる。周辺の犯罪が増えるので、警察力を強化する必要が出てくるし、捕まえたあとは刑務所に閉じ込めておかなければならない。暴動になったら鎮圧しなければならない。そこまでを考えているのだろうか?
この市ってまるでシンガポールのようだと思った。今のシンガポールはもともとマレーシアに住む華僑が独立して生まれた国だ。人口の三分の一が外国人労働者で、家族を呼ぶことすら許されていないらしいけれど、給料がいいので出稼ぎ労働者が喜んで来るみたいだ。苛烈な国際社会で、シンガポールのような国家が存続できているのは、世界にとってシンガポールが価値ある国家として認められているということなのだろうか。あるいは、国内外の富裕層や権力者によって強引に成立させられているからか。ブルネイとかクウェートとかみたいに。まあシンガポールには資源がないのだけど。
アメリカの富裕層ってなぜ自分たちの国であるアメリカが豊かなのか忘れちゃったんだろうか。ヨーロッパのような古い階級社会が根強く残る地域と違い、誰にでもチャンスがある(アメリカンドリーム)からじゃないんだろうか。世界がこれだけ資本主義で埋め尽くされたいま、アメリカという国家が強い必要がなくなったというのがその答えなのかもしれない。その一方で国の予算が減り、研究費まで減っていっているらしいのだけど。
番組では地方自治体の行政サービスの問題を中心に扱っていたので、地方自治体のありかただとか所得の再分配なんかの理念についての問題にはあまり踏み込んでいなかった。それはこの番組の主旨から外れるので仕方ないと思うけれど、どこかへ誘導してほしいとも思った。NHKスペシャルやEテレ(教育テレビ)の専門番組とかに。
このクローズアップ現代は、最新のテーマを真っ先に取り上げて、VTR以外は生放送しているところが素晴らしいと思う。この速報性はネットと比べても気にならないし、取材力や編集力はネットとは比較にならないほど優れていると思う。まあ資金が潤沢にあればこそなんだけど。NHKの職員の一人当たりの給料は諸手当を含めて一千七百万円以上もあるらしいし。サンディ・スプリングス市の平均年収は一千万円そこそこだというからNHKによる報道は滑稽ですらある。NHKは電波にスクランブルを掛けて希望者だけに配信する方式に改めるべきだと強く思う。まあそうすると、こういうドキュメンタリー番組が好きな自分まで損をすることになるのだけど。
もう四か月以上前に放映された番組なのだけど、何か書こうと思ったまま放置していたのを思い出したので簡単に書き残しておくことにする。
アメリカで富裕層が集まって高級住宅地を築き、周りをバリケードで囲って私設の警備員を雇い、自分たちだけで閉じた社会を作っているという話は聞いていたのだけど、最近では法律をうまく使って自分たちの地方自治体を作っているらしい。
そうすることで何がメリットかというと、所得の再分配を抑えることができるというのだ。つまり、金持ちほど税金を取られ、その税金は貧しい人たちに優先的に使われるのが一般的な社会保障制度なのだけど、社会の構成員を金持ちだけにしてしまえば貧しい人たちに分配せずに済むという理屈だ。
番組ではアトランタ州のサンディ・スプリングス市の例を扱っていた。裁判所までも民営化することで行政コストを半分に抑え、浮いた分で高度な警備システムなんかを導入したのだそうだ。一方でこの市に独立されたことで予算が減り、郡の南部の貧困地区の行政サービスがみじめになり、たとえば図書館の開館時間が減るなど教育に影響し、格差が広がっていっているというのが紹介されていた。
とても衝撃的だった。
この「身勝手な市と富裕層」を弾劾する理屈はあるのだろうかと考えてみた。なにせ市として独立した以上、市の予算の中で回しているのだから何の問題もない。じゃあ市として独立したのが間違っているのかというと、その地域に住む人々が独立したいと思った以上、独立することに理がないわけではないと思う。まあそういうことを言い始めると町とか個人が勝手に独立したりしかねないし、いくら金持ちでも社会インフラを全部少数の人々で用意するのは大変だし、もし彼らが破産したときにいったいどこの地方自治体が受け入れてくれるのかという問題もある。…あ、ここでまず一つ目の理屈を見つけた。もし富裕層たちが作った市が破産した場合はどうするのか?しれっと元の鞘に収まるのだろうか?まあ住民は引越しちゃえばいいんだけど。
そもそもこの市に住む富裕層というのは、いったいどこで金儲けしているのだろうか。まさかこの市だけで経済を回しているわけではないだろうから、多くの人々はよその地域で金を稼いでいるのだと思う。じゃあ、その地域で稼いだ金については、その地域の社会保障を負担してその地域に税金を払うべきではないんだろうか。
富裕層だけが暮らす市では、たとえば清掃だとか警備員といった労働者はいったいどこから調達するのか。これについては番組でも取り上げられていたのだけど、周辺の自治体から出稼ぎにやってくる。じゃあこの人たちの社会保障についても考えなくていいんだろうか?
格差が広がって富める者がますます富み貧しいものがますます貧するようになった場合、富める者はいままでどおりに富むことができるんだろうか?貧困層が困窮するとモノが売れなくなる。周辺の犯罪が増えるので、警察力を強化する必要が出てくるし、捕まえたあとは刑務所に閉じ込めておかなければならない。暴動になったら鎮圧しなければならない。そこまでを考えているのだろうか?
この市ってまるでシンガポールのようだと思った。今のシンガポールはもともとマレーシアに住む華僑が独立して生まれた国だ。人口の三分の一が外国人労働者で、家族を呼ぶことすら許されていないらしいけれど、給料がいいので出稼ぎ労働者が喜んで来るみたいだ。苛烈な国際社会で、シンガポールのような国家が存続できているのは、世界にとってシンガポールが価値ある国家として認められているということなのだろうか。あるいは、国内外の富裕層や権力者によって強引に成立させられているからか。ブルネイとかクウェートとかみたいに。まあシンガポールには資源がないのだけど。
アメリカの富裕層ってなぜ自分たちの国であるアメリカが豊かなのか忘れちゃったんだろうか。ヨーロッパのような古い階級社会が根強く残る地域と違い、誰にでもチャンスがある(アメリカンドリーム)からじゃないんだろうか。世界がこれだけ資本主義で埋め尽くされたいま、アメリカという国家が強い必要がなくなったというのがその答えなのかもしれない。その一方で国の予算が減り、研究費まで減っていっているらしいのだけど。
番組では地方自治体の行政サービスの問題を中心に扱っていたので、地方自治体のありかただとか所得の再分配なんかの理念についての問題にはあまり踏み込んでいなかった。それはこの番組の主旨から外れるので仕方ないと思うけれど、どこかへ誘導してほしいとも思った。NHKスペシャルやEテレ(教育テレビ)の専門番組とかに。
このクローズアップ現代は、最新のテーマを真っ先に取り上げて、VTR以外は生放送しているところが素晴らしいと思う。この速報性はネットと比べても気にならないし、取材力や編集力はネットとは比較にならないほど優れていると思う。まあ資金が潤沢にあればこそなんだけど。NHKの職員の一人当たりの給料は諸手当を含めて一千七百万円以上もあるらしいし。サンディ・スプリングス市の平均年収は一千万円そこそこだというからNHKによる報道は滑稽ですらある。NHKは電波にスクランブルを掛けて希望者だけに配信する方式に改めるべきだと強く思う。まあそうすると、こういうドキュメンタリー番組が好きな自分まで損をすることになるのだけど。
[参考]
http://www.nhk.or.jp/gendai/
kiroku/
detail02_3488_all.html