マンガ
孤高の人
坂本眞一, 原案:新田次郎, 筋書:鍋田吉郎・?野洋 (集英社 YJコミックス)
まあまあ(10点)
2014年10月11日
人とつるまず孤独に生きてきた高校生の森文太郎だったが、ちょっかいをかけてきたろくでなしの挑発に乗り、校舎の壁を素手で登りきってしまう。そんな彼の危うさと素質に目をつけた教師が、彼をウォールクライミングの世界へと誘う。それが世界でもっとも登るのが難しいとされるK2への挑戦の第一歩となるのだった。新田次郎の小説を原案にした青年マンガ。
なんか本格的なストーリーものを読みたいと思っていたらこの作品が目にとまったので読んでみた。何度も読むのを中断したけれど、御嶽山の噴火を契機にしてやっと読了できた。
実在の人物をモデルにしており、なんともともとは戦前の話なのだそうだ。元の小説はそのままの時代で書かれたが、それをこのマンガ版というか坂本眞一による作品では舞台を現代にしていて、最新の登山具と世界の山々への挑戦に置き換えている。小説のほうは自分は読んでいないので分からないけれど、題の「孤高の人」はそのままなので、孤独や単独行をテーマにしている点では共通していると思われる。
てっとりばやくストーリーを紹介すると、孤独な主人公が悪友や師や先輩や仲間たちやパートナーと出会っていくが、結局色んな理由により決別してしまい、たった一人で山を登ることになる。極限の状況下で、人の醜い面を見せられたり、死に分かたれたりして、そのたびに苦悩し、再び信じようともするが、最後には一人になってしまう。そんな主人公と冬山の物語だった。
と書くと、とても感動的で考えさせられる話に聞こえるかもしれないけれど、写実的な絵で淡々と描かれるので自分で想像して読み込んでいかないとあんまり楽しめないと思う。正直自分はこの主人公の気持ちとか苦悩に共感できなかった。理屈では多分苦悩しているんだろうなと思うんだけど、なんか普通の人とは超越した人物なせいか、少なくとも凡俗の苦悩とは次元が違っているみたいで、いまいち感情移入できなかった。
たとえば想像してみてほしい。いかにも上下社会の権化のような性格の悪い副隊長に理不尽な命令をされたとき、あなたはどう思うだろうか?普通の人なら腹が立つし、そこで爆発するか、屈辱を抱えたまま我慢することになる。しかしこの主人公は戸惑う。そして黙って従おうとする。しかし謝罪と服従はしないので疎まれる。人に従うことを拒否しているのではなく、ただボス猿への尻尾の振り方を知らないのだ。そんな不器用な主人公が、人間の臭いに振り回される。これって主人公の純朴(?)な性格を鏡にして世の中の醜さというかありのままを写して描いて見せたのだろうか。だとしたらそういう点では楽しめたけれど、物語としての魅力に欠けるように思った。
人間の物語という点で見ると、フリージャーナリストの黒沢が一番熱くって主役っぽくてよかった。特に、仲間の死の描写がすごく印象に残っていて、この作品全体を通じて一番強烈なイメージとして残った。これは絵の力が大きいと思う。山って死ぬんだなあ。でも、なぜわざわざ危険なことを自ら望んでやってしまうんだろう、っていう思いが最後まであって、読んでいてずっと引っかかっていた。
南極点を目指したスコット隊の悲劇だったら、人類初の試みだったのでまだ納得できるのだけど、そうじゃなくてすでに何人も登った山に自分も登りたいという思いはその人だけのものだから共感が薄れてしまう。この作品も最後はK2に登るところがクライマックスになるのだけど、なぜこんなことに命を掛けられるのか、よく分からなかった。なにかに命を掛けたことのない人間にはこういう気持ちって理解できないからだろうか。
冬山登山というのは金も掛かる。シェルパ(登山を支援してくれる民族)を雇ったり装備を整えたりするほかに、そもそも自分をその山に持っていくためのコストが掛かる。仕事をしていたら休まなければいけないし、そうなるとフルタイムで働くことが難しいので生計を立てるのに苦労する。スポンサーを募るのも大変だ。そうそう、この作品には、登山のためのスポンサー集めに苦労する人々の描写があって、なにげにこの作品の素晴らしい点の一つだと思う。こういった資本主義のありようを淡々と描写しているのは面白い。主人公が倉庫で働いている描写とか、研究所かなにかから測量とか観測の仕事を請け負うところなんか人生がすごく生々しくて地味にジンときた。
作者は意図的にオノマトペ(擬音)を使っていないらしい。マンガが世界言語になるにはあってはならないからだという信念から来ているとのこと。確かにオノマトペを使うと世界中の人に見てもらうにはそれぞれ各国語に翻訳しなければならなくなるのだけど、オノマトペ自体は世界的に受け入れられているし、アメコミにだってある。見てみると効果線もない。止め絵の連続。ちょっと読みづらい。心象風景のような超現実的な描写があって、氷山のスケールを伝えるためか高層ビルに置き換えて描いてみせているところは見事だと思ったのだけど、登場人物の心理描写については意味不明だった。自分が論理的すぎてこういう感覚的なものが受け入れられないからなのかもしれないけれど。
ちょっとこれは上級者向けの作品だと思う。特に序盤で読者を引き込んでいく展開やドラマチックな事件も描かれるけれど、半分以上は淡々と描写を積み重ねていって読者の受け止め方に任せて進んでいってしまう。楽しめる人には楽しめるだろうけれど、読んでフーンで終わってしまう人も多そう。
なんか本格的なストーリーものを読みたいと思っていたらこの作品が目にとまったので読んでみた。何度も読むのを中断したけれど、御嶽山の噴火を契機にしてやっと読了できた。
実在の人物をモデルにしており、なんともともとは戦前の話なのだそうだ。元の小説はそのままの時代で書かれたが、それをこのマンガ版というか坂本眞一による作品では舞台を現代にしていて、最新の登山具と世界の山々への挑戦に置き換えている。小説のほうは自分は読んでいないので分からないけれど、題の「孤高の人」はそのままなので、孤独や単独行をテーマにしている点では共通していると思われる。
てっとりばやくストーリーを紹介すると、孤独な主人公が悪友や師や先輩や仲間たちやパートナーと出会っていくが、結局色んな理由により決別してしまい、たった一人で山を登ることになる。極限の状況下で、人の醜い面を見せられたり、死に分かたれたりして、そのたびに苦悩し、再び信じようともするが、最後には一人になってしまう。そんな主人公と冬山の物語だった。
と書くと、とても感動的で考えさせられる話に聞こえるかもしれないけれど、写実的な絵で淡々と描かれるので自分で想像して読み込んでいかないとあんまり楽しめないと思う。正直自分はこの主人公の気持ちとか苦悩に共感できなかった。理屈では多分苦悩しているんだろうなと思うんだけど、なんか普通の人とは超越した人物なせいか、少なくとも凡俗の苦悩とは次元が違っているみたいで、いまいち感情移入できなかった。
たとえば想像してみてほしい。いかにも上下社会の権化のような性格の悪い副隊長に理不尽な命令をされたとき、あなたはどう思うだろうか?普通の人なら腹が立つし、そこで爆発するか、屈辱を抱えたまま我慢することになる。しかしこの主人公は戸惑う。そして黙って従おうとする。しかし謝罪と服従はしないので疎まれる。人に従うことを拒否しているのではなく、ただボス猿への尻尾の振り方を知らないのだ。そんな不器用な主人公が、人間の臭いに振り回される。これって主人公の純朴(?)な性格を鏡にして世の中の醜さというかありのままを写して描いて見せたのだろうか。だとしたらそういう点では楽しめたけれど、物語としての魅力に欠けるように思った。
人間の物語という点で見ると、フリージャーナリストの黒沢が一番熱くって主役っぽくてよかった。特に、仲間の死の描写がすごく印象に残っていて、この作品全体を通じて一番強烈なイメージとして残った。これは絵の力が大きいと思う。山って死ぬんだなあ。でも、なぜわざわざ危険なことを自ら望んでやってしまうんだろう、っていう思いが最後まであって、読んでいてずっと引っかかっていた。
南極点を目指したスコット隊の悲劇だったら、人類初の試みだったのでまだ納得できるのだけど、そうじゃなくてすでに何人も登った山に自分も登りたいという思いはその人だけのものだから共感が薄れてしまう。この作品も最後はK2に登るところがクライマックスになるのだけど、なぜこんなことに命を掛けられるのか、よく分からなかった。なにかに命を掛けたことのない人間にはこういう気持ちって理解できないからだろうか。
冬山登山というのは金も掛かる。シェルパ(登山を支援してくれる民族)を雇ったり装備を整えたりするほかに、そもそも自分をその山に持っていくためのコストが掛かる。仕事をしていたら休まなければいけないし、そうなるとフルタイムで働くことが難しいので生計を立てるのに苦労する。スポンサーを募るのも大変だ。そうそう、この作品には、登山のためのスポンサー集めに苦労する人々の描写があって、なにげにこの作品の素晴らしい点の一つだと思う。こういった資本主義のありようを淡々と描写しているのは面白い。主人公が倉庫で働いている描写とか、研究所かなにかから測量とか観測の仕事を請け負うところなんか人生がすごく生々しくて地味にジンときた。
作者は意図的にオノマトペ(擬音)を使っていないらしい。マンガが世界言語になるにはあってはならないからだという信念から来ているとのこと。確かにオノマトペを使うと世界中の人に見てもらうにはそれぞれ各国語に翻訳しなければならなくなるのだけど、オノマトペ自体は世界的に受け入れられているし、アメコミにだってある。見てみると効果線もない。止め絵の連続。ちょっと読みづらい。心象風景のような超現実的な描写があって、氷山のスケールを伝えるためか高層ビルに置き換えて描いてみせているところは見事だと思ったのだけど、登場人物の心理描写については意味不明だった。自分が論理的すぎてこういう感覚的なものが受け入れられないからなのかもしれないけれど。
ちょっとこれは上級者向けの作品だと思う。特に序盤で読者を引き込んでいく展開やドラマチックな事件も描かれるけれど、半分以上は淡々と描写を積み重ねていって読者の受け止め方に任せて進んでいってしまう。楽しめる人には楽しめるだろうけれど、読んでフーンで終わってしまう人も多そう。