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弱虫ペダル 17巻の途中まで

渡辺航 (秋田書店 少年チャンピオン・コミックス)

いまいち(-10点)
2014年10月26日
ひっちぃ

マンガやアニメやゲームなどが大好きで、小遣いを節約するために秋葉原まで自転車で往復100キロ近い道のりをママチャリで頻繁に通っていた高校生の小野田坂道だったが、知らず知らずのうちに自転車をこぐ力がついており、自転車競技部に見いだされて入部することになる。背が低くてメガネでオタクな少年が、競技自転車の世界でインターハイなどを戦っていく。少年マンガ。

2013年の秋にアニメ化されて現在も2期を放映中なのだけど、その前に職場のマンガ好きの女性が勧めてくれたので読んでみた。あーこれは微妙だなーと思いながら、話のタネになりそうだからとダラダラと読み進めていったけれど、途中で限界が来たので読むのをやめた。

魔法少女ものアニメの主題歌を歌いながら自転車をこぐ主人公の姿がのっけから痛い。でもアニメに関わるエピソードはないという。こんな痛い少年が自転車競技で力を発揮するというギャップだけ見せたいんだろうなあ。

自転車競技ってのは集団戦で行われる。六人一組で戦う。それぞれ役割があって、平地で飛ばすのが得意なスプリンター、山道を登るのが得意なクライマー、万能型のオールラウンダーなんてのがある。自転車に限らず地球上で高速移動するには空気抵抗の問題があるため、一人が風よけになって後続のチームメイトに楽をさせるなんていう戦術があり、どの地形で誰が一番大変な先頭を務めるかというので役割が重要になってきたり、最終的にはチームのうちの誰かが最初にゴールすればいいので多段ロケットのような作戦が用いられたりする。

自転車というと本当にスポーツなんだろうかと疑問に思う人もいるだろうけれど、自転車という道具を使っているだけで結局人間の力で走っていることから体力はもちろん筋力や運動神経が必要になる。もちろん頭も使うし才能とかセンスなんてのもいるだろう。というのを頭では分かっているのだけど、テニスに比べて卓球があんまりスポーツに思えないのと同様に、自転車もまた感覚的に他のスポーツと比べて素直に感心できないところがある。まあこれを言ってしまうと、スポーツよりも格闘技、格闘技よりも喧嘩、みたいな極論に走ってしまうことになるので、決められたルールに従って人間が持てる肉体を駆使して戦う競技として見るべきだし、この作品では自転車競技がいかにスポーツとして素晴らしいかというのを描いてみせている。自分は正直、読んだ後も自転車競技が好きになることもなかったし興味もそれほどわかなかったけれど、こういう一つの世界があることは読んでいてそれなりに楽しむことができた。

同世代のライバルが二人現れる。中学の頃から自転車競技をやってきたクールでイケメンのエリートくんと、関西から転校してきた絵に描いたような関西人の気さくな少年。…

うーん。この調子で登場人物やストーリーを紹介していくのも苦痛なので、なぜこの作品が自分にとってつまらなかったのかを、大体同時期にアニメ化されて毎週楽しみにしていた勝木光「ベイビーステップ」との比較で説明していきたいと思う。

「ベイビーステップ」の主人公はガリ勉でノート魔の少年なので、試合のときに何がいけなかったのかをその場その場で理屈で分かりやすく自問自答したりコーチや観客が説明してくれたりするのだけど、「弱虫ペダル」の場合は昔のスポ根ものに近いので精神論の比重が大きく、大した事とは思えないことで優劣が決まったり、それほど中身がないのに展開がやたら引き延ばされて読んでいてうっとうしかったりした。

「ベイビーステップ」の主人公は自分の弱点を克服するために自分を鍛えたり作戦を考えたりするのだけど、「弱虫ペダル」の主人公は元々すごいポテンシャル(潜在力)を持っているので自転車の基礎を知ることで強くなる。主人公の成長というよりは自転車競技のイロハの紹介が中心になっている。きつい合宿をこなして鍛えられるのだけど、その合宿というのも無茶な距離を走るというやはり精神論がメインのものだし。

選手の役割とかタイプがあるという話をしたけれど、デブで筋肉お化けの平地が得意なスプリンターの先輩とか、クネクネこいで山道を駆け上る手足の長いクライマーの先輩などといった個性的な選手を出しながらも、御堂筋くんという超万能なやつを出しちゃって、こいつなんでもありかよとしらけた。

主人公以外の登場人物の比重が結構高く、諸先輩やインターハイなんかだとライバル校の選手までクローズアップしてドラマを盛り上げるのだけど、読んでいてほんとどうでもよく感じてうっとうしかった。たぶんこれは自分がこの作品の登場人物を好きになれていないからだと思うのだけど、なんか魅力に乏しいんだよなあ。この作品、アニメ好きな層からは「腐女子向け」つまり女性の視聴者が作中の登場人物の男たち目当てで楽しむような作品だと見なされているらしいのだけど、つまり逆に言えば男性の視聴者が登場人物の男どもを見てもそれほど楽しめないほど底が浅いと思われていることになる。登場人物の心理描写がそこそこあって、過去の出来事を引きずっているなど奥行きのある人物描写が行われているのだけど、どうしてこんなにも楽しめないのだろう。演出が悪すぎるからだろうか。

書いていて思ったのだけど、主人公に魅力がなさすぎる。だから、ライバルを始めとした登場人物たちが引き立たないんだと思う。レースがあったり合宿があったり部内で競争があったりするのだけど、どれも面白くない。結果が気にならない。レースで主人公のチームが勝ってほしいと思えない。それはすべて、突き詰めると主人公に魅力がないからだと思う。そのせいなのか知らないけれどヒロインも空気だし。

主人公の強い意志みたいなものが初めて出るのが「仲間を見捨てない」ことなのだけど、いったい急にどこからこの強い意志が生まれたのだろう。本当に唐突だった。主人公のような弱いとされる人間が持っていそうなポリシーだからだろうか。「仲間を見捨てない」という意志を見せるなら、そこに至るまでの過去を描かないとダメで、主人公がかつて仲間を見捨てたり見捨てられたりした経験なんてものがないと読んでいて気持ちが入らない。

主人公がレース中にアニメソングを歌うシーンがあって、先輩にも歌わせるのだけど、こいつはあくまでアニメが好きなだけであって、別に自転車に乗りながら歌うのが好きなわけじゃないと思う。読んできて結局こいつは自転車が好きなんだろうかという根本的な問題にぶつかった。

もしこの作品に正しい展開というものがあるとすれば、まず自転車が好きになる動機付けがあり、レースを戦っていくためのモチベーションを獲得していかないとダメだと思う。こいつは最初、自転車なんて単なる趣味の手段でしかなく、誰かとの勝ち負けに興味のないオタクなのだから、そのままじゃスポ根の主人公なんて勤まるはずがない。星飛馬みたいに親に強制されるわけでもないし。それなのに、せっかく今泉とか鳴子とかの同世代の仲間がいても、主人公がいつまでも仲間に影響されず超然としつづけている。

でもそこそこ売れているみたいなんだよなあ。ほんとよくわからない。

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