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嘘だらけの日米近現代史

倉山満 (扶桑社 扶桑社新書)

傑作(30点)
2014年12月27日
ひっちぃ

アメリカの建国神話の欺瞞と、共産主義者に翻弄されるなどして迷走した外交、世界大戦と日本占領時の実像と非道、現代に入ってからの右往左往や虚栄を、憲政史が専門の歴史学者・倉山満が暴いた本。

YouTubeに上がっているCGS「ゆっくり学ぼう!日本近現代史」という動画シリーズを見て、講師の倉山満の言っていることと立ち居振る舞いがとても面白く、著書を読んでみたくなったので動画で紹介されていたこの本をヨドバシドットコムで購入して読んでみた。

この本を読んで一番驚かされたのは、第一次世界大戦までのアメリカが実はあまり強くない国だったことだった。

まず「アメリカ合衆国」としての建国は実は南北戦争終結後なのだと著者は主張している。それまではEUみたいに国の集合体だった。これはどういうことかというと、南北戦争というのは実は北部の国々と南部の国々とが戦った普通の戦争であって、国の内部で争う内戦ではなかったということだ。ではなぜ内戦ではないと言い張ったのかというと、そうでないと北部の国々が侵略戦争をしたことになるからだという。南北戦争が終わってからリンカーンが各州の離脱を認めないようにしたことでアメリカ合衆国が一つの国として統一されたと言っている。

「建国前」についてもボロクソに言っている。イギリスから逃げてきた清教徒が建国したのではなく、こいつらは自活能力がなくてインディアンから食べ物を恵まれて生き延びただけだとか、実際の入植はあとから開拓目的で来た人々が行っただとか、独立戦争はゲリラ戦でみじめに戦っただとか、勝ったのはフランスのおかげだとか色々。

ペリーが日本に来た頃のアメリカもそんなに国力がなかったのだという。黒船が四隻も来たというが、幕府は事前に情報を掴んでいて浦賀で大砲の演習をして威嚇したらしく、ペリーが自分でビビッたという記録を残しているという。それに当時のアメリカにはなんと海軍がなくて、単なる艦隊だったと言っている。

だから日本がペリーの黒船によって強制的に開国させられたというのはウソらしい。というのも、当時のアメリカの国力は新興国だったので、本当に強力な他の列強と不平等条約を結ばされて開国させられる前に新興国のアメリカと先に条約を結んでおけば、一応国家として認められて植民地にならずに済むという狙いがあったのだという。

でもじゃあなぜその大して強くなかったアメリカとわざわざ不平等な条約を結ばなければならなかったのかというのが分からない。完全に対等な条約は無理だったとしても、もっとましな条約を結べたはずじゃないだろうか。著者は当時の日本とアメリカは列強から見ると互いに興ったばかりの新興国であり友好関係を結んでいたというけれど、その後の歴史を見ると白人とアジア人との間の壁があったんじゃないだろうか。アメリカに開国させられたわけではなかったのかもしれないけれど、一番マシな相手と不本意な外交をしなければならなかった事実に変わりはなかったんじゃないかと思った。私の尊敬する岸田秀の言葉を引いて「アメリカに強姦された」というのは間違いだと言っているけれど、レイプ集団に詰め寄られて仕方なく一番おっとりしたアメリカを相手に選んだだけなんじゃないかと思う。まあそれでも、その後の日米が仲良くやったこと、特に日露戦争の講和時にセオドア・ルーズベルトが当時としては日本が有利な条件で取り持ってくれたことが日米にとっての「坂の上の雲」だったと言っているのはよく分かった。

ここから徐々に仲が悪くなっていく。ワシントン会議で日本の海軍力をアメリカやイギリスの六割か七割にしろと言われる話が出てくるのだけど、その理由が「日本は強すぎるから」というのはさすがに無理があるんじゃないだろうか。確かに日露戦争で日本はロシアに大勝したけれど、当時の軍艦は大体イギリス製だったし、第二次世界大戦前の時点でアメリカだけでなくイギリスも日本の実力をナメていたのは事実だ。日本はアジアと西太平洋だけにしておけよという意図があったと考える方が妥当なんじゃないだろうか。

で細かい内容は面倒なので飛ばして第二次世界大戦の話に進むと、筆者は大日本帝国軍世界最強説を唱えている。最初そんな馬鹿なと思いながら読んでみると、だんだん納得できるようになってきた。さすがに工業生産力に桁違いの差があったり資源や科学技術力にも明確な開きがあったりしたのは確かなのだけど、そんなものを超越した強さを大日本帝国軍は持っていた。砲弾の命中率に三倍の差があった。つまり攻撃が三倍当たった。だからアメリカ海軍は艦隊戦を避けて空母と航空機で戦った。この本には書かれていなかったけれど、庶民の教育水準が高かったからだと思う。ただ、マスタングやB-29といった高性能兵器が生み出され、共通規格による大量生産で特に護衛空母(簡単に言うと軽空母)を週に一隻建造していたし、なにより著者が挙げているように軍幹部が優れていた。それに比べて日本はそもそもアメリカと戦う必要がなかったし場当たり的に戦い過ぎていた。

陸軍について言うと、この本じゃなく「じっくり学ぼう!日本近現代史」のほうで解説していたけれど、陸軍は中国大陸で勝って勝って勝ちまくった。中国軍が弱かっただけだというけれど、当時の国民党軍はドイツの軍事顧問団に指導されて連合国から近代化装備をもらっていた。朝鮮戦争でアメリカ軍(国連軍)が共産党軍(義勇軍)に押し戻されたのは事実だし、沖縄や南西諸島での戦いもアメリカ軍の圧倒的な数的優位にかかわらず同等の損害を強いたことからも明らかだ。一番笑ったのは、当時ソ連最強の将軍ジューコフがインタビューでいままでで一番苦しかった戦いはと聞かれてハルハ河つまりノモンハン事件の舞台を挙げていること。

ちょっと違う話を挟ませてもらうと、今の日本が骨抜きになったかといえばそういうわけではないと思う。「社畜」という言葉に象徴されるように、日本人は強い軍隊を編成できる資質を持っている。…まあ今の時代にとっても個々の日本人にとってもそんなものはあまり必要ないのだけど。もちろんまったく必要ないわけではない。自衛隊は練度が高くて個々の部隊でならアメリカ軍に勝るとも劣らないと言われている。

戦後にも四割ほどの紙面を割いていて、GHQは落ちこぼれの集まりだとか、共産主義者に浸透されていてスターリンを利していただとか、そもそも第二次世界大戦はスターリンだけが得をしていてアメリカにとっても実質的に敗戦だったとか、日本人はケネディ一族が好きだけど全然大したことないなど歴代大統領についても通説と実際との開きをこれでもかと解説している。キューバ危機でアメリカもトルコの核ミサイルを引き上げただとか、各地の紛争に首を突っ込んでは失敗し続けただとか色々書いている。

ここで批判しておくと、個々の事象についての記述が少なすぎる。新書だからなんだろうけど、いい値段(760円+税)する割に字が大きくてボリュームが少なく、すぐ読み終わってしまった。YouTubeの動画でこの本の紹介をしていたから買ったと言ったのだけど、もっと詳しく色々書いてくれているのかと思ったら全然大したことがなかった。それどころか動画で話していたことでこの本には書かれていないなんていう事柄がちらほらあって、いまこうして内容を紹介していてびっくりした。この本は「じっくり学ぼう!日本近現代史」の副読本にはなっていないので、それを期待していた自分には少し拍子抜けだった。しかし、国際社会の真実についての入門本ということであれば、とても面白くて興味を引く内容だと思う。この本を読んで面白く感じたのなら逆にYouTubeにあるCGS「じっくり学ぼう!日本近現代史」を見ていくといいと思う。

最後、日本は独立国なのか?という問題提起をしている。筆者は先の震災で在日アメリカ軍が勝手に軍を動かして仙台空港に降りたって復旧活動をしたことについて、アメリカが日本を独立国だと思っていない証拠だと言っている。本当にその通りだと思う。この本では指摘していなかったけれど確かYouTubeのほうでは首都東京上空の管制権を手放していないことも挙げていたと思う。この問題については自分も色々思うところがあるのでそれだけでつらつらといっぱい書けるのだけど、今後なんとかしないといけない問題であることは確かだと思う。

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